八月に入って、俺は陽(あきら)と一緒に生まれ故郷に行ってきた。

数年ぶりで両親の墓前りをしてきたのだ。

 

両親が眠る墓は、地域墓地となっている実家の裏山にある。

そこには100基を超える墓石が並んでいるが、

好き放題に伸びた雑草に覆われて、家名が見えなくなったものも散見される。

勿論、我が家の墓のように手入れされたものも多いのだが。

その納骨室には両親、祖父母、曽祖父母、高祖父母も祀られていて満員状態。

姉貴は我が家の樒の木から手頃な枝を何本か手折って花立てに差した。

「私と旦那の骨壷を入れるには、爺様達の遺骨を骨壷から出して、まとめるんやて」

墓石に向かって手を合わせる俺の横で、笹野家十代目を継いでくれた姉貴が呟いた。

「笹野家初代から五代までの墓はどないするん?」

俺は離れた場所に立つ大小の墓石一群を指差した。

そこには文久や慶應の年号が刻まれた墓石が横一列で行儀よく並んでいる。

江戸時代末期は大人であれ幼児であれ、一人一基で墓を作る習慣だったとかで、

我が家の御先祖様の墓は10基を超える。

「どないもこないも、このまま祀り続けるわ」

「墓じまいとか、せえへんのか?」

「私はせえへん」

「俺はこっちに、もんて来んぞ」

「ええよ」

あっけらかんと姉貴は笑う。

子供のいない姉貴夫婦が亡くなった後、ここを訪れる人はいなくなるだろう。

笹野家先祖の墓もいずれ雑草と樒の林に埋もれてしまうのだろうか。

 

羽田に向かう飛行機の中で。

陽「父が死んだら、墓は東京に建てる」

ずっと静かだったから寝てるのかと思ったら、俺の墓のことなんか考えてたのか。

俺「墓はいらん。樹木葬がええわ」

陽が納得しかねる、という眼差しを俺に向ける。

俺「桜の樹の下に遺灰を撒いてくれ。桜が咲いたら俺のことを思い出すやろ?」

陽「考えとく」

俺は死んでまで陽のお荷物になるのは嫌やけん、

と言いかけて、その言葉は飲み込んだ。

墓石も、墓参りもいらない。

陽の記憶の中にひっそり埋もれて、

陽が彼岸へ渡って来る時、迎える俺に手を振ってくれたら、それでいい。