私はこれまで25年ほど山歩きをしている。毎週末、雨の日も風の日も、年間100日以上はどこかを歩いていた。内容はデイハイクがほとんどで、バックパッキングは年にせいぜい1,2回程度だった。熊対策のベアキャニスターやら寝袋やら防寒具やら、重い荷物を担いで歩くのが嫌だったからだ。

 

そういう私ではあったが、PCTスルーハイキングのことは知ってはいた。毎年9月になるとガリガリに痩せた毛むくじゃらの男達が、黙々とカナダ国境を目指す姿を目にしてきたからだ。(近年、女性スルーハイカーの数はうなぎ登りだが、昔は圧倒的に男が多かった。)この真っ黒な汚い集団は誰なんだろう?明らかにバックパッカーとは異なる雰囲気と様相を呈している。全員がストイックな修行僧みたいに見え、私の興味をそそった。

 

汚さや臭さは半端じゃないこの集団は、不思議なことに世にも美しい瞳の持ち主達だった。一様にキラキラ輝いている。こんなに幸せな人々を私はそれまで見たことがなかった。私はスルーハイカー達の瞳に魅了されて、スルーハイキングに憧れの気持ちを持つようになったと言っても過言ではない。

Every little soul must shine - どんなに小さな魂もそれぞれに輝く瞬間がある。それを大切にしてほしい。

 

その後は彼らを見かけると必ず話しかけて、いつメキシコ国境を出発したのか?どこの出身の人か?トレイルネームやそのネーミングの由来など、インタビューを重ねた。彼らは独特のエネルギーを発していて、私の中に深いインスピレーションを喚起してくれた。彼らはその宝石のような瞳で私をまっすぐに見据え、どんな苦しみも終点近くなると喜びに変わることを身をもって示してくれた。あと3日で彼らの旅が終わる。多くのスルーハイカーは感動を抑えきれず、ウルウルしながら思いのたけを語ってくれた。

 

 

こういう理由で、私が彼らの感動を自分でも体験したいと思うようになったのは自然の運びではあった。それにしても、まさか還暦を優に過ぎてから、自分がスルーハイカーの仲間入りをすることになるなんて、その時点では想像だにできなかった。

 

チェンジは2020年の初夏に訪れた。おりしもCovidの嵐が吹き荒れ、多くの常識や価値観が急速に変化を遂げていた時期だった。私は20数年来連れ添った夫から、ある日突然離婚を言い渡されたのだ。真っ白になった頭の中で、どこからともなく「体だけは鍛えておけよ。」という声が聞こえてきた。そしてその声に対しての私の第一声。「よし、これでPCTに行ける!」

 

その後は夢中で準備に明け暮れ、あちこちからPCTをセクションずつでも一緒にやりたいと言う人々に巡り合い始めた。関係者のネットワークがみるみるうちに広がり、翌年2021年4月、私はメキシコ国境のPCT始点に立っていた。

 

その後の私はPCT漬けというかPCT病というか、PCTが人生の基軸となってしまった。

 

「必要ないもの、重いものはバックパックには入れない」というスルーハイキングの基本精神が私の通常生活の指針となった。1年使わなかった靴、服、バッグ、道具はすべて処分し、家具も毎日使う物以外は寄付した。家も売って小さなコンドミニアムを買い、ミニマリスティックな生活が始まった。物が少なくなればなるほど気持ちがよくなった。

 

今春、3年の時を経て、サザンカリフォルニアのワンセクション300マイルを歩いた。Wrightwoodというトレイルタウンでゼロデイ(1マイルも歩かない日)を取った後、Baden Powelという山頂(9226フィート)に向かって一歩一歩踏み出した。その瞬間、ああ、私がやりたかったことはこれなんだ、という確信が体の内からにじみ出てきた。体を動かすことにより、ギシギシしていた足腰の関節が徐々に和らぎだす。この登りセクションは私の心肺機能には最適な勾配だ。荒かった息もすぐに調子を取り戻し、息が整ってくると心拍数も減ってくる。体が楽な状態になり、年齢(68歳)を忘れる瞬間がやってくる。これが錯覚なのはわかっているが、一瞬でも肉体を忘れる時、周囲の木や草や花や鳥と完全に調和している感覚が訪れる。心地よいエネルギーが空から私を通じて地面に流れるイメージが湧いてくる。

 

私は山登りを手段として瞑想をしていたのだと思う。普段瞑想の練習をしていない分、このSyncの状態に入るには、何日も山歩きをする必要があったのだ。この心のゆとりは、時間に追われるデイハイクでは達成できない。PCTは私にとって瞑想への入り口だったのだとわかった。

 

先日、清田益章さんという超能力者のYoutubeを見た。彼は「息が整うと念が整い、念が整うと縁が整う。」という大変深い内容の話をなさっていた。

 

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彼の「おのり」(踊りと祈りを組み合わせたフリースタイルのPrayer)は圧巻だ。

 

"ΨおのりΨ" 清田益章 (youtube.com)

 

「おのり」をPCTでやったらどんなに素晴らしいだろうか。私のPCT修行はまだまだ続くと感じた。