8/18(月)。2つ目のセールス会社で働き始めて2週目だ。ここまでこの会社で僕が取れた契約は実質0件。厳密には僕の名前で1件取れた事になっているのだが、その時はセールストークは全てあのチンピラのボスが行い、そこから得た客の個人情報を僕のiPadに言われるがまま入力していただけだったものなので、自分で勝ち取った契約とは到底いえない。
当然成績の芳しくない社員である僕は、あまり良くない意味でボスから注目される事になる。社員の仕事ぶりはiKnockのアプリで常に監視されているため、僕のデータはすぐに上層部へ伝わる。この月曜日は、仕事でターフを歩き回っている真っ最中に僕の携帯に知らない番号から電話がかかってきた。出てみると、電話をかけていたのはジャックだった。どうやら会社の電話を使ってかけてきたらしい。
「ショーン、一旦仕事を中断して聞いてほしい。先週の君のデータを見せてもらった所、まだ契約が取れてないのはいいとして、コンタクト数が少ないのが気になるんだよね。ターフを回る時間は6時間もあるんだからその間に30~40人ぐらいのお客さんと接触していなければおかしいんだけど、君のは多くても20件いくかどうかだ。とりあえず今日は引き続きそのまま頑張ってもらいたいけど、明日は僕が一緒に回ってどうやったらコンタクト数を増やせるのかを実際に見せるから、そのつもりでいてくれ」
要するにもっとたくさんの人と喋れという事なのだが、これは実は前の会社の時と比べてかなり厳しい要求だった。前の会社では、割り当てられるエリアが広かったため、当然歩き回る担当エリア内に存在する家の数も多くなる。毎回百何十軒もの家があったので、とにかくエリア内を歩き回ってドアをノックしまくっていればお客さんと接触するのはそんなに難しい事ではなかった。一方で、この会社で割り当てられるエリアの面積はかなり狭い。ターフ内の家の数が100軒を超える事は稀で、せいぜい60~80軒ぐらいだ。
それに加えて、ターフ内を歩き回る合計時間そのものは前の会社も今回の会社も6時間と同じだが、始まる時間と終わる時間が今の会社の方が2時間早い(14:00~20:00 vs 12:00~18:00)ので、こちらの方が留守の家が圧倒的に多いのだ。実際、同じセールスチーム内に1日で11件の売り上げを記録したことのある人がいたのだが、彼でさえ日によっては4~5時間歩き回った後でも7~8人としか喋れていなかった場合もあった。つまり、何人のお客さんと接触できるかは実力や努力ではなく運によって左右される部分が非常に大きいという事だ。
それでも、ジャックによるとコンタクト数を増やす方法はあるのだという。どんな方法なんだろう。そんな事を考えながら帰りのVanに乗っていたら、社員の1人がチンピラのボスに話しかけた。アイルランド出身の男で、もう辞めたいというのだ。
「もう辞めるわ、この仕事。毎日毎日長時間歩き回ってるのに冷たく断られてばっかりで、もうやってらんねぇ。本当は先週の金曜日にでも辞めるって言おうかと思ってたんだけど、もう1日だけやってみたらもしかしたら今日は契約取れるかもって思ったから今日だけはとりあえずやったんだ。だけど結局ダメだったし、もうこれ以上はこの仕事続けられない。」
ほぉ、こういう話を他の社員みんながいる前でもデカイ声で堂々と言っちゃうのね(^^;)そして18歳のチンピラのようなボスに「いいか、この仕事が時給にして23ドルももらえるのはな、それだけ簡単な仕事じゃないって事なんだ」と諭されている。結局それでも彼の意思は変わらず、翌日からは彼の姿を見る事はなかった。
そして翌日。この日は僕の所属するセールスチームにジャックも加わる。ターフを歩き回ってしばらくすると、ジャックから連絡が入った。合流するから現在地を教えてくれとのことだ。それから少しすると、僕はジャックと合流した。例によって今日も割り当てられたエリアは狭かったし家の数も少なかったので、ジャックが来るまでに僕は既にターフ内をぐるりと1周し、ほぼ全ての家を一通りノックし終わっていた。それではスタート地点に戻って同じエリアをもう1周しようとジャック。ここからはジャックがドアをノックし、出てきた住人とのトークも彼がする事になる。ジャックと一緒にターフ内の家をノックして回って少しすると、僕が1周目の時点でノックしていない家から住人が出てきた。
ジャック:「あれ?iKnockのデータによると君は1周目の時点であの家ノックしてないね。何でしなかったんだい?」
僕:「ボスからは『チェリーピッキング』するように言われてて、あの家は遠目で見た感じ留守っぽかったんでノックしに行かなかったんです」
