花嫁の危機(1)

 

 

西に傾いた太陽がまぶしかった

 

この春、ウーリからニトヴァルテンにやって来た花嫁は

穏やかな幸せをかみ締めていた

 

彼女は夫の優しい愛情をいつも感じている

 

今、彼は出かけていていない

 

昨夜はぐっと冷えて山には初雪が降ったというのに

きょうは一日中暑く、汗ばむ陽気だ

 

ふたりが住む小屋は

四森林邦湖に程近い所にあった

 

小屋の裏手には

小さいながらも柵に囲まれた庭があり

いつも水を汲む泉からは冷たい水が絶えず湧き出ている

 

木造の小屋は、眠るための部屋がひとつと

台所兼居間になる大部屋がひとつあるだけの簡素な建物だ

 

隣接して

これもまた小さな家畜小屋がある

 

今は主人であるシュテファンが

馬車で出かけているので馬はいないが

そこには豚が数匹と牝牛が一頭、飼われている

 

彼女が長年暮らしたウーリのグローセハウスに比べれば

随分と狭いが

愛する夫といつも一緒にいられるので

かえってこの藁葺き屋根の小屋を気に入っていた

 

庭に干した洗濯物を屋内に取り込んだマヌエラは

気温が下がって寒くなる前に汗を流しておこうと

入浴の準備を始めた

 

入浴用の樽は、小屋の外に隣接している

 

半分に切断した大きなその樽は

ある農家でぶどう酒を醸造するのに使われていたものを

シュテファンが彼女のために譲り受けたものだ

 

火に掛けていた寸胴鍋で沸かした湯を入れ

小屋の庭先にある泉から水が樽に流れ込むように

木製の水路を泉の湧き出し口に置いた

 

 

つづく