旅立ち(1)
朝、目を覚ました時
自分がどこにいるのか分からなかった
見覚えのない天井、寝心地の良いベッド
部屋のほのかな匂いもあまりなじみのないものだった
そうだ……昨夜ハンスにご馳走になったっけ
ブルンネンにあるシュタウファッハー家の別宅は
波止場から数百エレほど離れた
シュヴィーツへ向かう街道沿いにあった
時折シュタウファッハー家の者が泊まる他には
ブルンネンの使用人とその家族が住み込んでいる屋敷だ
ハンスの手廻しは気が利いていた
ヴィルが来ることを予見していたハンスは
豪華な食事ではなかったが、十分な量と
たっぷりのぶどう酒を用意させていた
食事の後も、ヴィルはハンス、レベッカと
三人で飲み、楽しい時間を持った
アーバリストの射撃技術や競技会の話に花が咲いた
その後で通されたのがこの部屋だ
ヴィルは掛け布団をめくって起き上がった
ズボンだけを身に着けていた
涼しい空気が、たくましい上半身を
徐々に目覚めさせるのが分かる
背が高いので服を着ていると
ほっそりと見えるヴィルだが、胸は厚く
肩と腕の筋肉は大きく盛り上がっている
それは山で生き抜くための様々な技術を
父アーノルドから厳しく鍛えられたことを物語っていた
つづく