今回は会社経営者のKさんからの相談です

以下K

「こんにちは金重さん、今回は私の悩みに答えてくれますか。

実は50歳になって、体調に不安を感じています。

若いころは徹夜をしても平気だったし、多少具合が悪くても無理が効いたのが、ここの所落ち続ける体力に不安を感じています。

これでも健康には気をつかって、いろいろな事を試したりしているんですよね。

たとえばトレーニングをしたり、お酒をやめて食事に気を付けたり、最近ではサプリメントを飲んだり（ビタミンミネラル類）

それで一時は調子いいかなって思っても、しばらくするとまた落ち行く体力を強く感じる。

金重さんは、生まれたときから思うように動かない自分の体と向き合って、今までリハビリとか色々な努力をし続けてきたと思うんだけど、そういう自分の思い通りにならない体とどう向き合ってきたのか、心持ちなどなにかアドバイスがあれば教えてください。」

金重

「そうですね。僕も４０歳になり、思うように動かないところも増えてきた気がします。

障碍者の先輩方も４０歳をこえてからガクッと状態が悪くなって、いままではなんとか歩けていたのに、転倒して車イスになったりとか寝たきりになったりとか。

私もそういう先輩方と同じように身体が衰えてきて思うのは、若いときにもうちょっとリハビリを頑張っていれば、今はもっと動けるようになったんじゃないか、ってことなんですよね。

僕は１０歳の頃でリハビリを投げちゃっているんですよ。

先は見えない、誰も応援してくれない、楽しくない、出来ても出来て当たり前、結果は見えないで、もうイイや止めちゃえと。

もしそれが諦めずにリハビリを続けていたら、今よりは動けるような身体になっていたのかもと思います。

今思うのは、結果が見えず辛くても、やり続けることの大切さがあるんじゃないかなって思っています。

だからKさんも、今まで続けているトレーニングなりサプリなりを３０年後を見越してお続けになったほうが良いとおもいますよ。」

2人の会話を聞いていたヘルパーNさんが突然割り込んで来ました。
一体なにを言い出すのでしょうか。

ヘルパーN

「ちょっとまってください。横から失礼します。今、金重さんがいっていた

　”つらくてもやり続けることの重要性”

っていうことなんだけど、

僕自身を振り返って考えた場合、物事を途中で止めたことって４回や５回じゃないんです。例えば僕の場合だと大学行く前に専門学校行っていますけど、行かなくなって留年した挙句に辞めてます。

その後は大学いったものの、学校いかなくなって１年留年したとか、就職活動は特にしなかったとか、バイトでも辞めたとかざらにある。

まあ結局僕はモラトリアムが欲しかったっていうだけなんだなと今は思いますけど。

（モラトリアム：E.H.エリクソンの提案した精神分析学の用語。本来は「支払い猶予期間」の意であったのを転じて，社会的責任を一時的に免除あるいは猶予されている青年期をさす。）

引っ越しとかも東京に出てきてからは７回ぐらい引っ越しています。この１１年間は同じ所に住んでいますけど。

で、「嫌だけど頑張って続けていた場合の世界」っていうのを考えるときがあるんだけど、当時をふり返って考えると、止めたとき、それがその時の限界だったんじゃないかなって思うんですよね。

現に金重さんが１０歳でリハビリ止めたっていうのも、その時の限界だったと思うんですけどね。どう頑張っても続けてなれなかったから止めたんだと思います。

僕は老いとか更年期とかいう現実を、そのまま受け入れるしかないんじゃないかなと考えています。

良かったころとの比較を止める。
ハンカチ王子だって松坂だって、もう復活はしないでしょう。
昔の事を考えても仕方ない。

失った髪の毛は戻ってこない。かつらかぶったり植毛したりしてもしようがない。
時の流れですよ。老いては駿馬も駄馬になる。

僕は古い映画が好きなんです。

パっと思いつくところだと「市民ケーン」とか。

なんでかっていうと、映画内でキラキラしている登場人物は今はみんな死んでいるんですよね。どんなに光り輝いて見える人間も永遠には生きられない。

メメント・モリ　

（※ラテン語で「死を忘るなかれ」という意味の警句）

それだけで現実を教えてくれる気がしますね。」

金重

「たしかに僕がリハビリを続けられなかったのは、このままリハビリをしてなんになるんだという思いが強かったからです。

さらには応援して伴走してくれる人も誰もいない、がんばったね、よくやったね、って褒めてくれる人も誰もいない、そんな強い孤独を感じる状態で一人頑張り続けることができなかった。

