海辺の奇岩城 -3ページ目

海辺の奇岩城

イタリアのパイプメーカー CASTELLO のラスティックグレード SEA ROCK BRIAR を中心に紹介していきます。
その他のパイプもたまにはあるかも。
不定期、のんびり更新で。

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カステロの Oom Paul 、シェイプナンバー97番です。

おそらくハンガリアン(Hungarian)というのがこれらのシェイプのオリジナル、又はより古い時期に普及した呼び名だったのではないかと思います。オームポールとはトランスバール共和国、現在の南アフリカ共和国の初代大統領であるポール・クリューガー氏の愛称であり、現地の言葉て「ポールおじさん」といった意味なんだそうですね。
19世紀末近く、イギリスがこのトランスバール共和国を併合しようとしたボーア戦争で、クリューガー氏の知名度が上がると共に、氏が銜えていたこのハンガリアンシェイプはオームポールと呼ばれるようになったようです。
コモイでは氏に因んで”クリューガー”というシェイプ名が採用されています。
そしてクラシックな、主にイギリス製だと思われる1900年前後のオームポールはストンとした円筒形の、そしてその多くは非常に深いチャンバーを内包した高さのあるボウルと、見た目上はボウルと平行にまで切り返された180度のベント角を持つシャンクによって、非常に前後長が詰まったルックスを持っています。
ebay等で時折見られる、ボーア戦争参戦記念の彫刻が入ったパイプ等にこの特徴は顕著で、クラシックなオームポールのスタイルをイメージする手がかりになると思います。

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翻って“モダン”クラシックと呼ばれるカステロのオームポールは、ストンとしたボウルの形状と深曲がりのベントといった要素は受け継ぎながらも、ブリティッシュクラシックの“U"型よりもやや傾いたシャンクを持っています。
何よりもボウル下面からシャンク背面にかけて、はっきりとしたポイントを持って立ち上がっており、その切り上がり場所もぐっと腰を引いたようなスタイルです。
僕はブリティッシュクラシックのこの部分、つまりボウル下面からシャンク背面にかけて二次曲線を描きながら急激に立ち上がるところに「らしさ」を感じますので、その最も「らしい」ところをあっさりと捨ててオリジナルスタイルを創り出すカステロの手腕には驚きを隠せません。

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そればかりか、一見偉大な先達の手法を受け継いで円筒形に整えたかのように見えるボウルも前から見ると極端なV型をしており、幾つかのモダン(アレンジド)クラシックの成功例を持つカステロに於いても、その完成度の高さは75番と双璧を成すと言っても過言ではないでしょう。
このボールドヒールのV型ボウルとぐっと引いたシャンク立ち上がりポイントによってこのパイプのシャンク部分の特に下側半分は鰭のような薄い板状をしており、口元からゆったりぶら下がるオームポールシェイプに他に類を見ないスピード感を持たせており、個人的にこのシェイプの一番の見せ場だと思っています。

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刻印は SC 97 MADE IN CANTU' ITALY CASTELLO SEA ROCK BRIAR
ステムに CASTELLO

Sレターサイズコード期の特に幅広SEA ROCK BRIAR刻印を持つ個体の幾つかに見られる配列ですね。もしかしたらSレターサイズコード期の中での製作年代の順序を探るヒントになるかも知れませんが、その仮説はまた別項に譲るこ事にします。
ステムの刻印がCASTELLO のみというのも少々風変わりですね。
本来ならCASTELLOのテノン寄りにHAND MADEと入っている筈です。これについてはステムを磨いた際に擦り落とされた可能性があります。CASTELLO刻印もかなり薄く感じられますし、HAND MADE刻印が入るべき場所がシャンクの面に対して僅かに磨耗しているように思えます。
しかし、その部分の幅が通常より狭いようにも見え、果たしてこの場所にHAND MADE刻印があったのか、打刻されなかったのかどちらとも言えないがどちらとも思える微妙な感じです。
CASTELLOの下段に入るべきインナーチューブサイズコードも見る事が出来ません。これも磨滅した可能性もありますが、こちらは初めから打刻されなかったのではないかと思います。

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この個体のダボ穴は深さ約23ミリ、煙道はダボ穴の横壁部分に開けられています。
煙道口の下端は丁度ダボ穴の突き当たり壁面に接しており、オーバーボール部分はありません。
因みにこの突き当たり壁面中央は僅かにチョコンと凹んでいます。使用されたバイスの形状か、パイロットドリルの名残りなのかわかりませんが、同じようなダボ穴と煙道の位置関係を持つダンヒルの591と見比べるとその仕上げの丁寧さにおいては一歩遅れをとります。
閑話休題。ダボ穴横壁の煙道口の上端は深さ約11.7ミリのところから始まっています。そこに刺さるテノンは12ミリに僅かに届かない長さ。つまり、派手なアピアランスや、少々荒い造りについてとやかく言われ勝ちなカステロですが、内部構造の基本的設計については相当に緻密な物を持っていると言ってもいいでしょう。
そして、このテノン先ギリギリからカクンと曲がる煙道設計によって、ストローインナーチューブの使用は不可能だと思われます。
この事から、ステムにインナーチューブサイズコードが無い事については特に疑問を挟む必要な無いのでは、と考えています。
ステム形状は本来Pコードが入るべきサドルカット。
他項でも触れましたが、厚み・面取り共に決して銜え易い形状ではありません。
しかし、このフルベントオームポールに於いてはしっかり銜える必要は無く、その高めのリップボタンを歯に引っ掛けて顎先に垂らしておくには特に不快感はありません。

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ラスティックのテクスチャーは荒々しくも刺々しさのない大らかな物でSレターサイズコード期の特徴がよく現れていると感じます。

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インナーチューブが省略されていたとしても煙道の太さは手持ちのカステロの中でトップクラスであり、深曲がりの外観から連想されるエアフローのストレスとは無縁のオームポールを口元にブラ下げて、のんびりとした一時を過ごすのは大いなるリフレッシュタイムとなりますね。

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