今回はハイキングでの服装の話になります。

ヘルパーN　以下　N

N・「この前なんですけど、登山にいったんですよ。家族で。

義姉、奥さん、娘、僕の４人です。

そのとき家族の記録だと思ってビデオカメラで撮影していたんです。
あ、金重さんから借りたビデオカメラです。まだ返してないけど。

で、僕は歩くのが遅いんで、一番後ろから皆を撮影する感じになっていたんですよね。

そうやって撮影していたら、後ろから熊避けの鈴をチリンチリンならしながら僕を追い抜かしていったおばさんが、先頭の義姉を呼び止めてなにか話しているんですよ。距離にして１５ｍも離れてなかったとおもいますけど。

そしたら義姉がチラっと僕のほうを振り返ってから、おばさんに一言二言何か言ったかと思うと、おばさんが笑いながら「あらやだすいませんｗ」みたいなリアクションして先に歩いていったんですよ。

義姉はその場で立ち止まって、こっちを見ながらニヤニヤしているから、なんだろうなって聞いたら

「変なオジサンがビデオを持ってついてきているから気をつけて、だって。（笑）」と。

僕からしたら、家族を撮影している父親をどうやったら不審者に間違うのっていう話なんですけど。

山の中ですがすがしい気分になって、すれ違う人にも「こんにちはー」なんていっているのに、不審者に思われてたってショックじゃないですか？

その時の僕の服装なんですけど、最近はミリタリー好きなので、上はアメリカ軍のビンテージのミリタリーユーティリティシャツ、下はイギリス軍のロイヤルネイビーのスラントポケットのカーゴパンツ、帽子は亡なった義父が持っていた社台スタリオンステーションの帽子をかぶっていったんですけどね。

まあ言えば服は軍服で、帽子は目の覚めるようなオレンジ色のキャップだったので、知らない人が見たら「猟友会」みたいな感じになってたかと思いますけど。

でも軍放出品は究極の実用品で、性能という意味では既製の市販品を凌駕していますし、昨今のアウトドアブームのせいか、最近ミリタリーファッションが結構来てるんです。

そんなんでせっかくお気に入りの格好をして家族との休日を楽しんでいたのに、なんでこんな事になったんだと思います？現代の山登りの格好をしていなかったから？

みんな広告に釣られて山用っぽい服を買っていますけど、裏高尾は普段着だって登れるんですよ。現地で働いている人なんて長靴で登ったり降りたりしているんです。

その時の動画を他の人にみてもらったことあるんですけど、

「正直いってこの格好じゃ山の中で不審者と間違われても仕方ないわ」

って言われたんですよね。

となると、僕個人は自覚していなくても、服装がTPOにふさわしくなかったっていうことになりますよね？奥さんたちにあわせて山用にバッチリ装備を固めていったほうが良かったんですかね？

金重さんは障碍者の服装のTPOの事についてあれこれ言っているみたいですけど、この件についてはどうおもいます？

僕的には服装よりも、「ビデオを回しているオジサン」が不審なんじゃないかっていう理解をしていますけど、服装についても指摘があったので今回聞いてみました。」

金重　以下　K

K・「僕はハイキングとか山登りとかしたことないんですよね。だから状況とかはそんなにはっきりと理解できるわけじゃないですけど、やっぱり他人から指摘されるっていうことは、義姉さん、奥さん、娘さんが一つのグループで、Nさんが1人に見えたってことですよね。

そう考えると、やっぱり見た目の格好が浮いていたんだと思います。

正直、どんなスポーツでも普段着で出来るど、みんなそれぞれのスポーツでそのスポーツらしい服を着てやっている。Ｎさんが好むと好まざると、この感覚が一般的なんだと思います。

例えばバスケ部の休日練習で、皆がバスケらしい格好してきているのに、Nさん一人だけ軍服で来て、真顔で練習している。

そこで「軍服は機能性に優れているんだよ」って言ったとしても、どう考えてもその論法にみんなは「そうだね」とならないですよね。よくて「お、おう」ってなると思います。

悲しいかな、これが現実だと思うのです。

ただ100歩譲ってこれがジーンズにTシャツだったら、何も言われなかったんだと思います。

所謂「軍服」という男らしさを象徴したアイテムを、本来爽やかであるはずのハイキングにチョイスしたNさんの趣向に、おばさんは一種の威圧感を覚えたんじゃないでしょうか。