でも続けられなかったからこそ、諦めたあの日から今まで３０年間諦めずに続けていたら、未来は変わったんじゃないかなって思うんですよね。

たとえば今、１０歳の頃に戻れたら間違いなくリハビリは頑張ってやるでしょうし。

今は将来の事を考えて、極力自分の能力を落とさないように意識して動ける部分は動いたりしていますし。

僕は色々な要因があって続けられなかったけれど、それでもやっぱり続けていれば違った未来があったとおもうし、諦めた自分が言うのもなんですが、今辛い状況にある人も、続けた先の未来の自分を想像して、是非あきらめないで続けて欲しいなって思います。

だからKさんも今やっている自分がこれだとおもう健康法を、そのまま続けていくっていうのがイイのではないでしょうか。」

K

「そうだね。トレーニングについては継続するとして、金重さんは身体が動かない、衰えていく不安感とはどう向き合っているのかな？」

金重

「身体が動かないことに対して、僕がどう思うかっていうのは、自分自身の障碍もあるし、加齢とともに体力が落ちて行っているのを実感します。

今日もヘルパーさんが来るまでに､2回トイレ行き､ハンケツ状態で迎えて､ズボンとパンツを上げてもらう時に結局少し漏らしていて指摘を受けましたね(笑)

でもあのぐらいの量だと自分では気が付かないんですよ。

1人でトイレに行って失敗しなかったつもりになっていましたけど、結局はパンツの中にウンチが入っていた。

もっと身体が動けばそういうことは考えなくて済むとおもいますけど、現実は動かないわけで。

こういう事って、ある程度自分で受容して、できるだけ自分に無理をしないようにしたほうが良いと思います。

僕のさっきの例だと

「またウンチを漏らした・・・最悪だ・・・もう嫌だ・・・」

じゃなくて

「あ、ウンチ漏れたんだ。ハイハイ。シャワー浴びて、次回こそ気をつけてよう!!」

っていうような感じですね。自分を責めても身体は動かない。
自分を責めて身体が動くなら、僕も責めていますよ。

以前、なにかで読んだことがあるんですけど、若いときにプライドが非常に高かった女性が老齢になってある日、玄関先にウンチが転がっているのを見つけたそうです。

で、それが自分が漏らしてしまったものだと気付いて、結局は認知症になりかけだったらしいんですけど、ショックで首を吊ったっていう話でした。

なんだかドラマチックでセンシティブな感じに描かれていましたけど、僕からしたらそれで死ぬの？僕なら毎日首括らなきゃいけなくなっちゃう。っておもいますね。

年をとって動かなくなってしまったことについては、自分で納得するしかないって思うんですけれど、先ほども言ったようにガクッと落とさないためには、健康の為や出来るだけ永く身体が動くようにと割り切ってやったほうが良いとおもいます。

また続けるためには､一緒に運動できる仲間を作った方がお互いを励ましながら続けることができるかもしれませんね。孤独の中で頑張り続けることは難しいです。

K
なるほど。
今回は話を聞いて「ダメで元々、改善したらラッキー」って感じで、結果に拘らず無理のない努力を続けてみようと思いました。

心持ちに関しても、Nさんの言う通り「生物はすべて死に向かって生きている」と考えると、落ち行く体力も気力も当たり前の事なんだと楽な気持ちになれるね。

いいアドバイスありがとう。
これからもおじさん同士励ましあって健康維持に取り組んでいきましょう(笑)

第2-7話 エンジェル金重その４

第2-7話　エンジェル金重その４