劣悪な職場環境のジャパレスを辞める日に、ボスであるスネ夫ちゃまにこの最終日の分の給料も払ってくれと言ったらキレられ、しまいにはワイン瓶で殴られそうになった僕(前回のエピソード参照)。防衛手段として、僕は上半身裸になって鍛え方の足りないスネ夫ちゃまとの体格の違いを見せ付ける事にした。さて、スネ夫ちゃまの反応やいかに。
結論から言うと、この日の給料があっさり出た。さっきまでは「お前みたいなバカには給料は絶対に払わんぞ、絶対にだ!!」と言っていたのに、こうもあっさり出るとは。まぁ一応、「これ(この日の給料)やるからさっさと出てけ!」と強がってはいたが、僕をビビらせようとしたら逆に自分がビビらされたのが丸見えだった。のび太だと思っていぢめていた男が突然ジャイアンに変身したのだから、そりゃスネ夫ちゃまとしてはさぞかしビックリした事だろう。
僕に殴りかかる気力は急速に萎えたものの、まだスネ夫ちゃまには僕に対してギャーギャーわめき立てる元気は残っていたようだったので、給料はなんとか取り残さずゲットしたものの、このままコイツに好き放題言われながらただ出て行くだけというのもちょっと芸がないなと思い、最後にもう一発だけ小さめの爆弾を落としていくことにした。「違法経営、せいぜい頑張りな!ハッハッハッハ!」と店を出るそのタイミングで高笑いしてみる。するとスネ夫ちゃま、更に御立腹のご様子でゴンス。ふむ。けっこうスッキリしたでゴンス^^完全勝利でゴンス☆
今回、なかなかガチな喧嘩をしたわけだが、何も僕は普段から血の気の多い、荒くれ者の喧嘩野郎というわけではない。むしろ子供の頃から大人しく、小学校とかではけっこういじめられたものだった。特に小6の時は、同じクラスにいかにもいじめっ子タイプな奴がいて、クラス内でそいつにいじめられている子は何人かいて、僕もそいつに目を付けられていじめを受けていた内の1人だった。席替えでそいつが僕のすぐ後ろの席になった時とかはもう地獄で、授業中でも首の後ろをシャーペンで何度も刺されるなど、陰湿ないじめを受けていた。もっとも、何か月かいじめを受けた後に、ある日僕がそいつの言いなりにならずに反抗的な態度を取ったら殴られ、それをきっかけについにキレてそいつと喧嘩になり、僕が一方的にそいつを叩きのめして病院送りにして差し上げたのはここだけの秘密だが(^ω^)
※(正確に言うと、奴が2発目のパンチを僕にくらわそうとした時にそれをキャッチし、お互いに両手を掴み合っての取っ組み合いになった所で僕がそいつの両手を捻り、さらに握りつぶしてやったら、なんと後日そいつの指の骨にヒビが入っていた事が判明。当時まだ12歳だった僕の握力は利き手でも30kgぐらいしかなく、こんなもんで亀裂骨折するとは驚きだった。モロすぎるな、この骨は。あまり牛乳を飲んでなかったんじゃないのか?俺は毎日3本飲んでいたぞ(by『シャーマンキング』道蓮))※
それはさておき、今回僕がここまで思い切って喧嘩に踏み切れたのにはいくつかの条件がある。
まず1つは、喧嘩に踏み切るだけの十分な動機があったという事。そもそも時給9ドルという時点でオーストラリアでは最低賃金の半分の違法賃金なのだが、それに加えて従業員に対して「死ね」等の暴言をはじめ、暴力的な態度を取るとは言語道断。もちろんそのような暴力的な態度に至るまでにあたって、それをするに足りうる理由(例えば従業員が先にボスに対して見るに堪えない暴力的態度を取っており、それがあまりに酷くなったから反撃のためについ同じように酷い言葉で返してしまったとか)などこれっぽっちもない。このアホなボスは人格ができていなさすぎだ。
