テレビ番組で、いろんな職業の人がその業界のいろんな事をぶっちゃける『ジョブチューン』というのがありますね。僕はこの番組では『警察編』、『アスリート編』、『教員編』が特に面白いと思っていて好きなのです。そして今回はここで元教員である僕も『教員編』のぶっちゃけをしたいと思うのですが、それには2つの理由があります。

 

まず第一に、ジョブチューンの『教員編』だけでは出てこなかったぶっちゃけもいろいろあるのでそれも知ってもらいたいなという事。そして第二に、こちらの方が大きな理由なのですが、最近読んだとある記事に対して反応せずにはいられなくなった、というのがあります。

 

そのとある記事とは、「財務省が今後10年間で教職員の数を約5万人削減」しようとしているという内容のものです。聞けばその理由は「日本は少子化が進んでいるのだから、それに合わせて教職員の数も減らせばコスト削減になってよいではないか」との事らしいです。これには文部科学省が黙っておらず、「なんという無神経な事を!現場の状況をなんにもわかっちょらん!暴論じゃ暴論!」と激おこプンプン丸になっております。

 

この件に関しては、僕も文部科学省の方と同意見でして、「少子化が進んでるんだから教職員も減らせ」という発言に対しては、バカも休み休み言えって感じです。

 

ただでさえ、現時点で既に教員たちの労働環境は小・中・高を問わず劣悪であり、精神疾患にかかったり、逆にメンタルより先に体にガタがきて病院行きになっている人が大勢いるというのに、そこで人数を減らされたら1人あたりの負担が更に増し、もっと酷い事になってしまうのは目に見えている事です。だって、今の時点でも既に月あたりの残業が100時間を超えている教員は大勢いるのですよ?これ、ちょっと前にニュースになった、東大卒の20代の電通女性社員が劣悪な労働環境に耐えかねて自殺したあの件と同じぐらいの残業時間です。(※参考までに、厚生労働省が定める、「このラインを超えると過労死の危険のある残業時間」は、1か月あたり80時間です※)

 

あ、ちなみに、僕の知っている教員の中には月150時間の残業をしている人もいますし、更には、おそらく200時間超えているのではないかと思われる人もいました。ちなみにこの推定残業時間200時間超えの人は夜の2時でもまだ学校にいる事もあり、あまりに寝ていないので「ナポレオン」とか言われていました。

 

ニュースでは電通の自殺事件がインパクトがありましたが、教員の自殺問題も実はかなり深刻です。教員の自殺関連のオンライン記事やブログのリンクをちょいと見つけて貼っつけときましたので、関心のある方はご一読を。

 

教員採用半年で自殺、日記に残された言葉

教員の自殺原因構成

 

さて話は戻って、僕は既に教員を辞めて別の仕事をしているので、教職員の人員削減をされた所で僕の暮らしに直接影響はありませんが、今現在も僕の同期の教員や他の府県で教員として働いている友達がもっと苦しまなければならなくなるのかという事を思うと、やはり憤りを覚えずにはいられないのです。

 

ところで世間一般の皆さまの中には、「教員の仕事って一体何がそんなに忙しいの?月に残業100時間以上とか言うけど、何でそんなに残業が発生するの?学校の先生の仕事って授業を教えてればそれでいいんじゃないの?それ以外に何の仕事があるっていうの?」と疑問に思われている方もいらっしゃるでしょう。

 

そこでこの記事では、教員の知られざる仕事の実態について「ぶっちゃけぶっちゃけ!」しちゃいたいと思います。そしてこの教員の職場環境を知る事をきっかけに、世間の皆様には教員の労働条件のみならず、民間企業も含めて、劣悪な労働環境全般に対してもっともっと厳しい視線を持っていただきたいのです。

 

それでは教員の労働環境の実態の説明に移らせていただきましょう。タイトルにも書かれているように、基本的に学校の先生は3足のワラジを履かされます。場合によっては4足目のワラジを履かされる事もあるのですが、まずはその「3足のワラジ」とは何かを説明したいと思います。

 

ここで僕が言う【教員の3足のワラジ】とは、

 

[1] 授業や担任業務などの、教員としての本来やるべき業務

[2] 部活動指導

[3] 校務分掌

 

の3つを指す事とします。

 

[1]の授業に関しても、教科書は国の(よくわからん)審査を通過した「検定教科書」というものしか使えないので、教科書を作る会社もクリエイティブで面白くて学習意欲をそそるような内容の教科書はほとんど作れず、結果としてマトモな教科書が少なくなるので教員側としても「こ、この教科書で英語を教えろというのですか?」みたいな感じになり教えにくいという事など、いろいろ不満はあります。まあでも、一応授業を教えるのは先生の本来の仕事の内ですし、この問題について話し出すと「先生の本来の仕事とは関係ない仕事をやらされているがために余計な負担が増えている」という論点からは外れてしまうので、[1]に関する問題点の指摘はここでは割愛し、また他の機会に述べたいと思います。

