第14問 処分権主義【総論・旧訴訟物理論(判例)・将来給付判決肯定説(東京地裁)】
一、総論
民事訴訟においては、処分権主義が妥当し、訴訟の開始・終了・対象の指定につき、当事者が自己決定権を有する。これは、民事訴訟の対象たる私法上の権利につき認められる私法自治の原則に基づくものであり、民事訴訟法にとり本質的な原則である。246条は、対象の指定につき、処分権主義を具体化するものであり、申立事項と判決事項の一致を要求している。
判決が246条違反となるのは、当事者の申し立てざる事項につき判決した場合である。
そこでまず、申立事項を特定する必要があるが、原告の申立事項とは、一般的に①訴訟物、②救済の種類、③救済を求める範囲により特定される。
二、小問(1)について
本判決においては、不法行為に基づく損害賠償請求に対して、裁判所は、債務不履行請求を認めている。
裁判所は、原告の申し立てた訴訟物について判決をする必要があり、申立てと異なる訴訟物について判決をすることは246条違反になる。
そこで、かかる判決は246条違反とならないか。本問における訴訟物が何かが問題となる。
この点、訴訟物を実体権と切り離して、訴訟法独自の観点から捉える見解もある。しかし、これでは基準として不明確であり、妥当ではない。例えば、この見解では給付訴訟の訴訟物を受給権と捕らえるが、受給権がどう定まるかが明らかでないのであり、また、既判力によって遮断される範囲が広がりすぎ、当事者の攻防能力が低い現状では、かえって当事者の権利保護に欠ける結果となるおそれもある。
基準としての明確性を重視して、実体法上の権利自体を訴訟物と解すべきである。さらに、民事訴訟は、実体法上の権利の存否の確定によって紛争を解決する手続である以上、訴訟物の決定についても実体法と訴訟法の調和を図るべきといえる。
従って、本問では、不法行為と債務不履行と、根拠となる実体法上の権利が異なっている為、本件裁判所の判断は246条に違反するといえる。
なお、旧訴訟物理論によっても、裁判所が釈明(149条)により、債務不履行に基づく損害賠償請求に訴えを変更させた上で、認容判決をすることは可能である。ただし、債務不履行の事実が全く弁論に顕れていなければ、弁論主義違反となり、許されないことになる。
三、小問(2)について
本問判決は、口頭弁論終結時の弁済期の到来を条件に将来の給付を命じるものであり、履行期が到来したとして現在の給付を求めているXの申立てと形式的に一致していない。そこで、246条に反し、許されないのではないか、問題となる。
この点、将来給付の訴えは、特別の利益が要求される点で、紛争解決方式の特殊な型を示すものであるから、現在給付の訴えに対して、将来給付の判決をすることはできないとする見解もある。
しかし、現在給付の訴えに対して、将来給付の判決を為しても、判決形式は異ならず、単に期限の制限がつくかどうかの違いにすぎない。
思うに、246条の趣旨・機能が、①原告の意思の尊重と②被告への不意打ち防止にあることからすれば、これに反しない一部認容判決は246条に反せず許される。
そこで、現在給付の訴えに対する、将来給付判決について検討すると、①給付を受けられないとされるよりは、将来においてでも給付を受けたいというのが、原告の通常の意思である。また、②被告が自ら履行期未到来の抗弁を提出している場合、被告への不意打ちのおそれはない。
従って、将来給付の訴え(135条)の要件を具備する限り、本問のような将来給付判決をしても、一部認容として246条に反せず許されると解する。
以上
・参考条文
(判決事項)
第246条 裁判所は、当事者が申し立てていない事項について、判決をすることができない。
(将来の給付の訴え)
第135条 将来の給付を求める訴えは、あらかじめその請求をする必要がある場合に限り、提起することができる。
(釈明権等)
第149条 裁判長は、口頭弁論の期日又は期日外において、訴訟関係を明瞭にするため、事実上及び法律上の事項に関し、当事者に対して問いを発し、又は立証を促すことができる。
2 陪席裁判官は、裁判長に告げて、前項に規定する処置をすることができる。
3 当事者は、口頭弁論の期日又は期日外において、裁判長に対して必要な発問を求めることができる。
4 裁判長又は陪席裁判官が、口頭弁論の期日外において、攻撃又は防御の方法に重要な変更を生じ得る事項について第1項又は第2項の規定による処置をしたときは、その内容を相手方に通知しなければならない。
(訴えの変更)
第143条 原告は、請求の基礎に変更がない限り、口頭弁論の終結に至るまで、請求又は請求の原因を変更することができる。ただし、これにより著しく訴訟手続を遅滞させることとなるときは、この限りでない。
2 請求の変更は、書面でしなければならない。
3 前項の書面は、相手方に送達しなければならない。
4 裁判所は、請求又は請求の原因の変更を不当であると認めるときは、申立てにより又は職権で、その変更を許さない旨の決定をしなければならない。
・訴えの利益…原告が申し立てた特定の請求について、本案判決をすることの必要性・及び実効性を判断する為の要件
[各種の訴えの共通する訴えの利益]
① 具体的な権利関係の存否の主張であること
② 法律上起訴が禁止されていない
③ 訴訟しない合意・他の救済手段・勝訴判決などの不存在
①→ⅰ)具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争であり、
ⅱ)法令の適用により終局的な解決が可能であること。
②→二重起訴の禁止(142条)・再訴禁止(262条2項)にあたらないこと
[給付の訴えの利益]…特定の給付請求権の存在を主張する訴え。
① 現在の給付の訴え→原則、訴えの利益あり∴給付を求める必要性と紛争解決の実
効性があるので。
② 将来給付の訴え→「必要」135条
① 現在給付の訴えとは、履行期が到来した給付請求権を主張する訴えである。
② 将来給付の訴えとは、高等弁論終結時までに履行期が到来しない給付請求権を
主張する訴えである。
[確認の訴えの利益]…特定の権利関係の存在または不存在を主張する訴え
① 確認対象選択の適否
② 即時確定の必要性
③ 確認訴訟選択の適否
[形成の訴えの利益]…一定の法律要件(形成要件)に基づく権利関係の変動を主張する
訴え
形成訴訟は、実体法が一定の法律要件(形成要件)を個別的に定めているから、原則として、その要件を主張して訴えを提起している以上、訴えの利益が認められる。
例外:事情の変化により、法律関係の変動を認める必要性がなくなる場合がある。
・ 釈明権とは?
→釈明権とは、訴訟関係を明らかにするため、当事者に対し、質問を発し、または立証を促す裁判所の権能である(149条)
釈明健は、弁論主義を補完するもので、裁判所の訴訟指揮権の一つである。