2つ目は負ける要素がない喧嘩だったという事。まず前の週の給料を受け取ってから開戦するという時点で、こちら側が受けうる経済的ダメージは最小限に抑えられていた。その場ですぐにスネ夫ちゃまが根負けして払ってくれなくても、後でまた何度でも請求しに来ればいいし、万が一残りの給料を取り逃がしても、被害額はたかだかその1日分だけだ。もし本当に奴が殴りかかってきたとしても、パワーの差にものを言わせて返り討ちにしてやる事だってできただろう。そして万が一奴の方が僕より強かったとしても、それこそ警察に来てもらえばいいことだ。まぁ結果論で言えば、この喧嘩は初動の差でほぼ決着がついていたといってもいいかもしれない。向こうはいきなり不意打ち的な形で仕掛けられたのに対し、こちらは準備万端の状態で臨んだのだから。実際に奴が殴ってきそうになってもすぐに上半身裸になって反撃できるように、この日は給料をもらってもすぐに上着を着ずにTシャツ1枚の状態にしていたし、リュックも背負わなかった。万が一本当に奴が手を出してきても対応しやすいように、普段はメガネなのにこの日はコンタクトレンズにしておいたのだ。そして実際、この喧嘩は僕の脳内シミュレーション通りに事が進んだ。奴が棚を荒らしたのも、電話をかけるそぶりを見せたのも、凶器を持って殴りかかろうとしてきたのも、全て「この男の人間性だったらこうなるだろう」と予め予測していたのだった。僕の脳内シミュレーションは必ずしも毎回毎回上手くいくわけではないが、今回のは自信を持って言える。今回の僕の脳内シミュレーションは、武井壮が「グリズリーを仕留めた」というあの脳内シミュレーションよりもはるかに完成度の高いものだった事は間違いない。
3つ目は、僕の行為によって実際特にこれといったとばっちりが生じないという事だ。僕が2週間前とかに事前に辞めると言わず、その日になっていきなり辞めると言ったために、代わりのキッチンハンドを探す時間が十分に確保できず、このジャパレスではいきなり人手が足りなくなって困る事になるのだが、実はこの店、僕が入る前は全然バイトがいない状態(こんな店主だから人が集まらないのも当たり前か^^;)で、店主であるスネ夫ちゃまとその奥さんらしき女性の2人だけで回していたのだ。つまり、僕がいきなりいなくなっても、ドライに物理的な視点で見れば、僕が入る前の状態に戻っただけの話であり、店を経営できなくなるような実害を引き起こしたわけでもない。仮に僕がいないと回らないというのであれば、僕が入る前はどうやって回していたというのだ?強いて言うならば、この奥さんらしき女性が少し気の毒かもしれないが、余計なお世話みたいな事を言わせてもらえば、こんなスネ夫ちゃまのような2日目にして従業員に「死ね」などの暴言を吐いたりする「ダメダメ人間の代表」のような奴(by 『マサルさん』マチャ彦)をパートナーに選んだ時点で、将来この程度のトラブルが生じる事は予測できたはずであろう。それに、繰り返しになるけど、元々僕が入る前は全然バイトいなかったんだから、僕がいきなり辞めても僕が入る前の状態に戻っただけだからね。
4つ目は、僕の今回の行為はオーストラリア社会では別に否定的に受け止められないというのが事前にわかっていたという事。オーストラリアをはじめとした西洋文化の社会においては、このスネ夫ちゃまのようなボスが正当化される事はまずないと言っていいし、それに対して今回の僕のようなかなり反抗的な態度を取ることも特に問題視されない。実際今回の件を何人かの知人友人に話したが、案の定彼らの反応は
「うん、俺が同じ立場だったら同じ様なことしてから辞めるね」
「俺だったらそもそも『明日から来ない』なんて知らせてやらないね。予告なしに突然消えてやる」
「その店主ちょっとねぇ。オーストラリアで店を経営する以上はオーストラリアの法律と倫理を守るべきだよね」
