5月19日の火曜日。メルボルンのバックパッカーズに2泊した後、僕は新しいシェア先に移動していた。サザンクロス駅のすぐ向かいにある所で、週150ドルの部屋だ。この部屋は僕が自分でGumtreeやFlatmate.comなどを利用して見つけたのではなく、レンマークのバッパーで知り合った、インドネシア人のデヴィーナが紹介してくれた部屋だ。実はデヴィーナもレンマークに来る前はメルボルンに滞在していたらしく、この部屋が彼女がその時住んでいた部屋なのだという。彼女も僕の1週間遅れぐらいでメルボルンに戻る予定だったので、一緒の部屋に来たらどうかと話を持ち掛けてくれていたのだ。

 

デヴィーナのおかげで楽に見つかった今回の部屋。実際どうだったのかというと、これはこれでなかなか面白い所だった僕が入ってくる時点ではこの部屋の住人は6人。僕とドイツ人の男の子と女の子が1人ずつ、イタリア人の男の子と女の子が1人ずつ、韓国人の年上の兄ちゃんが1人だ。ここに後でデヴィーナが入り、そこから更にドイツ人の男の子と女の子が1人ずつ入ってきて、最終的にはそれほど広くもない部屋に9人が暮らすという密集空間になってしまった。

 

まず最初にルームメイトの中で面白いなと思ったのはイタリア人のファビオだ。この子は見た目はなかなかのイケメンなのだが、キャラ的には僕が持っていたイタリア人のステレオタイプに見事なまでにはまった、フレンドリーではあるがいかにもテキトーで軽いノリの感じの男の子だ。ある日、いつものように僕が部屋の出入り時に鍵をかけていたら、ファビオが僕に話しかけてきた。

 

ファビオ:「あ、ドアの事なんだけど、カギはかけなくていいよ。僕たちはここにいる人たちをみんな信用してるからさ^^」

 

僕:「え、そう?でも、最後に出ていく人ぐらいはカギをしめていった方がいいんじゃない?ほら、ここに貼られてる大家さんからの通達でも『最後に部屋を出る人はカギをかけていくように』って書かれているし」

 

ファビオ:「え、そうかい?そうか。それはそうかもしれないな。君の考えの方が、正しいのかもしれないね。それはグッドアイディアだ^^」

 

いやいや、むしろテナントポリシーに書かれている事を言っただけだから^^;

 

ファビオのノリはこの通りゆる~いのだが、彼のゆるゆるエピソードは他にもある。例えば、メルボルンに来てからこれまで彼がどんな仕事をしてきたのかについて話をしていた時のこと。

 

ファビオ:「最初はね、僕はCBDのちょっと北の方にあるイタリアンレストランで皿洗いとして働いていたんだ。時給は18ドルと悪くなかったし、そんなに忙しい所じゃなかったから急いで仕事する必要もなかったし、同僚もいい人たちだったから、働きやすい職場だった。だけどね、ある日上司に呼び出されて、『ファビオ、君はちょっとお喋りが過ぎるから別の職場に行った方がいいと思うんだ』とか言われて、工場みたいな所に移されたんだ。そこでも仕事内容は似たような単純作業だったから、やってた事はあまり変わらなかったんだけどね。でもね、ここの人たちはね、前の職場よりも更におおらかな人たちだったんだ。ある日、僕は1時間半遅刻して職場に着いた本当は朝8時出勤のはずだったんだけど、目が覚めたら8時10分とかだったんだ。すぐに支度をして家を出たんだけど、まだこの辺に引っ越してきたばかりだったから、道がよく分からなくてちょっと迷っちゃったんだ。ようやく正しい方向のトラムを見つけたんだけど、20分ぐらい待たないといけなくって、トラムを降りてからも20分ぐらい歩かないといけない場所だったから、着いたら9時半だったんだ。『ゴメンね~、遅刻しちゃった』と言いながら現場に入ると、みんな揃って『No worries!^^』って明るく声をかけてくれて、何事もなかったかのように仕事を再開したよいやぁこれには自分でもビックリだよ。イタリアだったら、例えば職場に10分遅刻したら、最初の1回は許してもらえるけど、2回目からはクビだからねぇ」

 

僕:「えぇ?イタリアの方がオーストラリアよりさらに緩いイメージがあったんだけど、意外と厳しいんだねぇ(←失礼)。もしかして、それってイタリア北部の話?同じイタリアでも南部は緩くてテキトーで、北部はマジメで働き者って聞いた事あるんだけど。」

 

ファビオ:「ああ、北部だよ。たしかに北部の方が少し働き者な傾向があるのかもね。まぁ僕は北部出身なのにこんな風なんだけどね~。それから、さっきの1時間半の遅刻の事なんだけどね、本来なら僕は遅刻のために職場にいなかった1時間半分の給料は支払われないはずなんだよね。しかし、しかーし!実際にはその1時間半分までも払ってもらえていたんだ。なんてビューティフルな職場なんだ^^」

 

おお、すげぇなあ!世の中いろんな職場があるもんだな。レンマークで3か月弱働いていた天国ファームもなかなか緩かったが、このファビオの職場はそれよりもさらに緩いのではないか?何で僕はメルボルンでのレジュメ配りの時にCBDの北の方のエリアを攻めなかったのだろうと少し悔しい気持ちになった(笑)

 

他にも、ファビオはけっこう人懐っこい所がある。ある日、僕は自分のスマホで日本語のページを読んでいたのだが、そこにファビオがヌ~っと顔を出して覗き込んできた。

 

僕:「フッフッフ。読めるぅ~?(^ω^)」

 

ファビオ:「うん!いくつかは!これは…『の』!」

 

僕:「おお、すごいすごい!正解だよ^^」

 

ファビオ:「これも…『の』!こっちにあるのも…『の』!それからこれも…『の』^^

 

ひらがなの「の」しか読めないのね(笑)

 

ファビオは日本語が聞こえてくると、いつも「の」に反応してくる例えば、ある日デヴィーナがYouTubeで『アナと雪の女王』のLet It Goの日本語版を聴いていたのだが、そこでもファビオは入り込んできて、「ありの~♪ままの~♪」の「の」の部分だけ一緒に歌うのだ。サビの部分以外でも、とりあえず「の」が聞こえてくる所だけは全部一緒に歌う

 

けっこう前から、イタリア人と一緒に住んだら、ゆる~いノリで面白いんだろうな~と思っていたが、実際一緒に住んでみると、本当にゆるゆるで面白いではないか(笑)こうしてみると、イタリアも面白そうな国に思えてきたなぁ。スウェーデン語が上級レベルまでいったら、次はイタリア語をやってみてもいいかも(^ω^)

 

なぜかお皿をオーブンで焼くファビオ君。