 

[3]の校務分掌はまた別の機会に紹介するとして、今回のメインは[2]の部活動ですね。学校の先生がどんな感じで部活動のお仕事をしているのか、ちょっと見てみましょう。

 

ところでみなさん、どの先生がどの部活動を担当するかがどのように決められているか、ご存知ですか?実はですね、部活動の顧問決めにおいては、「適材適所」という概念が無視されているケースが少なくないのですよ。スポーツの強豪校とかだったらちゃんと指導力や適性を基準に部活の監督を決めるのですが、普通の公立学校の普通の部活であれば、「適性なんて、そんなの関係ねぇ!オッパッピー!」というのがけっこうあります。

 

例えば僕の場合、赴任先の学校で実際に勤務が始まる前にガイダンスみたいなものがあり、そこで「どの部活動の顧問を担当したいか」の希望を第一希望から第三希望あたりまで書かされました。ちなみに、「どの部活動にも顧問として登録しない」という選択肢は与えられません。僕は高校まで陸上をやっていたので、第一希望には「陸上部」と書きました。

 

この第一希望にはどんな部活の名前でも書けるのですが、第二希望以降は、「この『顧問の人手が足りてない部活のリスト』の中から選んでください」という縛りがかかっており、そこにあったのは、「水泳」、「野球」、「剣道」など、僕にとっては全く選手としての経験のない畑違いのものばかりでした。

 

第二希望に「水泳」と書いたら、案の定、「ごめんなさいね、陸上部は今既に人が足りていてね、これ以上顧問はいらないんですよ。第二希望に水泳と書いていただけたので、水泳部の顧問という事でよろしくお願いします」と言われました。こうして「双方の合意の下で」、そして「円満に」、僕が水泳部の顧問をやる事が決まったのです。

 

ちなみにどの部活にも、主顧問、副顧問、第3顧問、第4顧問と4人の顧問が登録されるのですが、基本的に仕事の大半を担当するのは主顧問と副顧問だけであり、第3顧問と第4顧問はほとんど仕事をしない、「幽霊部員」ならぬ「幽霊顧問」である場合が多いです。

 

で、僕は水泳の経験は自分の学生時代に体育の授業でちょっと泳いだ事があった程度なのに、なんと主顧問、つまりヘッドコーチに就任してしまいました。副顧問の人は理科部で既に主顧問が決まっていてさすがに2つの部活で両方とも主顧問をこなすのはキツイとの事。第3顧問の人は教員になる前まではバリバリ現役の水泳選手だったのですが、現在は小さなお子さんを持つ母親であり、部活動のために遅くまでは残れないという人で、そして第4顧問は特に忙しくないはずなのに年功序列を理由に仕事を免除されて楽をしているという人でした。(この人は普通に夕方5時、遅くても6時には仕事あがっていました)

 

水泳部の顧問はプール管理を担当しなければならないらしく、主顧問であるという理由で僕がプール管理を任される事になりました。プール管理のやり方を知っていた唯一の人物は前年度までのこの水泳部の主顧問の先生だったのですが、この先生は僕がこの学校に赴任したと同時に他の学校に転勤してしまい、入れ違いになってしまいました。「引継ぎの資料」と呼ばれる紙が置き土産に残されておりましたが、それは書いた本人にしかわからないようなメモ書きレベルのものであり、プール管理の経験のない僕は何をどうしてよいのかわからず途方に暮れてしまいました。

 

プールの濾過機の使い方もわからない。プールの塩素レベルを一定に保つための、機械に投入する薬品や水質チェックの道具がどこにあるのかもわからない。わからない事だらけなので体育の先生たちに聞いてみるも、「それね~、前の水泳部の主顧問のあの先生に完全にお任せだったから、わかんないんだよね~。ごめんね~」と言われるばかり。困り果てて、体育の先生で水泳部の第4顧問にも登録されており、尚且つ肩書上は「プール管理主任」となっている人に「プール管理がわからない事だらけで困っています」と助けを求めても、「ま、あなたのお好きなようにやってくださいな」と完全に丸投げ大魔王。

 

あまりにも困り果てた僕を見た、第3顧問の子持ちの理科の先生と、その先生と仲の良い同じく理科の先生(←水泳部とは一切関係のない人)、同じく体育の先生ではあるが水泳部とは関係のないハンドボール部の顧問の先生がわからないなりにもいろいろと協力をしてくれたおかげでなんとかなりましたが、あれで誰も助けてくれていなかったら完全にポシャッていたと思います。

