インダクションが行われた次の週の火曜日、ついに天国ファームでの雇用が終わってしまった。このファームで働き始めて12週間目の2日目での事だった。元々ワーホリの人に任せられる仕事そのものが終わってしまうかもしれないという話は10週目ぐらいから聞いていたのだが、ファームのボスが僕たちバックパッカーズがもう少し長くここで働けるように、わざわざ余分に仕事を見つけてきてくれていたおかげで雇用期間が少し延びて12週目までいられたので、感謝感謝だ。この時点でファームの仕事の日数は実働60日ぐらいだったので、セカンドビザの申請権利を得るための88日に満たすためにはあと30日弱ぐらいは働く必要があったのだが、今のビザでの残りの滞在日数を考えるとギリギリ間に合うかどうかという所だ。この時点では、次の仕事がいつごろ見つかるかわからなかったし、とりあえずはもう少し待ってみようかなと思った。

 

その週の土曜日である5月2日の朝。ついにミスター悪臭がこのホステルから出て行ったもしかしたら、レンマーク滞在中で最も嬉しかった事のうちの1かもしれない(笑)奴の荷物が部屋から一掃された所で、早速僕は部屋の床の掃除に取り掛かった。すると、溜まっていた埃の凄い事凄い事(^^;)特に奴のベッドの下の床なんかとんでもない事になっていて、ちりとりがいっぱいになってそれをゴミ箱に捨てて、またちりとりがいっぱいになるまでほうきで埃を集めてを何回も繰り返して、やっとそれなりにまともな床の状態に戻すことができた。

 

ミスター悪臭の使っていたベッドのマットレスがあまりに汚かったため、このホステルのオーナーのマットがマットレスの交換のために部屋に入ってきた。

 

マット:「ようやく出て行ったね、あいつ」

 

僕:「いやぁ~マジで嬉しいっす。ホント大変でしたもん。」

 

マット:「これでこれからは綺麗な部屋に住めるね」

 

僕:「ホントホント。それにしてもあんな汚い奴初めてですよ。今まであんな奴いたんですか?」

 

マット:「いやぁ僕もあんな奴は初めてだよ!精神的にも相当ガキだったしね」

 

僕:「やっぱりそう思いますよね?あの人格者のレイですら、けっこう不愉快に思ってたらしいですからね~。それにしてもオランダ人って、もっとマジメで清潔で礼儀正しいってイメージがあったんですけど、あいつは見事に期待を裏切ってくれましたね」

 

マット:「そうそう!僕もオランダ人にはいいイメージがあったもんなんだが。それからあいつの事で信じられないのは、周りを気にする気配のかけらほどもなかったって事だよ。あれだけ周りに不快な思いをさせているというのに、当の本人は気にしていないんだよな。どんな子があいつの彼女になるっていうのか、全く想像がつかないね

 

僕:「あいつと同じぐらい汚くて、似たようなレベルの思考回路の女の子とかがなるんじゃないですかね」

 

マット:「うぇぇぇ、考えたくもないカップルだ」

 

ここから更に1週間が経ったが、その段階でもまだ僕は次のファームジョブを確保できずにいた。天国ファームで働き終わって2週間弱だ。貯金を殖やし続けたいという事情を持つ僕としては、無収入の時期があまり長く続くのは避けたい。このままレンマークでファームの仕事が手に入るのを待つ日々でいいのだろうかと思った。

 

この頃、僕はセカンドワーホリビザを狙わずに早目にメルボルンに戻り、日本に帰った方がいいのではないかという風に考えるようになっていた。そもそも、僕がオーストラリアのワーホリに来た目的は、もちろんオーストラリアの社会を外国人労働者の視点で見てみたいという好奇心もあったが、もう一つの目的として、北欧に行く準備をするための環境を整えたかった、そのためにオーストラリアを選んだ、というのがあった。オーストラリアのワーキングホリデーなら、仕事をしてお金を稼いで貯金をして、英語の勉強量も自然に増やして、スウェーデン語の勉強量も余分に確保できる、そう思って来たのだ。だが、今の状況を見てみると貯金のペースがよろしくないどころか、むしろ無収入のために日に日に貯金が減っていく。