ちなみにオーストラリアの訪問販売系のセールス業界で「チェリーピッキング」とは、エリア内にある全てのドアを機械的に全部ノックするのではなく、人がいそうな家を見定め、選んだ家にのみノックしに行くというものだ。例えば車庫が空っぽになっている家や、明らかに家全体が暗くて物音一つしない場合は留守である可能性が高いので、わざわざノックして住人が出てくるのを待つだけ時間の無駄、というのがチェリーピッキングの考え方だ。
ジャック:「あぁそうか、それが理由だったのか。でもね、君はまだ入ってきたばっかりだし、チェリーピッキングの事は考えなくていいよ。人がいそうだとかいなさそうだとか、そういうのは一切関係なしにひたすら全部のドアをノックすればいいんだ。」
僕:「えっ、そうですか?本当に文字通り機械的に全部のドアをノックして回るだけでいいんですか?明らかに人のいなさそうな家でも?」
ジャック:「そう、文字通り全部の家のドアをノックすればいいよ。今みたいに、留守だと思っていた家から人が出てくるかもしれないしね^^」
するとジャックは携帯を取り出し、リーに電話した。「もしもし。あぁ、ショーンのコンタクト件数の事なんだけどね、あまり心配はいらないと思うよ。どうやら間違ったチェリーピッキングをしていたみたいだ。今後は全部のドアをノックするように言っておいたし、特に問題はなさそうだね。」
ところがその翌日の水曜日。この日も僕は1日中ターフを歩き回っても十数件のコンタクトしか取れなかった。そもそも留守の家ばかりなのだから、たくさんの人と喋ろうにも無理なものは無理なのだ。帰りのVanに乗るとチンピラのボスがキレ気味に話しかけてきた。
チンピラ:「おい、お前は明日は休みを取れ。こんなんじゃ仕事はさせられない。昨日ジャックからコンタクト数確保のための指導が入ったんじゃなかったのか?お前はジャックから何を学んだんだ。」
僕:「ジャックからはチェリーピッキングは気にせずにひたすら全部のドアをノックし続ければいいと言われました。だから言われた通りにやってたんですけど。」
チンピラ:「常識で考えろ、コラ。パッと見て人がいなさそうだったら、その家には行かねぇんだ。そんなとこ行くだけ時間の無駄だろうが。コンタクト数が足りねぇんだったらもっと速く歩けばいいだろ。とにかく、お前は明日は会社に来なくていい。明日どっかのタイミングで電話をするから、自宅で待ってろ。そもそもこうなったのはお前が真面目に働いてなかったせいなんだからな」
お前が常識で考えろよ、このチンピラ!(((゜Д゜#)))!速く歩こうがゆっくり歩こうが、そもそもそこに人がいなけりゃ接触できんのじゃ!そしてそれは俺個人の努力ではどうにもならんのじゃ!そんな単純な事もわからんのか!まぁいい、俺もこんな頭の悪いチンピラには嫌気がさしてきた所だ。明日は自宅でのんびりくつろぐさ。
当然成績の芳しくない社員である僕は、あまり良くない意味でボスから注目される事になる。社員の仕事ぶりはiKnockのアプリで常に監視されているため、僕のデータはすぐに上層部へ伝わる。この月曜日は、仕事でターフを歩き回っている真っ最中に僕の携帯に知らない番号から電話がかかってきた。出てみると、電話をかけていたのはジャックだった。どうやら会社の電話を使ってかけてきたらしい。
「ショーン、一旦仕事を中断して聞いてほしい。先週の君のデータを見せてもらった所、まだ契約が取れてないのはいいとして、コンタクト数が少ないのが気になるんだよね。ターフを回る時間は6時間もあるんだからその間に30~40人ぐらいのお客さんと接触していなければおかしいんだけど、君のは多くても20件いくかどうかだ。とりあえず今日は引き続きそのまま頑張ってもらいたいけど、明日は僕が一緒に回ってどうやったらコンタクト数を増やせるのかを実際に見せるから、そのつもりでいてくれ」
要するにもっとたくさんの人と喋れという事なのだが、これは実は前の会社の時と比べてかなり厳しい要求だった。前の会社では、割り当てられるエリアが広かったため、当然歩き回る担当エリア内に存在する家の数も多くなる。毎回百何十軒もの家があったので、とにかくエリア内を歩き回ってドアをノックしまくっていればお客さんと接触するのはそんなに難しい事ではなかった。一方で、この会社で割り当てられるエリアの面積はかなり狭い。ターフ内の家の数が100軒を超える事は稀で、せいぜい60~80軒ぐらいだ。
それに加えて、ターフ内を歩き回る合計時間そのものは前の会社も今回の会社も6時間と同じだが、始まる時間と終わる時間が今の会社の方が2時間早い(14:00~20:00 vs 12:00~18:00)ので、こちらの方が留守の家が圧倒的に多いのだ。実際、同じセールスチーム内に1日で11件の売り上げを記録したことのある人がいたのだが、彼でさえ日によっては4~5時間歩き回った後でも7~8人としか喋れていなかった場合もあった。つまり、何人のお客さんと接触できるかは実力や努力ではなく運によって左右される部分が非常に大きいという事だ。