といった感じだった。他にも、「オーストラリアに時給9ドルなんかのそんな酷い賃金の職場が存在するのか」とか、「そんな罵声を浴びせたりするような酷い人がボスなんてありえるのか」とか、そもそもこのような環境の職場が存在するという事自体が信じられないという反応をする人も何人もいた。
このような背景から、今回の僕がスネ夫ちゃまに対して取った行動は、社会的にも「不当な扱いを受けた従業員のリーズナブルな反撃」としてほとんどお墨付きみたいなものをもらえるものであり、その事もあって僕はあまり躊躇せずに考えていた事を実際に行動に移す事ができた。ここで逆に「上司に対する忠誠心のない奴め」「そんな程度で辞めおって、根性なしめ」などと逆に従業員を責めるような文化が根付いているような社会だったら、前述の3つの条件が揃っていても思い切って踏み込めなかったかもしれない。
それでも、もしかしたら、今回の僕のスネ夫ちゃまに対する対応は間違っている、辞めるならばあくまで誠実に、普通に時間に余裕を持たせた形で事前に辞める旨を伝えてから職場を去るべきだったと言う人も一部いるかもしれない。「たしかにそのボスは部下である君に対する当たりはきつかったかもしれないが、それも部下を育てるために必要な事だったのだろう。曲がりなりにも、君はその職場では給料をもらって働いていたのだろう?まかないだって食べさせてもらっていたのだろう?それだけ世話になっておきながらいきなり辞めたら、上司に申し訳ないという気持ちは湧いてこないのかね?」とか言ってくる人もいるかもしれないね。
う~む、そうですな。確かに給料はもらってたね。法律で定められた最低賃金の半分だけだけどね。確かにまかないも食べさせてもらってたね。やたらと卵の殻とかが混じってて、噛む毎に「ジャリッ♪」と面白い音が鳴る、他では食べられない貴重な異物混入親子丼とかね。ここのボスにはこれだけ世話になったのだから、それに見合った形でお礼をするべきではありませんか。むしろ、ここで借りを返さず、「お礼」もせずに立ち去るなんて、その方がかえってボスに対して失礼ではありませんか。
それから念のために言っておくが、ここはオーストラリアだ。先ほども出てきたように、オーストラリアで店を経営するのであれば、オーストラリアの法律とモラルに則ってやるべきだ。最低賃金は守るべきだし、パワハラな言動もあってはならないのだ。
まぁそりゃあ、経済的な事情もあって、経営が苦しくて、最低時給18ドルなんて保障できないっていう事もあるかもしれないね。だったらせめてさ、給料が低くても別の所で従業員を繋ぎ止めようとする努力ぐらいはするべきじゃない?なにも従業員をお客様のように丁重にもてなせとか、そんな横柄な要求をしているわけじゃない。せめて聞くに堪えないような暴言やその他暴力的な態度を取らないとか、最低限のレベルで人として当たり前の事を当たり前にこなしてくれって言っているだけだ。そんなに難しいッスかね?んで、それができないっていうんだったらそれはそれでいいよ。たださ、最低賃金は確保できず尚且つ従業員を繋ぎ止めておくだけの人間性もない、またそのための努力もしないなんていう、その程度の体たらくなんだったら、いつ従業員に逃げられても仕方ないっていうつもりで腹を括るべきでないの?
店主が従業員に対して誠実でないならば、従業員も店主に対して誠実にはならない。それぐらいのことは当然覚悟すべきでしょう。その覚悟すらもできないというのであれば、そもそもわざわざ異国の地であるオーストラリアまではるばるやってきて店の経営なんてしなければいいんじゃん。「俺の国ではこの程度で従業員は逆らったりしてこないぞ」などと吠えるのであれば、さっさとその国に帰りなはれ。そうすりゃ従業員からの反撃を心配しなくてよくなるんじゃない?
