ガソリン内燃機関による自動車は各国で様々な説があるが、現物が残っており記録もしっかりしているという点で、1885年にドイツのカール・ベンツとゴットリーブ・ダイムラーによるものが通説とされている。蒸気自動車より約1世紀遅れて誕生したガソリン自動車だが、当初のガソリンエンジンは、騒音、振動、燃焼効率など、いずれをとってもきわめて不完全で、信頼性の乏しいものであった。20世紀初頭までは、自動車にはガソリンのほかに蒸気自動車や電気自動車(近年発明されたように思われがちだが、実は、18世紀後半に発明されている。)が存在し、どの動力が主流になるかは分からなかったといわれていた。ちなみに1895年のアメリカでは約3700台の自動車があったが、2900台が蒸気自動車、電気自動車が500台、ガソリン自動車はわずか300台に過ぎなかったとなっている。

ⅱ.ガソリンエンジン対蒸気エンジン

ガソリンエンジンは始動や整備メンテナンスが簡単であり、比較的少ない燃料で長距離走行が可能なこと、エンジンが相対的に軽量であることなどの優位性があったが、他方で変速装置その他の操作が複雑だった。また今日でも大問題となっている騒音と排気ガスといった欠陥が当時はひどく、蒸気エンジンの信頼性を考えるとガソリンエンジンが主流になる要因はほとんどなかったのである。当時の蒸気エンジンは既に発明より一世紀を迎え小型化も進み、騒音とはまったく無縁のもので、始動に少々時間(当時の始動時間は2分くらい)がかかっても、複雑なトランスミッションがないためギアチェンジをする必要もなく、スロットルレバーだけの操作による運転はスムーズで且つ加速性も強かった。燃料も石炭ではなく各種の油を使用することができるようになっていた。したがって現代の自動車がガソリンエンジン一辺倒になってしまったことに疑問視している技術家も少数ではあるが存在する。電気自動車については現在ではエコカーとして注目を集めているが、当時のものは蓄電池の性能と高速走行及び長距離走行が他動力と比べて問題にならないので論外だが、蒸気自動車については1920年代までスタンレーやホワイトといったメーカーが製造を続けていた。騒音と排気ガスが大きな問題となってきた最近、電気自動車や燃料電池自動車とともに、蒸気自動車を見直す動きも一部ではあるが存在しているゆえんである。半世紀ほど前の1953年のシカゴクラシックカーレースでスタンレー社の蒸気自動車が優勝しているくらいだから、性能的にはガソリン車と比べてもそう遜色もなかったのだろう。しかし、蒸気自動車にはその後大きな繁栄を迎えるには致命的な欠陥があった。均質な水質の軟水をボイラーに供給しなければならないことである。硬水 だとすぐ「水垢」がたまりボイラーが壊れてしまうのである。自動車の発展を担ったアメリカ(アメリカのガソリン自動車の誕生は1893年のデュエリ兄弟によるものが最初とされる。)のような大陸国家で均質の水をどこでも得ることは不可能に近い。水そのものの獲得やボイラーの整備が必要で、これが素人にはできなかったことも、蒸気自動車が性能的にはガソリン車より優れていながら、衰退していく大きな原因となった。