11月25日の火曜日。最近の僕のシフトは月火休みなので、この日は仕事はお休みだ。今住んでいるアパートに引っ越してきて既に4か月ぐらいになるのだが、今更ながらプリンターを買った。元々このアパートの部屋にはプリンターはついていなかったので、何か印刷したいものがある場合は文房具店のOffice Worksに行って、そこで印刷をしていたのでそれで事足りていたのだが、今回はプリンターを買った方がいいなと思う状況になったのだ。実はこの日は僕の誕生日だった。僕が普段一緒に食事に行ったり遊びにいったりするメンバーは基本的に平日空いていないから会えないし、僕自身も特にこの日は予定はなかったのだが、1つやる事ができた。いつも仲良くしているスウェーデンの友達から誕生日プレゼントが届いたのだが、それは電子媒体でけっこうなページ数で送られてきており、カラー印刷したいなと思ったので、Office Worksに持って行って印刷するより自分で安いプリンターを買ってしまった方が安上がりだと判断したのだ。
40ドルほどのプリンターとコピー用紙を数ドルで購入し、アパートに着くと早速プリンターのセットアップを始めた。セットアップが完了したのかなと思い、パソコンに保存してあった電子データを印刷しようとしたのだが、プリンターは上手く機能しておらず、全然プリントアウトできない。購入したプリンターの会社のホームページに行って、そこに書かれていた事をいろいろ試したのだが、やはりうまくいかなかったので、テクニカルサポートを頼む事にした。
このテクニカルサポートというのは、この会社が提供するオンラインサポートの一つで、専属の技術者が24時間体制でスタンバイしており、客がチャット機能を開いて話しかけると即座に対応してくれるというものだ。客にとっては非常に便利だが、こんな環境で働いている労働者側の体調は大丈夫なのだろうかと、ふと心配してしまった。
今回僕のテクニカルサポートを担当してくれる事になったのはピートという男性だ。僕の質問に対するピートのレスポンスは早く、対応も丁寧で信頼できそうな人だという印象を受けた。ピートは「○○と○○のボタンを押してリセットをしてみましょうか」とか、いろいろ具体的な操作を細かいステップに分けて指示してくれた。だが、彼の指示通りにやってみてもプリンターはまともに機能しないままだった。いくつかの方法を試してみた後でも状況の進展が見られなかったため、ピートはこんな事を言ってきた。
ピート:「提案があります。今からあなたにあるファイルを送るのですが、このファイルをダウンロードしてもらえば、私はあなたのパソコンの状況をより詳しく知る事ができるようになります。もっと言うと、あなたのパソコンを私の側で遠隔操作できるようになるのです。あなたのパソコンのデスクトップに何が映っているのかも全部見えるようになるし、マウス操作もこちら側でできるようになります。それによって、今起きているあなたのパソコンとプリンターの接続の問題がプリンターの問題によるものなのか、あなたのパソコン側の問題によるものなのかが診断できる事になると期待しています。ただ、この条件を受け入れていただく前にお伝えしておく事があります。もしあなたがこれ以上パソコンを遠隔操作されたくないと思ったら、いつでもキーボード上のPause/Breakキーで遠隔操作を強制終了する事ができます。」
これまでのやり取りでピートは信頼できる人だと思ったのでピートの提案を承諾し、送られたファイルをダウンロードすると、本当に僕のノートパソコンの矢印が独りでに動き出した。ピートの遠隔操作が始まったのだ。おぉ、すげぇなぁ。これがピートみたいにちゃんとした人だからいいものの、もしこれがどっかの悪い奴にやられてたら本当にとんでもないことになるぞ。
改めて現代のテクノロジーの凄さを感じながら、ピートのパソコンの遠隔操作を見つめる僕。そしてスタートメニューからどんどんコンピューターの中まで入り込んでいこうとするピート。するとさっきまでスラスラ動いていたピートの矢印がピタッと止まった。そしてピートとのチャットのウインドウに”Pete is typing…(ピートがメッセージ入力中...)”という表示が現れたではないか。どうしたというのだ?
ピート:「に、日本語が読めない….」
そういえばそうだった(笑)僕には日本語で書かれた文は当たり前に読めるが、ピートは日本語が読めないんだった。結局オンラインサポートはこれ以上は無理と判断してここでチャットを終了し、後日プリンターを返品して新しいプリンターと交換してもらった所、何事もなくプリンターは接続でき、無事に電子データを印刷する事ができた。やっぱりあれはプリンターの問題だったのだな。
時々テレビとかのニュースでパソコンの遠隔操作・乗っ取りに注意とか言われるけど、日本の外ではコンピューターの言語設定が日本語だと意外にもそれ自体がセキュリティとして機能しちゃう事もあるという事を実感した一日でした~。