昨日のレジュメ配りは、初めてやった日と比べたら進歩はしたものの、やはり手応えとしては今ひとつ。他に攻められそうなストリートもこれといって思い浮かばなかったし、今日はちょっと方向性を変えたレジュメ配りをしてみる事にした。
今日は昨日とは打って変わって再びCBD内をうろつく事に。そしてターゲットをジャパレスに絞ってレジュメを配ってみる。何軒か断られ続けたが、一件「キッチンハンド募集」と日本語で求人が貼られている店を発見。淡い期待を寄せて、レジュメを持って突撃してみる。
日本語で求人が貼られていたので、日本人の店主が出てくると思いきや、出てきたのは中国人。今仕事を探していると言ってレジュメを渡すと、昨日のトルコ料理の店主の時に続き、またしても店主がレジュメと僕の顔を交互にまじまじと見るという状況が発生した。「お前、日本人なのか?」と店主。「はい、そうです」と答える僕。「いつから働けるか」と聞かれたので、「いつからでも」と答えると、「じゃあ今度の月曜日から来てくれ」と面接をすっとばして即採用に。時給は9ドルと超低い(労働基準法が定めるビクトリア州の最低賃金は18ドルなので、最低賃金の半分の時給だ)が、まだキッチンハンドの経験はないし、とりあえずやってみるかという事でこの時給でも受けることにした。それにしても「日本人」っていうのはある種のブランドなのか?とこの2日間のレジュメ配りでちょっと思ってしまった。Japaneseというレジュメ上の単語を見ただけで目の色が変わり、まじまじと見られるのだから。
とりあえず月曜日からの仕事が決まって一安心していると、携帯が鳴った。さっきのジャパレスからだった。「今日の夕方空いてるか?今日からシフト入って欲しい」と言って来た。早く仕事が始められるのであればそれにこしたことはないと思い、即OKしてジャパレスに向かう。
レストランに着くと早速着替えて勤務開始をするのだが、働き始めたこの初日ですぐに思ったのは、この店主は人間性に問題があるという事だ。まず、こいつはいわゆる英語の「なんちゃって上級者」だ。オーストラリアなどの英語圏に住んで既に何年かが経過した外国人、中でもアジア人に比較的多く見られる傾向なのだが、こいつらは自分を英語の上級者だと思い込んで、他のアジア人に対して態度が横柄になるのだ。一応英語圏の国に長く住んで、そこで英語を使って仕事をしてきてはいるので、その辺の語学学校に通っている英語初級レベルとかのアジア人よりはたしかに明らかに英語ができる部類には入るだろう。だが、所詮その程度だ。中国語訛りがかなり強くて発音は悪く、それでいて文法も間違っているし、単語のチョイスも所々おかしい。そもそも英語として認識できるものではないような事も多々あるのだが、それで自分の英語が伝わらない場合は、聞いている側の僕のせいになる。
あまりにこいつの発音が悪すぎて何言ってるのかわからないので聞き返しても、「一回で聞き取れ」と逆ギレされる。逆に、僕の言っている事がわからない場合は、僕の事を「何わけのわかんねぇ事言ってんの、お前?」と、まるでとんでもないバカを哀れみの目で見るかのような表情をし、最終的には「グダグダ言ってないでお前は俺の言う事に一回でハイって言ってりゃいいんだ」で締めくくるのだ。要するに、奴からしてみれば、「お前が俺の言ってる事がわからないのはお前がバカだから、お前の語学力がないから」であり、「俺がお前の言っている事がわからないのはお前の言ってる事が意味不明だから、お前の語学力がないから」という事なのだ。
このような事は、真の上級者の間では当然ながら行われない。例えばオーストラリアに来てからこれまでの間、ドイツ人やスウェーデン人やデンマーク人などの、総じて英語力が高い民族の人たちとも会話をする機会があったのだが、案の定実際に英語力が高かった彼らとの会話は実にスムーズにいったものだ。まず、彼らの会話をする時の態度は実に良好だった。僕が話している時はちゃんと人の話を聞く態度ができているし、彼らが話している時は5W1Hのしっかりした文で話し方も丁寧なので、会話をしていて気分がよい。そもそも彼らの英語はコミュニケーションを難しくさせるようなやっかいな部分があまりない。ちょっと発音や文法に癖や間違いがあったとしても、文全体を意味不明にさせるような致命的なものになる事はないし、リスニング力も高いので僕の言っている事は一発で伝わる。
そもそも彼らの国では国民のほとんどは高卒以上なら英語にあまり不自由しないケースが多い(つまり自分の周りのみんなも英語が喋れる)から、英語が喋れるとかそんな程度で優越感など発生しないし、そもそも基本的に人は対等であるという文化も一般的に根付いているため、仮に本当に相手の英語力が自分より低かったとしてもそれで相手を見下すというような態度には普通はならない(もちろんアジア人を見下す不愉快なゲルマン系の連中も中にはいるが)。
だが残念ながらこれまで僕が見てきたアジア人に関しては、なにかにつけて人を縦に並べ、その階層内で自分と相手がそれぞれどの位置にいるかを非常に強く意識し、上下関係を通してしか物事を考える事ができず、自分よりも低いランクとして認識した人間に対して礼を欠いた態度を取る傾向がある者が目立つように思える。英語圏に住むアジア人が、新参者の他のアジア人と接する時は、英語もその上下関係を決定付ける材料になるというわけだ。
そしてたとえ自分が「なんちゃって上級者」であったとしてもそれに気づかず、新しく来た他のアジア人とコミュニケーションが上手くいかないのは、その新参者の英語に問題があるからなのだと、井の中の蛙の如く決め付ける。これは今回のこの中国人に限った話ではない。そういえば大学時代の英語科の学部でも、たかだかその大学のその学部の中でならそこそこ英語ができる方に位置づけられるという程度で、他の学生に対して横柄な態度を取る日本人の学生を何人か見かけた事があった。アジア人の全員あるいは大部分が、このように人を見下した態度を持つ、なんちゃって上級者的資質を持つというわけではないが、その一方で、僕が今まで見てきたアジア人の中で、こういったしょうもない傾向を持つ人の数が単なる例外として片付けてよいほど少ないものでもないというように感じられるのは、ただの僕の気のせいなのだろうか。
さて、ジャパレスの話に戻るが、初日はこの中国人店主がなんちゃって上級者であるという事がわかったぐらいだが、こいつの人間性のクソっぷりはこれだけでは終わらないのだった。