といってもNさんは自分が好きで良いと思う格好をしているし、それに対して家族も異論はないですよね？それに、みんなで服装をあわせていくっていうのは、現実問題お金もかかっちゃいますよね。

ということで私が解決方法として提案するのは、Ｎさんの好みを尊重しつつペアルックじゃないですけど、「家族の共通のアイテム」みたいなものを身に着けるっていうのはどうでしょうか。

例えばですけど、皆でおそろいのバンダナを腕に巻いておくとかですね。

あともう一つ思ったのが、Nさんが少し離れた後ろから黙ってビデオを回していたのが、傍からみて異様だったんだとおもいます。

お洒落した3人の女子グループの後ろを、黙ってビデオを回しながらついてくるオレンジ色の帽子をかぶった軍服のオジサンっていう構図が目に浮かぶんですよね。

で思ったのが、声をかけながらビデオを回していれば、服装が浮いていようが怪しかろうが大丈夫だったんじゃないかなって思います。

とはいえ家族でなにかするのっていうのは、独り身の僕にとってはうらやましい光景ですよ。

服装の話は聞かれたから答えるだけですけど、正直うらやましいなあっていうのが今の話しを聞いて一番強く感じるところですかね。」

N・「あー、なるほど。声をかけながらっていうのは考えていなかったな。2時間以上回しているっていうのもあるんですけど、山歩いているときにはあんまりしゃべれないっていうか。人が来た時にはそういうのがあると。
話しかけていれば最低限不審者じゃなくなりますね。

僕的にはこの件は運かなとも思うんですよね。

だって裏高尾で熊避けのスズつけてる人って、山の中には熊がいるって思っている人でしょ？警戒心が強い人。しかもリュックには魔女の宅急便のジジのぬいぐるみをつけてた。
ジジをパートナーとしていた主人公のキキは、使命感も強く、思い込みに走るようなこともありましたよね。

そんな警戒心と使命感が強い人に山の中で、軍服の自分がたまたまあたっちゃった。

さらに思うのが、その時の義姉はマラソンするようなスパッツ履いてて、尻のラインが丸出しの格好をしてたんで目立ってたんですよね。ハイキングで尻のライン丸出しで歩いている人なんて見たことがないですよ。トレイルランとかのノリなんでしょうけど。

警戒心と使命感の強い人が、義姉の尻のライン丸出しのスパッツ姿をみて、これは盗撮される対象なんじゃないか、そういえば後ろに猟友会みたいなオジサンがビデオを回しながらついてきている。これは伝えなきゃって思ったんじゃないですかね。

わが身をふり返ると、そう思われるっていうことが情けない話ではあるんだけど、これが現実なんだっていう思いはあります。

ご指摘の通り、家族だっていう目印をつければ良かったかもっていうことですよね。
僕もその時おもいましたよ。「父」っていう旗指物でもリュックにつけとけばいいのかなって（笑）上杉謙信なら「昆」、真田なら六文銭。

ビデオを声をかけながら回すっていうのはありますけど、その時の録画時間って2時間くらい録画したんですよね。人が来ているときに声をかけながら撮影するっていうのも、不審者に思われない為の簡単な手段でもありますね。それが一番良いかなって思いました。

その一方で、山の中で会うか会わないかわからない人を気にして、コチラからなにかするっていうのは正直いってそこまでする必要あるのかなっておもいますが。

そこまで気にするんだったら毎回注意されてたほうがまだましかなって。

あと僕が思ったのは、ほんと我々一般小市民はテレビＣＭとかにうまいこと乗せられてるんだなって感じましたよ。

よくあるじゃないですか、父親が子供の動画をとっているようなイメージＣＭ、あれを実際にやったら不審者ですからね。（笑）

今回の話を聞いて、次からは人が来たらビデオで撮っている的な声をかけるようにします。

そういえば今回の話って、僕が山に行ったときの服装と行動が山に溶け込んでいなかったっていう話にもなるとおもうんですけど、金重さんは障碍者が街に溶けこむ必要があるってよく言っていますよね。障碍者が街に溶け込むためには服装と行動が重要っていうことになるんですか？」

