04-1


 秘書室に一人になってから、30分が過ぎた。

 段々と陽も暮れ始めて、外は間もなく夜を迎える。

「……なんだ、お前一人か?」

「!」

 不覚、だと茉里は我ながら思ってしまった。

 仕事に熱中していたとは言え、人の気配に気づかないとは自分の感覚も落ちたものだ。

 そんなことを思いながら、茉里は視線を上げて声の主を見る。

「相変わらずの無愛想ぶりだな」

 見下すような視線で、口元を浅く上げていた。

 社長も相変わらずですね、と喉にまで出かけていたが呑みこむ。

「お疲れさまです」

 無難な挨拶をして、茉里はそれでも変わらぬ表情でいた。

 その態度に、金剛寺は特に不機嫌になる様子もなく茉里を見つめる。

 視線がぶつかったまま、互いに口は開かない。

「……まるで、お人形さんだな」

 ふ、と鼻で笑って金剛寺が低く呟く。

「私がですか?」

「お前以外にいないだろ。感情もなく、表情も変わらない。改善されたとは思えないな」

「……」

 確かに、初日に改善しますと口にしたのは茉里の方だ。

 そこをつっこまれては、返す言葉もない。

「せめて、愛想笑いくらい覚えろ。社内、社外に関わらず人間関係に苦労するぞ。まして、お前は試用期間中とは言え秘書なんだしな。営業部並みにしろとは言わないが、それも務めだ」

「はい」

「前途多難、だな。まぁいい…茶を持ってきてくれ」

 言い残し、金剛寺は社長室へと入って行く。

 見送ったあと、茉里は給湯室に向かいお茶を入れて社長室へと赴いた。

「お茶が入りました」

「あぁ」

 一言だけ返し、金剛寺は書類を眺めたままだ。

 邪魔にならないうちに、茉里は一礼して社長室を出て行く。

 時刻は、終業時間に迫っていた。