前回の記事で、語学学習において、勉強中の言語が自分の既に知っている言語と性質がかけ離れている場合は、文法の学習をおろそかにしてはいけないが、学校で伝統的に教えられてきた文法訳読方式で勉強する必要はないという事を書きました。ではどうやって勉強すればいいのかという話になってきますが、その前にまずは最低限どんな文法項目を学習すべきかを考えてみましょう。

 

いかなる言語の学習でも、これだけは覚えておきたい基本的な文法項目は以下のリストにある、大体10項目ぐらいなもんでしょう

 

・5W1H(「いつ」、「誰が」、「どこで」、「何を」、「なぜ」、「どのように」を言い表す単語を覚える事。また、その単語が用いられた表現を読んだり聞いたりして理解でき、自分でもその単語が用いられた表現を使って喋ったり書いたりできる事)

・時制(現在形、過去形、未来形の使い分け)(~する、~している、~した、~しよう、~するつもり)

・疑問文の作り方(「~です」を「~ですか?」にするにはどうしたらよいか)

・希望、願望の表現(「~が欲しい」「~したい」という表現)

・肯定文と否定文の使い分け(「○○は△△です」VS「○○は△△ではありません」)

・条件文(「もし~だったら」「~の場合には」)

・受け身(「~する」→「~される」)

・比較級・最上級(「~は○○より△△だ」、「~は最も○○だ」)

・数の数え方

・接続詞(「そして」、「だから」、「しかし」「なぜなら」等、文と文や節と節をつなぐもの)

・接置詞(英語で言う前置詞 in, at, of, to, on等。日本語で言う格助詞。「~が」、「~で」、「~に」、「~を」等の「てにおは」)

 

上級レベルに達していない人は、これらの項目を十分なレベルで身につけてはいません。日本の「文法偏重」の英語教育の問題点の一つは、生徒がこれらの基礎的な文法項目をリーディング、リスニング、ライティング、スピーキングの全ての分野でバランスよく使いこなせていないうちに、やれ「仮定法過去」だとか「関係代名詞の制限用法と非制限用法」だとか、更に複雑な文法項目を押し込もうとする事です。ボキャブラリーにしても同じ事が言えます。上記の基本的な文法項目と合わせてよく使われる基本的なボキャブラリーがうまく使いこなせていないうちにhypocriteとかindescribablyとか、初中級レベルの人がいつ使うんじゃと突っ込みたくなるような単語ばかり暗記させようとします。

 

そんな事する前に、上の基本的な文法項目や基本的なボキャブラリーの範囲内のみでいいから、読んでも聞いても理解できるし、書いても喋っても表現できるという状態にさせるべきでしょう。それができてこそそれらの文法項目を「マスターした」と言えるし、より高度な文法項目に取り組む準備ができたと言えるというものです。それができてもいないうちは次のレベルに進んでも更にわけわからなくなるだけです。

 

さて、ではこれらの文法項目をどうやって覚えればよいかですが、主に次の2通りになるでしょう。

 

・リーディングを通して覚える

・パターンプラクティスをする

 

既に一定の年齢に達している人が語学学校に通うわけでもなく独学で言語を勉強する場合は、文法項目やボキャブラリーの増強は基本的にリーディングを通して行う事になると思います(特にまだ中級者レベルにも達しておらず尚且つ勉強している言語が自分の喋れる言語と大きく異なる場合)

 

(※もっとも、この段階でリスニングをやらなくていいわけではありません。リーディングで勉強した事と全く同じ内容のオーディオ教材もあるとなおよいでしょう※)。

 

基本的な文法項目をカバーした、登場人物が会話をしている内容の教科書を使って文法を覚えるのが一番手頃でシンプルだと思います。ここで注意したいのは、文法の解説ばかりがひたすら書かれている分厚い文法書をメインのリーディング教材に勉強すると挫折しやすいという事です。あらゆる文法項目が詳しく網羅されている文法書はいわば辞書のようなもので、何か他の読み物をしている時にわからない文法項目がでてきた時に参照するという使い方をした方が効果的です。分厚い文法書をメインの教材として、それを端から端まで読むのはあまりお勧めしません。辞書を端から端まで順番に全部読む人がいないのと同じ事だと思います。

 

