僕は普段は平日の夜に週2回ジムに行ってウエイトトレーニングをやっているのですが、今週は都合上土曜日の午前に行く事になりました。トレーニングルームには、いつ行っても必ず見かける、「あんた、ひょっとしてこのジムに住んでるんじゃないですか?」と突っ込みを入れたくなるほど常にジムにいる、まさに「筋トレこそ我が人生」の如しの超常連がいるのですが、そういう人たちを除き、基本的にはジムに行く曜日や時間帯が変わると、そこで出会うメンバーもある程度変わります。
今日はそのジムで、大学時代英語科を専攻していた頃に僕の授業を担当してくれていた先生の内の1人(カナダ人)に偶然再会し、立場は違えど同じ「教員」経験者として軽く「教員トーク」が始まりました。そこでこのカナダ人の先生に言われたのが、
「やっぱりどう考えても日本の教員たちの労働環境は狂っているとしかいいようがないし、先生たちはかわいそうだ。この環境は絶対に変えないといけない。ちなみにカナダではね、もし教員が夕方5時を過ぎても学校に残っていてそのまま働き続けてて帰る気配がなかったら、それを見かけた人は警察に通報しちゃうからね。(←学校が教員の労働環境に配慮できていない、つまり労働基準法に違反している事に対する通報、という意味)」
という一言でした。
前回書いた、世間の皆様に日本の教員の劣悪な労働環境を理解していただくための記事である『3足のワラジを履かされる先生たち(部活編)』からけっこう間が空きましたが、このカナダ人の先生に言われたこの一言で、「やっぱりこの国の教員の労働環境は異常以外の何物でもないんだよな」と再確認しましたし、重い腰を上げて再び記事を書こうと思います。
タイトルにもありますように、前回のテーマが『部活動』だったのに対し、今回は『校務分掌』です。ここでおそらく教員関係者以外の方々は「こうむぶんしょう」という言葉を聞いて「コームブンショー?何それ?シオコショーの仲間か何か?」などと思っているかもしれませんから(←バカにしすぎだろ)、まずそもそも「校務分掌」とは何かから説明したいと思います。
例えば会社には「人事部」、「営業部」、「経営企画部」「○○開発部」等、いろんな部署があり、これら複数の部署が集まって1つの会社として運営されます。これと同じように、学校運営にも「部」というものがあります。ここでいう「部」とは、もちろん「野球部」や「サッカー部」のような部活動の「部」とはまた別のもので、先述の会社の部署に相当するようなものです。
具体的には、入試や卒業試験や普段の生徒の成績管理などをはじめとした、お勉強関連全般の事案を担当する「教務部」、普通の会社にもあるような「総務部」、学校行事全般をつかさどる「生徒会部」、生徒が問題行動を起こさないように目を光らせる、学校内の警察ともいえる「生徒指導部」、他にも「図書館部」、「保健部」等々いろいろあります。
この中でも特にキツイと言われているのが「生徒会部」と「生徒指導部」の2つであり、立場が弱く事実上発言権のない新人教員は大抵この2つのどちらかに所属させられます。ちなみに僕は生徒会部所属でした。
学校で働いてみるとわかるのですが、学校の年間スケジュールはほぼ毎月なんらかの行事があり、行事も何もないただ平穏な日々が続くだけの月はなかなかありません。また、行事自体はなくとも、その準備に2か月、3か月、あるいはそれ以上の時間を費やさなければならない案件もあるので、ほぼ年間通して何かある、という事になります。全部紹介しているとあまりに字数が長くなりすぎるので、今回は2つほど選んで書きます。
僕が担当した生徒会関連の仕事で特にキツかったのは文化祭関連です。僕のいた学校の文化祭は2日間あり、2日目は一般開放しているのですが、学校の教職員や生徒以外は事前に発行しておいた「招待チケット」がないと入場を許可しない、という仕組みになっていました。このチケットは事前登録制で、しかもそのチケットは発行対象者の属性によって6種類に分かれていました。
例えば生徒の家族を招待したい時は「家族招待」、他の高校の生徒を招待したい時は「一般招待」、中学生を招待したい時は「中学生招待」、etc…といった感じです。これら6種類のチケットは発行するための条件も発行申請のための期限も異なります。他の高校で勤務していた同期の教員は「ウチの学校はチケットの種類によって担当者が2~3人に分かれてるよ」と言っていましたが、僕の場合は6種類全てを1人で担当させられました。
チケット発行数は軽く1500件は超え、それらの記録は僕の意思に反し、全て紙ベースで保管しなければなりませんでした。これだけの数のチケットの管理を全て1人でやるので、当然膨大な時間をそのためだけに費やす事になり、授業の準備にまともに時間が割けないという本末転倒状態になってしまいました。夜になっても学校に残り、ひたすらチケット関連の仕事ばかりやっていた事は今でもよく覚えています。
そして、チケットだけでなく文化祭当日の受付の設営の担当も僕だったのですが、前任者から渡された「文化祭チケット・受付準備の引継ぎの資料」がまたしても書いた本人にしかわからないような落書きレベルのものであり、情報が読み取れなさ過ぎてとにかく困ったものでした。
