昭和五十三年九月、神戸で劇団夜行館の小屋掛け芝居を観た。八月に弘前のねぷた祭りに参加して観に行く事にしたのだ。
初めての小屋掛け芝居で、昔から人さらいに遭うとされた取り憑かれる分野に出遇った。
演題は「紅蓮童女」だった。
私は京都で手描き友禅を仕事にしていたが、作品も創る修行中の事である。
彼らのストイックな情熱は、立ち入り難くあったが、魅了されて、次の年は裏方修業で参加することにした。演目は「傀儡童女」六月と七月、小樽・弘前・富山・神戸・京都・東京で打ち上げまでニヵ月間興行に同行したのだ。京都から小樽まで夜行列車で遠かったが劇団に合流して旅は始まった。
肉体関係はご法度、朝と夕、二回の食事付き、報酬は無しの条件で修業の場を与えられた。
仕事の内容は、場面展開時の火の取り扱いの責任のある事だった。
消壷に確実に仕舞えば大事に至らないので、しっかりと専念した。
さて、守 鏡丸という役者は世間(テレビなど)ではお見かけしない役者志願者だった。
しかし、主役を上回る迫力があり、すっかり夢中になって追っかけから劇団関係者にまでになった。しかし、団長は修業を認めてくれたが劇団には女優さんもいるし、他の裏方さんも存在していたから、あまり招かれない存在でもあったと認識している。
彼(守鏡丸)は、四歳年上で事実婚をしており、生活力があるかといえば無い。
恋心だけではなく、役者としての何かが私の好奇心を掴んで離さない。
小屋掛けの柱が立てられては興行が行われ、やがて、東京公演の日が来た。
もうすぐ、別れの時が迫っていた。
小屋掛けのテントの後ろ側に自分の仕事を終えて周り、テントの隙間から、そっと光が漏れないように覗き込んで観ていた。 次回につづく