今時「正統派ソウル」なんて言葉が通用するのかはなはだ疑問だが、狂気(狂喜!)の日本盤発売には驚いた。

 Toni Green(トニ・グリーン)、いとこと組んだThe Imported Mood というグループで70年6月メンフィスのHiからシングル(Hi-2179)を1枚出したのみ。

 

 桜井温氏の力作『SOUL大辞典 1950-1995』(1999年刊)には、『メンフィスの混声グループ、Elvitt & Leroy Broadnax、Pat Love、Toni Greenの4人組。この内 T.Green は98年5月にSoul Trax から「Mixed Emotions」(S-1007)のアルバムをリリースしている。』とあり、Toni Green は別稿参照とあるが、記載は無い。

 また、3冊分冊で全2000ページ以上の大著『The Soul Discography』のVol.2(Bob McGrath、2012年刊)のThe Imported Mood の記載には、Elvitt Broadnax、Leroy Broadnaxとあるだけで、Toni Green 個人の記載・項目も無いほどのマイナーぶり。(今回の新作、オリジナル・ライナー最後の、This album is dedicated to の中に『cuzn Elvrit "Lil June" Hambrick (+1999) 』とあるのがその一人でしょうか?)

 

 81年2月10日桜井ユタカの署名がある、Hiのシングル・コレクション第4集(VIP-4093)のライナーでは、『4人組で、リード・シンガーはトニー・グリーン(リロイ・ホッジス談)・・(中略)・・ちょっと聴くと女性グループかと思ってしまうほどですが、・・・・』と男性グループのファルセットと位置付けしているし、次にソニーから発売された『(フー・イズ)ア・メンフィス・ソウル・クイーン?』(SRCS-6700、93年5月発売)でも、CDタイトルは”女声”と謳っているいるのに、鈴木啓志氏はライナーで『女性を中心にしたグループのようにも聞こえるが、リードはトニー・グリーンという男性だそうだ。本当のところはどうなのだろう。』という何ともトホホな記述。最近のリイシュー『ハイ・レアリティーズ Vol.2』(ウルトラ・ヴァイヴ CDSOL5073、2012年)で鈴木氏はようやく『リードはトニ・グリーンというまるで男性名だが、Toni Greenと綴る。つまり歌っているのは女性なのだ。90年代に入ってから何枚もCDを作っているのでご記憶の方もいるだろう。』と現実に追いついた位のオブスキュアー!

 

 GoldwaxレコードのQuinton ClaunchによるJames Carrの再出発に向けたSoul Traxレーベルから98年に初のアルバム・デビューを果たした。『Mixed Emotions』 Soul Trax SLT-1007-CD。2023年7月現在Discogsにも未掲載なくらいのマイナー盤だが、発売当時は日本でも少し騒がれたと思う。B&Sレコーズ誌、No.24でレビュー!。しかしワールド・ワイドでは(多分)超マイナー歌手。その時47歳!!

プロデューサーのQuinton Claunchの絡んだ曲が多いが、自作が2曲ある。

 

その後、南部では地道に活動(チトリン・サーキット)したのか、2002年、03年、05年に南部のレーベルからCDを出した。Denise LaSalleの様なオールド・スクールなスタイルで大ヒットも無ければ、南部でしか人気がなかったと思われる。

  

 Good Timeからの2作目『Strong Enough』(GOT-7602)(左)。同社所属のRonnie Lovejoy の曲が多いが、Mary J. Bligeの曲も2曲カバーし、意欲を見せている。ファースト収録の「Stop Playing Me Close」の再演も含むが、作者はToni Cole!名義に代わっているので結婚した?

 マイクを持ってポーズする右は同社からの2作目(通算3枚目)のそのタイトルもズバリ♪『Southern Soul Music』(GOT-7605)

 

 そして、1年飛んで2005年、MalacoグループのPEG(Phoenix Entertainment Group, LLC)からの 通算4枚目。PEGD-1004『More Love』。全曲自身が関わった曲作りで力作。バックの打ち込みがショボ過ぎるので評価は低いが、トニ本人の出来は4枚の内では一番の作品と思う。

 

 ブルースやR&Bが英国などヨーロッパで評価され、アーティストが公演や録音し復活したように、このトニもフランスで再評価され、2015年にMalted Milk & Toni Greenとして突如復活。

Nueva Onda NOR-002 『Malted Milk & Toni Green』

新曲がメインだが、3枚目の『Southern Soul Music』で演っていた「Just Ain't Working Out」の再演や、カバー物では、Garnet Mimms 「As Long As I Have You」、Ann Peebles 「Slipped, Tripped And Fell In Love」、Syl Johnson 「That Wiggle」、そしてTommy Tate の未発表曲でSoulscape 7010に収録の「I'd Really Like To Know」と南部丸出しだが、Mary J. Bligeの2009年の映画主題歌「I Can Do Bad All By Myself」もカバー、Mary J. は大好きなのかな?バックも歌唱も最高な力作です。必聴♪

 

 そして今年ようやく仏Sound Surveyor から『Memphis Made』(SSM0222)というソロ・アルバムを出した。

 ジャケットが最高です。この妖艶さ、怪しい美しさが漂ってます。

前作から8年が経っており若干年齢を感じさせるがまだまだ十分に歌える逸材。

 2019年にメンフィスで録音開始したが、幾多の苦難(コロナとか・・・)に見舞われ、2022年パリでレコーディング再開、そしてようやく今年リリースに漕ぎつけた。       しかし、送料高騰に円安というダブル・パンチで輸入盤の入手もためらわれる昨今、この様なマイナー盤の入手は困難を極めていた矢先、何と「国内盤」を見つけ注文した。輸入盤に解説(&帯)を付けた物かと思っていたが、届いてビックリ!日本製のCDであった。発売元はソウルの復刻で有名なウルトラ・ヴァイヴ。この時期日本製に拘った発売で大丈夫かと、こちらの方が心配するマイナー・アーティストのCD国内盤発売。ま、解説はCDサイズのペラで裏表の寂しさだが売れるのかなぁ~。他人事だが心配になってしまう。なので、超微力(過ぎる・・”ごまめの歯ぎしり”ならぬ”目くその遠吠え”・・・笑・)なんのタシにもならない当超零細ブログで取り上げて心からの応援を送りたい。トニ&UV社、頑張れ!♪!

 70歳越え、50歳頃のパワー全開は抑え、ベテランならではの歌声で、技術的にも円熟の域。Ruth Brownの「I Don't Know」(59年R&Bチャート5位)カバーは想定内だが、Beatlesの「Why Don't We Do It In The Road?」( 『White Album』収録)という渋曲をカバーする隠し技(ビートルズ曲カバー盤コレクターの諸兄、頼む!)もあり、日本での認知度も上がると嬉しいのだが・・・・。最後はゴスペルでトニも教会で歌っており、母親が大好きだった曲「I Don't Feel No Ways Tired」でしめる。聞き手も昇天。

 日本盤をリリースしたウルトラ・ヴァイヴさん!グッジョブ!です。ついでに、『Milk &Green』の日本盤も、オ・ネ・ガ・イ。。。。

 トニの署名があるオリジナルのライナーに、故人への謝辞が記されていたが、その中に『cuzn John Gary Williams of the Mad Lads(+2019)』とあった。この人も身内だったのネ!初耳でした。