ブライアン・ウィルソン:約束の旅路 | Get Up And Go !

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ブライアン・ウィルソン 約束の旅路(原題:Brian Wilson : Long Promised Road) (2021/アメリカ)
● 監督:ブレント・ウィルソン
●字幕監修:萩原健太
〇 出演:ブライアン・ウィルソン / ジェイソン・ファイン / エルトン・ジョン / ブルース・スプリングスティーン / ドン・ウォズ / リンダ・ペリー / アル・ジャーディン / ジム・ジェームス



ビーチ・ボーイズの創設メンバーであるブライアン・ウィルソンのドキュメンタリー映画です。先日、立川のKino cinema にて観てきました。現在公開中です。





ブライアン・ウィルソンの栄光と波乱の人生については、これまでいくつか映像作品化され、書籍でも発刊されています。わかりやすくドラマ化された作品としては、2015年にジョン・キューザック主演で劇映画化された 「ラブ & マーシー 終わらないメロディ」 という作品があります。 今回はドキュメンタリーとして制作されたものですが、作品のほとんどの部分がインタビューと言う形でブライアン自身によって語られていて、そこにこの映画の価値があります。つまりはブライアン自身が語る姿を、後世に残る形で作品化してくれたことです。

ブライアンは現在も精神疾患 (妄想型統合失調症だそうです)を抱えていて、そういったことからインタビューを苦手としているそうですが、今回は形式的なインタビューと言う形ではなく、旧知の仲であるローリング・ストーン誌の記者・ジェイソン・ファインが運転する車で、ゆかりの西海岸をふたりでドライヴしながらあれこれと語り合うという形がとられています。カメラは車内に設置されてはいますが、精神に不安を抱えるブライアンにできるだけリラックスして語ってもらおうというわけですね。 これが上手くいったんですね。いいアイデアであったと思います。





1999年、ソロ・アーティストとして精力的にライヴ活動を開始したブライアンの来日公演を観に行くことが出来ました。 幸運にも前から10列目の席を取れたのですが、その時ブライアンの表情をはっきりと確認することが出来ました。無表情で虚空を見つめながら歌っている姿を。 「やはり精神的には完全ではないんだな」 と見ていて不安になったのを憶えています。

今回のインタビューでも時折そういった表情は見られますが、言っている内容は確かで、きわめて正常であることがわかり安心しました。驚いたのは、レコーディング時のブライアンです。 的確に演奏者たちをコントロールしていて、ずっと天才と言われてきた、まさにそのブライアン・ウィルソンだったからです。ファンとしては、この場面を見れただけでも映画を観てよかったと思ったのではないでしょうか。僕もそのひとりですが。





映画の中では、ブライアンがビートルズの 『ラバー・ソウル』 に衝撃を受け、それが 『ペット・サウンズ』を作る原動力となったという、有名なエピソードも語られています。 『ペット・サウンズ』 を聴いたポール・マッカートニーも負けじと 『サージェント・ペパーズ ~ 』を作るに至ったわけですが。 これはブライアン対ポールという、ロック史に残る海を隔てたライバル物語として知られています。

重要なのは、ポールにはジョン・レノンという最強のパートナーがいて、さらにはジョージ・マーティンという2人のアイデアを具現化する優秀なプロデューサーがいたのに対し、『ペット・サウンズ』の頃のビーチ・ボーイズは、ほぼブライアンひとりの才能に負うところが大きかったということです。父親やレコード会社からのヒット要求というプレッシャーに対して、ほぼ一人で向かっていったことも、ブライアンが精神的に破綻をきたした一因であるとも言われています。



THE BEACH BOYS / God Only Knows (1966)
ポール・マッカートニーも “最も創造的” と絶賛した曲です。



映画では他にも面白いエピソードも出てきますが、ネタバレになってしまうので止めておきます。 印象に残ったのは、ブライアンが、メンバーであるカール・ウィルソンとデニス・ウィルソンという2人の弟に対しての深い思いを語る場面です。

心に病を抱えていたブラインにとっては、ふたりが先に逝ってしまったということが、どれだけの悲しみをもたらしたことかと。幼い頃から父親による虐待を受けていたブライアンにとっては、ふたりの弟の存在が支えにもなっていたわけで。




BRIAN WILSON with JIM JAMES / Right Where Be Long
今回の映画のための新曲。ジム・ジェームスと共作。



ブライアン・ウィルソンは今年6月、80歳となりました。映画での表情を見ていて驚くのは、厳しいショー・ビジネスの世界を生き抜いてきたひととは思えない無垢さにあふれた表情です。宝石とも言える数々の名曲を生み出してきたブライアンの才能は、まだまだ枯渇してはいないという事を確信しました。