それでも、ジャックによるとコンタクト数を増やす方法はあるのだという。どんな方法なんだろう。そんな事を考えながら帰りのVanに乗っていたら、社員の1人がチンピラのボスに話しかけた。アイルランド出身の男で、もう辞めたいというのだ。
「もう辞めるわ、この仕事。毎日毎日長時間歩き回ってるのに冷たく断られてばっかりで、もうやってらんねぇ。本当は先週の金曜日にでも辞めるって言おうかと思ってたんだけど、もう1日だけやってみたらもしかしたら今日は契約取れるかもって思ったから今日だけはとりあえずやったんだ。だけど結局ダメだったし、もうこれ以上はこの仕事続けられない。」
ほぉ、こういう話を他の社員みんながいる前でもデカイ声で堂々と言っちゃうのね(^^;)そして18歳のチンピラのようなボスに「いいか、この仕事が時給にして23ドルももらえるのはな、それだけ簡単な仕事じゃないって事なんだ」と諭されている。結局それでも彼の意思は変わらず、翌日からは彼の姿を見る事はなかった。
そして翌日。この日は僕の所属するセールスチームにジャックも加わる。ターフを歩き回ってしばらくすると、ジャックから連絡が入った。合流するから現在地を教えてくれとのことだ。それから少しすると、僕はジャックと合流した。例によって今日も割り当てられたエリアは狭かったし家の数も少なかったので、ジャックが来るまでに僕は既にターフ内をぐるりと1周し、ほぼ全ての家を一通りノックし終わっていた。それではスタート地点に戻って同じエリアをもう1周しようとジャック。ここからはジャックがドアをノックし、出てきた住人とのトークも彼がする事になる。ジャックと一緒にターフ内の家をノックして回って少しすると、僕が1周目の時点でノックしていない家から住人が出てきた。
ジャック:「あれ?iKnockのデータによると君は1周目の時点であの家ノックしてないね。何でしなかったんだい?」
僕:「ボスからは『チェリーピッキング』するように言われてて、あの家は遠目で見た感じ留守っぽかったんでノックしに行かなかったんです」
ちなみにオーストラリアの訪問販売系のセールス業界で「チェリーピッキング」とは、エリア内にある全てのドアを機械的に全部ノックするのではなく、人がいそうな家を見定め、選んだ家にのみノックしに行くというものだ。例えば車庫が空っぽになっている家や、明らかに家全体が暗くて物音一つしない場合は留守である可能性が高いので、わざわざノックして住人が出てくるのを待つだけ時間の無駄、というのがチェリーピッキングの考え方だ。
ジャック:「あぁそうか、それが理由だったのか。でもね、君はまだ入ってきたばっかりだし、チェリーピッキングの事は考えなくていいよ。人がいそうだとかいなさそうだとか、そういうのは一切関係なしにひたすら全部のドアをノックすればいいんだ。」
僕:「えっ、そうですか?本当に文字通り機械的に全部のドアをノックして回るだけでいいんですか?明らかに人のいなさそうな家でも?」
ジャック:「そう、文字通り全部の家のドアをノックすればいいよ。今みたいに、留守だと思っていた家から人が出てくるかもしれないしね^^」
するとジャックは携帯を取り出し、リーに電話した。「もしもし。あぁ、ショーンのコンタクト件数の事なんだけどね、あまり心配はいらないと思うよ。どうやら間違ったチェリーピッキングをしていたみたいだ。今後は全部のドアをノックするように言っておいたし、特に問題はなさそうだね。」
ところがその翌日の水曜日。この日も僕は1日中ターフを歩き回っても十数件のコンタクトしか取れなかった。そもそも留守の家ばかりなのだから、たくさんの人と喋ろうにも無理なものは無理なのだ。帰りのVanに乗るとチンピラのボスがキレ気味に話しかけてきた。
チンピラ:「おい、お前は明日は休みを取れ。こんなんじゃ仕事はさせられない。昨日ジャックからコンタクト数確保のための指導が入ったんじゃなかったのか?お前はジャックから何を学んだんだ。」
僕:「ジャックからはチェリーピッキングは気にせずにひたすら全部のドアをノックし続ければいいと言われました。だから言われた通りにやってたんですけど。」
チンピラ:「常識で考えろ、コラ。パッと見て人がいなさそうだったら、その家には行かねぇんだ。そんなとこ行くだけ時間の無駄だろうが。コンタクト数が足りねぇんだったらもっと速く歩けばいいだろ。とにかく、お前は明日は会社に来なくていい。明日どっかのタイミングで電話をするから、自宅で待ってろ。そもそもこうなったのはお前が真面目に働いてなかったせいなんだからな」
お前が常識で考えろよ、このチンピラ!(((゜Д゜#)))!速く歩こうがゆっくり歩こうが、そもそもそこに人がいなけりゃ接触できんのじゃ!そしてそれは俺個人の努力ではどうにもならんのじゃ!そんな単純な事もわからんのか!まぁいい、俺もこんな頭の悪いチンピラには嫌気がさしてきた所だ。明日は自宅でのんびりくつろぐさ。