私の手をしっかりと握りながら、彼は私の目をじっと見つめて言った。
「今後私たちはお互いから離れられなくなると思わんかね」
まさしく彼の言った通りになった。
Persistence of Memory / A Personal Biography of Salvador Dali By Amanda Lear
今までは絵を見るだけで満足していたのが、フィゲラスのダリ美術館に行ったりして
ダリが崇拝している妻ガラへの愛、それについてもっと知りたいと思っていて見つけたのがこの本。
ダリにとっての女神がもうひとりいた。
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ロンドンの画学生でモデルだったアマンダ・リアがダリと出会ったのは19のとき、
スペインの巨匠サルバドール・ダリは60を超え、すでに名声を手にしたヨーロッパのサロンの寵児だった。
当時アマンダはまだ売れていなかったとはいえ、ローリング・ストーンズのメンバーとも交流があったし、
ツィギーやジョン・レノン、ジミ・ヘンドリックスなんかも日常に姿を現していた。
後にデビッド・ボウイと同棲もするアマンダ・リアのこの本は、ある意味60年代の有名人名鑑ともいえる。
そして、他の誰も知ることのできなかった近しい距離からダリを見続けた18年間の記録である。
40以上の歳の差があったし、ダリは性的不能者だと公言していたから、ダリのアマンダへの愛は親子に
近いものだったのかもしれない。
早いうちからアマンダをガラに紹介していたし、クリスマスはもちろん、よく3人で一緒に過ごしていた。
なかなか幸せな恋ができないアマンダに、熱心に仲介役をする姿はまさに父親のようだった。
それでも、ダリはガラに内緒でアマンダと婚姻の儀式をしようとしたこともあった。
事実、アマンダが本当に結婚してしまうと、それを受け入れられず一番落ち込んだのもダリだった。
ガラはガラで、ダリの周りにいるおべっか集団をあからさまに批判する気難しい女性だったけれど、
夫の幸せが自分の幸せだと心から信じている妻でもあり、後にはアマンダにダリを託そうとする。
(そしてしょっちゅう、ダリをアマンダに預けて恋人と旅行に出かけたりしていたのだった)
この本は一般の美術評論からは知ることのできないダリたちのエピソードが満載だ。
ビートルズに5000ドルで売ったダリの髭1本は、実はただの海草だった、
下絵や細部を描く優秀な弟子が、ダリ邸でほとんど気づかないような小さな部屋に住んでいた等、
挙げればきりがないほど。
アマンダはダリに夢中になっていたわけではない。画家として尊敬する部分はあったものの、嫌いで
たまらない点の方が多かった。
「再会しなければならないような理由はまったくなかった」にもかかわらず「自前で彼におつきあいして
歩いていた」。奇行が多いが常に優しく、彼女にとって「父親というものが与えただろう権威や、ほっとさせてくれる存在感を持っていた」からだった。
-若者がこのような愛を示せるだろうか?人生とは不幸なものだ……。もっと早くに生まれていたらよかったのに。私はきっと、すべての愛を彼に捧げていただろうに。そして、彼は私を幸せにしてくれたであろう。なんでいま頃出会ったのであろうか?
-「ねえ、今のところは私も容姿をそれほど気にしているわけではない。でも、いまに私は皺のばしを
しようと思うんだ。そうなったら見ものだぞ」
そういって、彼は皮膚を両手で引っぱり上げた。まるで年老いた中国人みたいになった。
ちょっとしたこういう見栄っぱりは私を悲しませた。まったく彼のような人物にふさわしくないことだった。
(文中より)
アマンダはダリのモデルになったりしつつ時には絵を学んだり、彼のお気に入りとして連れられ
当時の一流といわれる人々に次々と紹介されていく。
もともと30になったら自殺してしまおうと考えていた、刹那的な快楽しか求めなかった少女アマンダが
恋人や友人の死に打ちのめされながらも、絵や音楽に対する興味を掘り下げ、生きる意味を必死で
掴み取ろうとする様子が淡々と語られる。
そして離れている間でも、彼女の人生には常にダリがいるのだ。彼はしょっちゅう電話をかけてよこす。
結婚し、後にアマンダが歌手として世界的に成功してからも彼らの交流は続くが、それに反比例して
ダリの栄光に影が差し始める。側近の裏切り、恋人にガラが大金を貢いでいたこと、偽作事件、ダリの病、
そしてガラの死。ダリはショックで人と会わなくなり、「動物のように」なってしまう。
最後のシーンが印象的だった。ダリは病んで老いた姿をアマンダに見せたくなくて、部屋を真っ暗にして
彼女と話をする。彼女は見えないながらも痩せて小さくなったダリを感じ暗闇で涙を流す。
2人が最後に交わした言葉、そして死を待つダリが彼女に渡した大切な宝物…
陳腐な恋愛映画などよりも甘く、悲しく、忘れられない話だった。


