“ヒルズな人達”の落日 | BOBlog

BOBlog

 日本はまだまだ大丈夫!

宮崎正弘 の国際ニュース・早読み」
平成18年(2006年)1月17日(火曜日)貳
         通巻1357号  臨時増刊号
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 落ちてゆく偶像(FALLING IDLE)、“ヒルズな人達”の落日
  拙論『ITバブル紳士の倫理と日本資本主義の精神』より抜粋
****************************************
 
 「ほりえもん」の登場は、終戦直後の価値紊乱時代に高利貸しビジネスに打って出て、保守的だった世間を騒がせた山崎某の事件に酷似しており、筆者は『青の時代』(三島由紀夫が山崎をモデルに書いた小説の題名)を彷彿させるので、「『@の時代』の到来」と書いた(『正論』05年五月号)。


 焦点となった「ライブドア」という無名の会社はIT時代の通信革命に便乗し、新しいビジネスを定着させる一方で、証券会社からローン会社まで次々と企業買収を繰り返して急激に肥った、いはば変形の革命児。
 モラルが希薄で倫理観が乏しく、たとえば「産経新聞の『正論路線』は不要だ」という暴言も平然と吐いた。


 東大中退の「ほりえもん」は、結果的にフジテレビとの談合めいた”話し合い”でニッポン放送株を手放し、一千数百億円もの利益をあげる”快挙”を成し遂げ、若い世代の英雄に祭り上げられる(この手法は高値買い戻しを狙うグリーンメイルの変形バージョンにすぎないのだが)。


 こうした乱暴なビジネス行為を許容するという時代的雰囲気の激変は、その後の総選挙に娯楽と売名とを狙ってほりえもん自身が立候補したところありふれたテレビのエンターティンメント番組より数段も面白く、またどんなお笑いタレントより滑稽で、愚昧な大衆に囃された。
あの尾道市のような保守基盤の強い選挙区で大物議員、亀井静香氏を相手に十分な立ち回りを演じることができた。


自民党の圧倒的勝利のなかで、その波を的確に掴んで売名をはかった「ほりえもん」が、英雄視されるという日本の精神の荒廃ぶりは伝統の毀損、文化的危機でもある。
 
勤勉という日本資本主義の精神が、かくも軽々しいITバブル紳士によってけがされるとは、十年前には想像だに出来なかった。
 
日本におけるM&A活劇の華やかな時代は突如開幕し、ふらりと閉幕へ向かいつつある。


 小が大を乗っ取る楽しさは、嘗て80年代のアメリカで顕著だった。
 乗っ取り王といわれ、自家用飛行機で全米を駆け回って80年代後半には所得番付一位。『タイム』の表紙も飾ったT・ブーン・ピケンズは性懲りもなく日本にまで遠征し、小糸製作所の筆頭株主へ躍り出た。
 筆者はピケンズにもインタビューして『ウォール街凄腕の男たち』(世界文化社)という本まで書いた。


 カール・アイカーンは、TWA航空を乗っ取り、みずから経営に乗りだした。同社は数年を経ずして会社更生法を申請した。
 これらの乗っ取り王の内部情報に預かり、インサイダー取引で巨額の利益をあげたのが理論家で、投機家のアイバン・ボウスキーらだった。
 またこれらの乗っ取り王に資金を提供したのがジャンクボンドの発明者マイケル・ミルケンだった。名前からも連想できるようにピケンズをのそいて全員がユダヤ人。かれらには「合法なら何でも挑戦しよう」というアングロ・サクソンの伝統を、「合法すれすれ」のレベルから「より黒に近いゾーンでも展開しよう」と高度の法律テクニックを用いるようになった。


 その荒っぽい遣り方は決してアメリカ人全体が受け入れたわけでもなく映画「ウォール街」では悪役に描かれた。


 ▲そして「かれら」は“塀の中”へ落ちた


 乗っ取り屋らは、社会的には異端者扱い、いくらアメリカが資本の論理で振り回されるとはいえ、常識的な不正義は、たとえ法律的に合法であろうとも不正義であり、モラル違反はいずれ厳しく追及される。


 ボウスキーもミルケンも塀の中へ入り、生き延びたピケンズを待っていたのは離婚、自社の倒産、そして強度のストレスからくるうつ病との闘いだった。
 日本でも乗っ取りはそれほど古い商いではなく、横井秀樹も糸山英太郎も、いや東急をおこした五島慶太も、国際工業の小佐野賢治も西武の堤康二郎も業績を伸ばしたのは乗っ取りによる拡大路線が基本にあった。


 高田好胤師の口癖は「モノで栄えて心で滅ぶ」だった。
 経済成長や経済繁栄の議論で見失われたのはモラル、道徳、こころの問題である。

 生活が向上したとき人類は物質のみの気球のとらわれ、高級ファッション、ブランド物、有名高校への進学? 余裕のある幸せのときにこそ、民主主義、公平、次の幸福な社会などの思索と努力が必要とされるのに、企業利益向上、リストラ、ダウンサイジング、資産比率、コンピュータ取引?
 精神生活はますます貧しくなり、西鶴も芭蕉もいない文化的退嬰化現象がもたらされた日本は米国のそれ以上に深刻である。
 
(この文章は現在発売中の『自由』(拙論30枚)よりの抜粋です。雑誌はまだ発売中ですので、全文の再録は2月11日以降になります)。
   ○ ◎
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

確か、ほりえもん支持って団塊の世代に多いってのを聞いたことがある。

なんとなく解るような気がする。