 

プール管理のやり方がある程度わかった後でも、プール管理は僕の仕事である事は変わりなく、僕は毎朝に早めに学校に到着してプールの水質をチェックして、その水質の値がおかしければ機械室に行って薬品を投入し…etcといった事を来る日も来る日もやらなければなりませんでした。

 

しかも前任の主顧問の先生が残していったあの「メモ書きレベルの引継ぎの資料」に書かれていた通りにやっていたら、ある日機械がおかしくなってしまい、あわてて業者に電話して助けを求めたら、「あのねぇ、こんな使い方したら機械に無理な負担がかかるから、そりゃおかしくなりますよぉ」とレクチャーされる始末。

 

そして授業が終わった後に部活動を見るのはもちろんの事、試合のための選手登録、大会があるとそのための登録作業をしなければなりませんし、水泳の大会運営のために必要なミーティングに出席するために平日の授業がある時間帯でも出張しなければなりません。

 

ちなみに僕はこれでもまだマシな方で、高校総体の地区大会の運営の幹部を任されたりすると、その作業だけでも文字通り徹夜の作業になったりします。これ、当然普段の教員としての本来の仕事である授業とかもこなしながらやるわけです。しかも、こういった部活のために費やす時間は事実上ボランティアであり、土日に大会などで1日10時間以上拘束されようとも、2,000円ぐらいの日当(時給換算で200円とか)がもらえる程度で、ちゃんとした残業代は出ません。

 

僕がこの仕事を辞めた後、当然誰かが僕がやっていた水泳部主顧問のポジションを引き継ぐ事になったのですが、その主顧問のポジションについたのは、なんと僕が主顧問をやっていた時に第3顧問だったあの理科の先生でした。この人はまだ小さな子供がいる母親でもあるから、いくら水泳選手としての経験があるとはいえ、拘束時間の長い主顧問のポジションを割り当てるのは不適切なはずです。時間的にはこの人よりも余裕があったはずの人は何人かいたはずなのに、どうやら上手い具合にこの人に主顧問の仕事をなすりつけたようです。

 

ちなみに他の子持ちの女性の先生たちの中には、部活も第4顧問という幽霊顧問のポジションをゲットし、[3]の校務分掌でも事実上仕事のほとんどない役職しか与えられず、時間休も十分にとって快適な生活をしている人が何人かおり、同じ「子持ちの女性教員」でも、労働条件を配慮してもらえる人と配慮してもらえずいじめられる人に分かれるようです。

 

他校に勤務している僕の知人友人の中にも、部活動だけでも激務の人は何人もいます。例えばやはり専門外なのに野球部の顧問になってしまい、挙句の果てには「野球部の顧問になった以上は今後6年間はプライベートはないと思え」と言われたという人、主顧問をしている部活の夏合宿と副顧問をしている部活の夏合宿と教員1年目の人が受ける初任者研修の夏合宿が見事なまでに全部連なり、20日ほど連続で1回も家に帰れなかった人(当然夏休みなど全く取れず)などなど、聞いているだけで頭が痛くなるような話がわんさか出てきます。

 

このように部活動関連の先生の仕事の話をいろいろ出しましたが、こんなものはあくまで氷山の一角、序の口にすぎず、もっと本格的に話し出したらキリがありませんので、今回は部活の話はとりあえずこのへんにしとこうと思います。

 

なお、「教員の労働条件が悪いのは、ただ単に仕事の割り当てが公平に行われていないのが原因なのだから、人員削減しても別に問題ないのでは?」という指摘が挙がるかもしれませんが、僕はそうは思いません。

 

確かに教員の間での仕事の割り当てには不条理なものや無駄なものが多いと思いますが、この「弱い立場の人に仕事が押し付けられる」という現象はそうそう簡単に解消されるものではなく、今この状況で人員削減などをされてしまっては、既に大量の仕事を押し付けられている教員にさらなる負担が集中し、教員の間での精神疾患や自殺の問題は今よりも更に深刻なものとなるでしょう。それに、仕事の分担が上手く行われていない事だけが長時間労働の原因というわけでもないのです。

 

これ以上教員の労働環境を悪化させるような事は絶対にあってはなりません。

 

そして、忘れないでほしいのですが、いろいろドロドロした話を序の口レベルでしましたが、ここではまだ【教員の3足のワラジ】の内、[2]の部活の事しか話していません。まだ[3]の校務分掌に関しては全然話してませんからね~。

 

という事で、次回は「校務分掌」についてご紹介しようと思います。