遊撃 / 映画監督 中島貞夫 | Get Up And Go !

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映画監督の中島貞夫さんが、6月11日に肺炎のため京都市内の病院で亡くなられました。88歳。


現在、CS放送の「時代劇専門チャンネル」で中島監督の追悼企画が放送されています。最近は映画関連の記事はやめているのですが、中島監督の映画は好きなので少しでも作品に興味を持ってくれる方がいたなら、という事で。

放送されているのは2本の映画です。
中島監督の遺作となった時代劇『多十郎殉愛気』(2019年:放送日 9/16, 9/24 )と、その作品のメイキング映像を中心にして、監督とスタッフ、役者さんたちの映画作りの過程を追ったドキュメンタリー 『遊撃 / 映画監督 中島貞夫』(2022年:放送日 9/16, 9/24, 10/14, 10/29 )の2本です。

ドキュメンタリーのほうはメイキング映像に加え、監督のかつての仕事仲間たち、高田宏治さん(脚本家)、倉本聰さん(脚本家)、 荒木一郎さん (俳優・歌詞)、三島ゆり子さん(女優)等、親交の深い人たちのインタビューを交えて、中島監督の半生や映画に対する熱い思いに迫っていくという内容です。





中島監督は千葉県の出身で東京で育った人ながら、1958年 東映入社後は京都撮影所に配属され、助監督を経て監督となったひとです。67年にフリーとなった後も東映からの依頼によって作品を作り続けてきた人です。

近年は日本映画の行く末を案じて、ひとりの映画人としてなんとか力になりたい、とりわけ衰退の一途をたどる時代劇をもう一度盛り上げたいという強い思いがあったようです。

『遊撃 / 映画監督 中島貞夫』の中では、現場のスタッフや俳優さんたちとの、活気ある映画作りの場面が映し出されます。 監督も80歳を超えているとは思えない生き生きとした表情をしています。大勢の人間が集まってひとつのものを作り上げていく、いわゆるもの作りの現場というのは、ほんとにいいものだなと思わせてくれます。


中島貞夫 × 渡瀬恒彦
僕の好きな中島監督作品は偏っています。巨匠と言われるようになった頃の作品、例えば『極妻』作品は1本しか観ていないし、大御所のように言われる時代劇もほとんど観た記憶がないんですよね。菅原文太主演の映画版『木枯らし紋次郎』ぐらいか。

好きなのは、70年代に低予算で作られていたアウトロー映画です。 東映の方なので、やくざ映画が多かったわけですが、中島監督はドキュメンタリーからポルノまで、会社から依頼のあった企画は何でも作っています。もし強引にジャンル付けするとしたら "アナーキー映画" といったところでしょうか。 現在 映画タイトルにも著書名にも、あるいは名画座の特集上映などでも "遊撃" という文字が頭につくのはそういった理由からでしょう。

その中でも、当時 ”狂犬” と言われていた俳優、渡瀬恒彦と組んでアウトローを描いた作品は最高のものです。僕はその時代、そいういった映画に足を運ぶにはまだ子供だったのですが、ずっとのちに名画座の渡瀬恒彦の特集上映に足を運ぶたびに、面白いのは中島監督作品であることに気づき、その時代の作品は後追いでほとんど観ました。それだけでは足りず、松方弘樹、菅原文太、千葉真一、といったスターたちと組んで作った映画も追いかけていった感じでしょうか。





中島×渡瀬の作品としては 『狂った野獣』(1976)をベスト作品にあげたいです。 これはエンターテイメント作品としては最高に面白い映画です。

話としては、宝石強盗に成功した渡瀬がバスで逃亡中に、2人組の銀行強盗犯(川谷拓三、片桐竜次)によってバスがジャックされてしまい、最初は対立をしていた二組も、互いの利益のために協力して逃亡するといった、荒唐無稽とも言える内容。

『遊撃 / 映画監督 中島貞夫』の中で高田宏治さんが、中島監督は「荒唐無稽のストーリーのほうが力を発揮する」と仰っていましたが、ほんとそう思います。低予算ゆえに、それを補うためのアイデアが豊富であったり、低予算ゆえに出演者たちのエネルギーがむき出しの形で見えたり。そして渡瀬恒彦。

バスを自ら運転するために大型免許を取得し、バスの転倒シーンもスタントを使わずに自ら運転。そして演技がまた凄い! 鋭い眼光で相手を睨みつけ凄んだときの迫力は、ホンモノの方のようです。 当時、映画界で一番ケンカが強かったという伝説は、おそらくは本当のことなのでしょう。

その日の撮影が終わると、ピラニア軍団と言われた役者たち(川谷拓三、室田日出男、片桐竜次、小林稔侍、志賀勝、橘麻紀 等の斬られ役・悪役俳優) に、その親分格の渡瀬さんも加わって、中島監督の家に集まって酒盛りをしていたそうですが、中島監督というのはなんとも懐が深いというか、器が大きいというか。

中島監督が渡瀬恒彦を語った、貴重なYouTube番組が残されているので、興味のある方はそちらを。





渡瀬恒彦さんは2017年3月14日に亡くなり、同年5月に池袋の新文芸坐にて追悼の特集上映がありました。僕の残している映画ノートによると、初日の20日に『狂った野獣』と『暴走パニック大激突』(深作欣二・監督)の2本が上映され、上映後に壇上にて中島監督と片桐竜次さん、橘麻紀さんによるトークショーが行われています。3人がそれぞれに、昔の東映の仲間・渡瀬さんとの想い出を語っていました。

『狂った野獣』にも出演されていた片桐竜次さんというのは、現在は『相棒』の内村刑事部長役でお馴染みの方です。警視庁の幹部も、昔はただのチンピラだったんですね (゜o゜)

この時だったと思うのですが、上映後にロビーでひとりでくつろいでいた中島監督にサインをいただきました。くつろいでいるし、遠慮しないといけないのかなとも思いましたが、持っていった著書にサインをお願いすると快く応じてくださり、「新作楽しみにしています」と言うと、顔が綻んで大きな声で話しだし、「そうなんだよ。俺も楽しみにしているんだよ」という声がロビーに響いたためか、他にも数人並び始めました。

みんな著書 持っているんですよね。そしたらロビーにアナウンスが入り、「今、ロビーにて中島監督のサイン会を行っております。 売り場にて監督の著書も販売しております」だって。

ファンと会話する監督は嬉しそうだったので、今思えば良いことをしたのだな、と思っています。

中島監督、ありがとうございました!