水泳部のプール管理の時と違い、前任者は生徒会部から他の部に異動はしたものの、一応同じ学校に残っていたので、わからない所は質問しようと思えばできました。ですが、この人はなかなかのクセモノで、わからない所を質問してもこちらの質問にまともな回答をよこしてくれず、しまいには「必要な情報は全て引継ぎの資料に書かれています。それを読んでください」で締めくくられ、冷たく突っぱねられてしまうのでした。
しかも、〆切直前になって「文化祭の受付準備のために必要な○○、まだ用意してないんですか?」などと、この前任者から引継ぎの資料には一切書かれていなかった事に関していきなりイラつき気味に催促がきたりもしました。「必要な情報は全て引継ぎの資料に書かれている」とか言ってたクセに、全然書かれていないではありませんか。そりゃ〆切直前になっても用意できるわけありませんがな。せめてこちらが資料を見てもわからずにいろいろ聞いた時にまともな返答をしてほしかったですね。
ちなみに「引継ぎの資料が落書きレベルで情報が読み取れない」と困っていたのは僕だけではなく、同期で他の学校に勤務している人も同じ事を言っていました。「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「どのように」「なぜ」といった、人に情報を伝えるにあたって最も重要である5W1Hがことごとく省略されており、とてもこれから仕事を引き継ぐ人のための資料とは思えないほどの酷い出来栄えなのです。
この点については、この同期の彼も「人にモノを教えるプロであるはずの教員が、他の教員にこんなにも仕事関連の情報の伝達ができていない事に対してショックを受けた。」と嘆いておりました。彼は国語の先生であるためか、なおさら先輩教員のこのような体たらくに憤りを覚えていたようです。
ちなみに僕は現在、とある民間企業に勤めておりますが、こちらではこのように「落書きレベルの引継ぎの資料と前任者の不誠実な対応に悩まされる」という事態は一切経験しておりません。情報共有はしっかりしているし、もし資料の内容がわからなくても、こちらがわかるまで丁寧に説明してくれるような親切な人に囲まれて仕事ができているからです。
それもそのはず。入ってみたその後に知ったのですが、僕が現在働いているこの会社は「ホワイト企業ランキング」で日本一にランクインされていたのでした。まぁ「日本一」と言っても、同率1位が150社ぐらいはありましたし、「従業員数○○人以上○○人未満」といった具合に、このランキングは企業の規模によって「中小企業部門」や「大企業部門」などと部門も分かれていましたから、僕のいる会社が文字通り最も優れているという意味ではなく、あくまでも「ホワイト具合」で高いレベルにある、ぐらいの認識でよいと思います。
さて、生徒会関連の仕事の話に戻りましょう。「生徒会関連」の仕事と言っても、僕が担当していた文化祭や生徒会役員選挙やその他の行事は生徒との関わりがわかりやすく、「生徒会関連」と言われるのもわかります。しかし、パッと見「これって生徒会と何の関係があるの?」と思ってしまうようなものもあります。
それが僕の場合は「自販機担当」でした。この学校には自動販売機が複数設置されており、その管理責任は僕にある、という事になっていました。自動販売機で飲み物を買ってもお釣りが出てこないなどのトラブルが生徒から報告された場合は、僕が業者にその都度連絡して来てもらわねばなりませんでしたし、自販機の近くに空のペットボトルや缶などがポイ捨てされていたら、それを見つけるたびに片づけるのは僕の仕事でした。(←この仕事のせいで他の仕事が何度も中断させられました)
24時間自販機ばかり監視していられるわけではないので、生徒がポイ捨てをしたその瞬間に注意するなどという事はできないのは言うまでもありません。缶は飲みかけのものも少なくなく、片づけようとした途端に中身がこぼれて靴下などが汚れる等という事もありました。
ちなみに僕と同じ年にこの学校で働き始めた同期の子は生徒指導部に配属され、こっちはこっちでかなりキツイ思いを毎日のようにしていたようです。生徒指導部の先生は言ってみれば「学校の中のおまわりさん」ですから、事件が勃発したらそれがどんなタイミングであろうとすぐに駆けつけなければいけません。
案件によっては、保護者の家まで行かなければいけない事も珍しくありませんし、本物の警察のお世話になる事だってあります。僕のいた学校は生徒は全体的に落ち着いたお利口な子が多かったですが、それでもいろいろヤバい事をやらかす子は何人かいるわけで、生徒指導部の先生たちは日々その対応に追われているわけです。
盗難未遂事件が発生した事もありましたし、被害者の心に深刻なダメージを与えるイジメ問題などもありました。普通の学校でもこの様子ですから、ちょっと荒れた学校にでも行けばその大変さは何倍にも跳ね上がるのは想像に難くないでしょう。
今回も、校務分掌で紹介したのはほんの一部のみでしたし、もちろん学校という職場に存在する問題点は実際にはこれだけではありません。前回の記事で「基本的に教員は3足のワラジを履かされる」と書きましたが、場合によっては4足目のワラジを履かされる事もありうる、とも書いたのを皆さん覚えていらっしゃいますか?
なぜそんな鬼畜レベルの事が起きるのかと言えば、その原因はズバリ、イジメです。
という事で、次回は教員間のイジメ、そしてそんな中でも懸命に頑張るマジメな人たちにもスポットを当てながら記事を書こうと思います。