 

しかも、仮に88日労働の条件を満たしてセカンドビザの申請権利を得たとしても、申請料が400ドル以上かかるし、滞在期間を延長するとなると海外旅行保険の期間も延長する事になるので、また更に数百ドル余分にかかる事になる。つまり、オーストラリアの滞在期間を延長するためだけに1,000ドル近くを一気に失う事になるのだ。ちょっと前のような天国ファームでの仕事がずっと順調に続いていて、十分な収入が定期的に入っていれば、1,000ドルの支出もそれほど気にならなかったかもしれないが、今は無職で無収入であるため、こういった支出は避けたい。あくまで僕は北欧に行くまでの間、貯金と英語とスウェーデン語の3つを同時進行させなければならないのだ。

 

ミスター悪臭が去った土曜から更に1週間した所で、マットに「たぶん次の金曜日にレンマークを出ると思います。まだ完全に決まりではないから火曜か水曜の午前ぐらいまでにはもう1度連絡します」と伝えた。火曜辺りまで最終決定を待つ事にしたのは、もしかしたらまだいい仕事が入るかもしれないと思っていたからだ。すると火曜日にはマットから新しい仕事の情報が入ったが、マット自身もあまりノリ気で勧めてきていなかった。

 

マット:「さっき連絡が入ったから、一応仕事を紹介できる事はできる。ただこの仕事、あんまりみんながやりたがらない仕事なんだ一応聞いとくけど、どうする?」

 

僕:「それって何の仕事ですか?」

 

マット:「パーシモン(柿)のピッキングだよ」

 

僕:「うーん、そうですねー。やっぱこの前言った通り、金曜日にレンマークを出ます。」

 

結局僕はレンマークにはこれ以上残らずにメルボルンに戻る事にした。早速この後でホステルから徒歩数分の所にあるインフォメーションセンターでアデレード行のバスを予約し、戻ったら今度はスマホのネットでアデレードのホステルも2泊分予約しておいた。

 

ところで、さっきマットが言っていた柿のピッキングの仕事、誰が働き手を募集していたのかというと、あの悪評の広まっているベトナム人経営のファームだった事が後になってわかった。ちょうどこれぐらいの時期に新しくレンマークに来た日本人バックパッカーのSさんがこのファームで働いていた事があったらしいのだが、やはり劣悪な労働条件に嫌気がさしてすぐに辞めてしまったのだそうだ。

 

天国ファームの仕事が終わってからは最後までいい仕事と巡り合えなかったが、レンマーク滞在に関しては十分満足だ。気が付いたらもう既に4か月もここに滞在していたのだが、全然そんな感じがしなかったAPLaCの体験談でも他のサイトで見つけたスコットランド人のレビューでも、同じように「気が付いたら何か月も住み着いてた」とか書いてあったなぁ。

 

確かにここレンマークにもしょーもないファームはいくつかあるが、一度いいファームに当たれば本当に快適な生活になる。町そのものも静かで落ち着いてる感じで、綺麗な所だ。ここにいる人たちもシティとはまた違ったフレンドリーさを持っていて、気が付いたら見知らぬ人といきなり喋り始めて仲良くなっていたという事も何回かあった。

 

公園に出没してトレーニングのためにダッシュや懸垂をやっていたら、地元の子供が筋力トレーニングのやり方を教えてくれと話しかけてくれてそのまま立ち話になったり、図書館の開館時間を間違えて早く来てしまったら、同じく早く来てしまったオバちゃんに話しかけられてまたも立ち話になったり。他にも地元住民ではないが、同じホステルの住人の台湾人たちが外でのバスケやサッカーに誘ってくれて一緒に遊んだり。ネットの接続環境とかは確かに不便だったけど、ここでの人との触れ合いもなかなか楽しかったな。ありがとう、レンマーク。次はいつ来るかわからんけど、ここも大事な思い出の場所の1つだ。

 

 

ミスター悪臭が去った後は早速部屋の掃除!写真の通り、チリトリはゴミでいっぱい。これを何回も繰り返し、やっとまともな部屋になった。