パターンプラクティスとは、文字通り文を一定のパターンにはめ込んで文法を練習するというものです。例えば、I want to ~(私は~したい)という表現を勉強したとします。「~」の部分にはどんな動詞を入れてもいいわけですから、I want to eat ○○と言ってもいいし、I want to go to ○○と言ってもいいです。で、意味さえ通っていればこの「○○」にどんな名詞を入れても自由ですから、I want to eat sushiとか言ったり、I want to go to Tokyoとか言ってもいい。他にもI will ~(私は~するぞ)という表現を学んだとします。「~」の部分にはどんな動詞を入れてもいいですから、I will buy ○○とかI will go to ○○とか、どんな風にでもつなげられます。

 

このコアとなる部分だけを覚えておいて、あとは自分の表現したい内容に応じて「~」の部分や「○○」の部分に自分がこれまで学んだボキャブラリーを当てはめれば、それが自分だけの「チャンク」となります。チャンクとは、意味のかたまりの事で、このチャンクが増えれば増えるほど、そして大きくなればなるほど表現の幅が広がります。

 

上記の例でも、I want to ~とI will ~の2つの表現が出てきましたが、これだって組み合わせれば、より長い文章が完成します。例えばI will buy a shinkansen ticket because I want to go to Tokyoとか、I will go to a sushi restaurant because I want to eat sushiとか、そんな感じです。この「~」や「○○」以外のコアの部分の文法を覚えておき、「~」や「○○」の部分にボキャブラリーをいろいろ当てはめる練習をして、そのパターンを増やしておく。これによって、文法もボキャブラリーも、その記憶をより強固なものとする事ができます。

 

文法を勉強する2つの方法を書きましたが、ここで気を付けておきたいのは、どちらか片方だけやっていても高い学習効果は期待できないという事です。せっかくリーディングを通して新しい文法項目を勉強したとしても、パターンプラクティスで実際に練習してみなければ、学んだ文法を使うという事をやっていないわけですから、記憶としては定着しにくいでしょう。パターンプラクティスだけやっていても、新しい文法項目やボキャブラリーも覚えなければ、今知っている範囲内の引き出ししか使えず、それ以上増えません。

 

勉強したらそれを使って記憶を定着させ、定着したら新しい事も勉強する。この繰り返しです。日本の英語教育が高い効果を上げられない要因の1つとして、パターンプラクティスが不十分であるという事も挙げられるでしょう。文法項目そのものは一通り全部カバーされてはいるけど、学校卒業したら忘れてしまう人がほとんどですが、それは記憶の定着率の悪い方法で勉強させられるケースが多いからでもあると思います。

 

ちなみにこのパターンプラクティス、「I want to ~」と、覚えた内容を書いて練習するのはもちろん、口に出して喋って練習しても効果があります。要は自分が取り入れた情報を元に、自分が言いたい事を発信するわけですから、書いても喋ってもどちらでもいいわけです。もっと言えば、必ずしも口に出して喋らなくても一定レベルの効果を出す事はできます。学んだ文法構造を元に作った文章を、自分の頭の中で独り言のように何度もつぶやいても学習効果があります。

 

僕は結構頭の中で独り言を言うタイプの人間なので、暇さえあれば覚えた文法項目に覚えた単語を当てはめて文章を組み立て、独り言のようにブツブツつぶやいています。実際に口に出してやっているわけではないので外からは見えませんが、頭の中ではパターンプラクティスを用いた勉強内容の復習が行われているわけです。

 

《ポイントまとめ》

・上級レベルを目指す前の段階で覚えるべき文法項目はせいぜい10項目ぐらい

・まずはその基本的な文法項目の範囲内で、リーディング、リスニング、ライティング、スピーキングができるように練習を重ねる事

・また、その練習のために必要な基本的なボキャブラリーも併せて覚える

※いかなる言語でも日常生活に必要な基本的ボキャブラリー(「食べる」「学ぶ」「歩く」「私」「これ」「なぜ」等々お馴染みのよく聞く・よく使われる単語の数々)はせいぜい2,000単語ほどであると言われている。中学3年間の英語で1,500単語ぐらいらしいので、決してそれほど膨大な数ではない

・文法書はメインとして使わない。使うにしてもあくまでメインの勉強を補助するための副教材として使う事。

・教科書を読んだりして覚えた文法項目の記憶は、パターンプラクティスで強化しておくこと。読みっぱなしだと学習内容の定着率が悪い。

・文法項目と単語を組み合わせれば、より大きな意味の塊である「チャンク」ができあがる。チャンクを増やす事、またチャンクの大きさを拡大する事が、後々の学習効果向上につながる。

・パターンプラクティスは書いて行っても、喋って行っても、頭の中で行ってもよい。