それから、今回の件は何も僕だけに限った特殊なケースというわけではない。そりゃ上半身裸になるっていう手段は特殊かもしれないけど、仕事をゲットしてみたら給料も悪くて人も悪いろくでもない場所でしたってことは、残念ながらそんなに珍しくない、誰にでも当てはまりうる普遍的な話だ。そんな時に泣き寝入りをするか上手に反抗するかが大きな差を生むのだ。
今この話を読んでいる人の中には、自分がもしこの話と同じような状況に置かれたとしても、自分は上司に面と向かって喧嘩仕掛けるなんて怖いからそんなの無理と思う人もいるかもしれないが、それなら給料をもらった日を最後に次の日からその職場に一切行かず、電話とかが来ても全部無視してやれば、そのロクデナシのボスの顔を見る事もなく、自分の身も危険にさらさずにそいつにささやかな「レッスン」をして差し上げられるというものではないですか。「従業員をまともに扱わないとこういう形で逃げられまっせ」っていうレッスンをね(^^)
まぁこれはあくまで違法な経営をしていて尚且つ人間性の酷いボスが相手だった時に使える可能性のある反撃策だから、もちろんパワハラをされてもいないのにそんな辞め方をしたら問題だが(とはいえ実際にはパワハラされてなくてもこういう辞め方をする人もオーストラリアではけっこう見てきたが)、この話に出てきたようなケースだったら、オーストラリアのワーホリでならパワハラ上司に対してこれぐらいの反撃をしてやっても構わんでしょう。大体、法律にもモラルにも違反している低レベルな経営しかできない無能なオーナーの分際で、「そんな急な辞め方は許されない」などと吠える権利があると考えるのはおこがましいってもんですぜ。こういう奴に限って「もっと仕事に責任を持たんか!」とか言ってくるのだが、そんな事言う前にまずお前が「パワハラのないまともな労働環境を整える」という責任を果たせっつーの。
それにオーストラリア(の特にカジュアルジョブ)においては、雇用主の側が一方的に従業員に対していきなり「お前クビね」と言い放ち、その時点で即無職になるなんてのが当たり前に行われているのだから(※そうです、文字通り「クビ」と言われたその時点でです。「今月いっぱいで」とか「今週いっぱいで」とかではなく、即クビです※)、逆に従業員が前もって予告せずにいきなり辞めても文句は言えないのが道理というものよ。ここで「雇用主はいつでも好きな時に従業員を即クビにできるが、従業員は辞める時は時間に余裕を持たせて事前に知らせろ」などという不平等条約があったとしても、そんなモンは無視すればヨロシ。
さて、もちろんこんなブラックマーケットが存在する事自体が悲しいことだし、こういう職場はもっと徹底的に取り締まられるべきなのだろうけど、現実問題として放置されている劣悪な環境は山ほどある。そしてこの劣悪な環境がなぜなくならないのかというと、もちろんこういう悪いことを平気でやっている連中が一番悪いのだが、こんなろくでもない連中の下でおとなしく言う事を聞いている人が大勢いるという事実も、残念ながらこのような悪い環境がなくならない要因の一つでもあるのだ(好きでこういう連中のいう事を聞いている人ばかりではないだろうが)。ただ、自分より立場の弱い従業員を食い物にして利益を上げている連中からしてみれば、従業員たちがおとなしく言う事を聞いてくれているからこそ搾取を続けられるわけであって、理不尽な扱いをしたら反発する従業員ばかりになればブラックマーケットは存在しにくくなる。だから、泣き寝入りをせずにダメな職場をすっぱりと切り捨てられる人ばかりになれば、ブラックな職場は自然淘汰されることになり、それがブラックマーケット撲滅につながるのだ。もしオーストラリアですら事前通告をせずにいきなり辞めるのがどうしてもできないのなら、この国での常識的なタイミングである実際に辞める日の2週間前ぐらいに正直に「もう少ししたら辞めます」と事前通告してもいい。また、ロクでもない職場ではあるがどうしても今すぐには辞められないという事情があるならすぐに辞める必要はないが、それでも水面下では粛々と足場固めを進めておき、機が熟したら「ほなサイナラ」してしまおう。とにかく、働いている場所がブラックだった場合、そこに長居していても良い事は何もない。そんな所に忠誠を示したって、そんなものはただのエネルギーの無駄遣い。あなたがブラックな職場を切り捨てるということは、あなた個人のためだけでなく、ブラックな経営をしている奴らに対する抗議にもなるのだから、長い目でみたらそれは社会のためでもあるのだ。