K・「そうですね。障碍者が街に溶け込むっていうのは必要な事だとおもいますし、障碍者２・０にとっても必要だとおもいます。

障碍者が町に溶けこむっていうのは、例えば街の中で、パジャマ姿の障碍者が歩いていたら違和感がスゴイくて、溶け込んでいるってことにはならないですよね。

障碍者もパジャマやジャージじゃなくて、服装から変えてほしいっていうのは、僕がずっと言っていることです。

これは昨日今日思いついた話じゃなくて、子供の頃までさかのぼる話になるんですよ。

あれは１０歳かそのあたりの年齢でしたが、僕がボランティアさんと一緒に出かけていたときに、通りすがりのおばさんに声をかけられたので、なんですか？っていうと

「あなた、こんなところ歩いていちゃダメでしょ？早く施設に帰りなさい」

って言われたんですね。

「施設を脱走してきたの？早く戻らないと」
「パジャマきて病院から抜け出してきたの？」
「こんなところに出てきちゃだめよ」

とか。

それも1人じゃなくて何人にも言われたんですよね。

くりかえしますけど、僕が1人で車イスに乗って出歩いていたわけじゃなくて、ボランティアさんと一緒なんですよ？

いまから３０年くらい前の話なんですけど、昨日のことのように鮮明に覚えています。
そういう事もあって、障碍者が街から浮いて見えないためにも、最低限服装と身だしなみが大切なんじゃないかなって昔から思っています。」

N・「そうなんですね。逆に今はパジャマで歩いていても話しかけてくる人はいないと思うんですよ。下手になにかいうと逆切れされて攻撃されかねない世の中になっていて、おせっかいオバサンオジサンがいなくなっていると思います。なにか気になることあったら黙って警察に通報したほうが良いって風潮ですし。

今考えてみると、３０年前は周りの人に声をかける人が1人や2人じゃなかったんですから、金重さんが理想とするみんなが助け合わなきゃ生きていけなかった1960年代の「三丁目の夕日の世界」の残り香が80年代にも残っていたんじゃないですかね。
そこには障碍者は含まれていなかったという事ですけど。

高度成長期を経て、金銭的に豊かになり、皆で肩を寄せて生活していかなくてよくなった８０年代以降、核家族化が進みましたよね。核家族化が進んだ結果、地域の人とそうでない人の区別が曖昧になった。

この点、３丁目の夕日の世界は田舎の地域生活と近いかなっておもうんですけどね。
お互いの事を気にかけてるっていうよりも噂話の種ですけど。

でも田舎育ちの僕はそういうのは面倒くさかった。
会う人は限られているのに、その場にいない人の噂話は特に面白いものではなかったですし。

ただ思うんですけど、これから貧富の差がますます広がっていくと言われている世の中で、好むと好まざると人間同士が協力しあわないと生きていけない、貧しかった日本に戻っていくんじゃないかと感じますね。

しかしそんな世知辛い世の中に変化しているにもかかわらず、社会常識だけは人とのつながりが希薄になり、何かにつけて「自己責任」を言われた時代のまま。だから高度成長を遂げた先進国では自殺率が高くなるんじゃないでしょうか。

日本も昔は一家で夫が働いていれば良かったけれど、今は共働きが当たり前になってきて、なおかつダブルワークとか。

ダブルワークって職業の選択肢の幅が広がってとか聞こえは良いですけど、結局は一つ所では生活できないからダブルワークになってるだけですからね。

昔、日韓ワールドカップでアルゼンチンとかからの観光客がテレビのインタビューに答えていたんですけど、ワールドカップ見るために仕事を８つかけ持って貯金していたっていうんですよね。貧しい国だとそうなっちゃう。

日本もいずれはそうなるんじゃないですかね？」

K・　「ウーバーやネットの怪しい副業広告の増加を見ると、そんな方向に行っている気はしますね。。」

第2-6話 エンジェル金重その３

第2-6話　エンジェル金重その３