研修1日目は理論やルールをお勉強するという感じだったが、2日目はいよいよ本格的にセールストークの練習に入っていく。セールストークを最初の掴みである「イントロ」、メインの内容である電力会社の契約の話をする「ミドル」、そして客を口説き落とす「クローズ」の3つのパートに分けるという考え方は前回のチャリティー系セールス会社と同じだったが、今回はチャリティと比べて難しいと感じる箇所があった。それはBill Shockという部分だ。
電力会社のセールスの戦略は「お宅はもしかしたら必要以上に電力会社にお金を払いすぎてるかもしれないから、それをチェックしてあげますよ。だからそのためにお宅が最近受け取った電気料金の請求書が必要なんです。ちょっと取って来て見せてください」と言い、持ってきた請求書に書かれている電気料金がウチの会社のよりも高かった場合、「えぇー、こんなに払ってるんですか???」と気持ち大げさに言ってみせ、客の不安を煽るのだ(ここでいうBillは「請求書」という意味)。
そして客が見せてくれた請求書を元に、「いいですか、あなたの今の契約は、この部分のレートが高すぎるんですよ。ウチの会社だったらここのレートは○○になっていて、1キロワットあたり○○ドル/セントの差が出ます。つまり、1000キロワットあたり○○ドルも差が出てくるんですよ!そんなにたくさん余分にお金を払う事なんかないですよ!」と追い討ちをかけ、「だからウチの電力会社に替えましょう、その方がお得ですよ」という話を持ちかけるのだが、これが僕にはけっこうキツかった。日本では1人暮らしをしたことがなかったし、海外で親元を離れて自分で生活するという経験はアメリカ留学の時に続いて2回目だったとはいえ、アメリカの時も今回のオーストラリアも住居が家賃に電気料金やガス代、水道代が全て含まれているシェアルームだったため、電気料金の請求書というものを日本語でも英語でもまともに見たことがなかったのだ。だからいざセールストークの練習になり電気料金請求書のサンプルを見せられても、いまいちピンとこなかった。
ネイティブたちは請求書をちゃんと見るのはこれが初めてだったとしてもその場で説明を聞けば話についていけるかもしれないが、ノンネイティブの僕は予備知識が欠けた状態で早口でベラベラ喋られると何がどうなっているのかわからなくなってくる事がある。所々でジャックが「じゃあ今のポイントを踏まえて自分のバージョンの売り込みトークを各自考えてノートに書いてみようか」と言ってきても、その土台となる説明の部分に上手くついていけていなかったため当然自分でセールストークを考えて書くという段階にすらいけない。
すると明らかに困った様子の僕を見たジャックが救いの手を差し伸べてくれた。他のみんながせっせと自分のセールストークの台詞を考えている間、ジャックが僕にマンツーマンで1からゆっくりと説明しなおしてくれただけでなく、自分で考える事になっていたセールストークの部分も一言一句僕のノートにわざわざ全部書いてくれたのだ。
セールストークの「イントロ」、「ミドル」、「クローズ」の3つのパートそれぞれで使う台詞が一通り全員用意できた所で、今度は実際にそれを使う練習に入るのだが、ジャックはもう一つ大事な事を教えてくれた。ジェスチャーである。
「セールス業界における、70%、20%、10%の話は聞いた事あるかな?お客を口説き落とせるかどうかは、70%はジェスチャー、20%は声のトーン、10%が実際に話している内容にかかっているというものだ。つまりほとんどの人は話の詳しい内容はしっかり聞いていないんだから、最も力を入れて練習すべきは70%のジェスチャーという事になる。ところが、多くのセールス会社ではただ『ジェスチャーを入れろ』というだけで、実際にどのタイミングでどんなジェスチャーをすればいいのか、あまり徹底的に具体的に指導していない。でも最も重要な所であるからこそ、新入社員にはその部分を研修の時に丁寧に教えてあげるべきなんじゃないか?と僕は思うんだ」と力説するジャック。実際、ジャックのジェスチャーの指導はかなり丁寧なものだった。
ジャック:「よし、じゃあまずドアをノックする所から入ろう。ドアをノックしたら、すぐドアに背を向ける。そして仕事用のiPadをいじるんだ。ノックした後にただボーっと立って待ってるんじゃなくて、iPadで忙しくしているジェスチャーを見せれば、出てきた住人は何か重要な事が今起きているんじゃないかと思うはずだからね。じゃあ、まずはドアをノックして背を向けてiPadをいじる所まで一緒にやってみよう。ノック、くるっと回ってiPad。よし、OKだ!」
ジャック:「次は住人に挨拶する所だね。『Hi, how are you doing? My name is ○○ from ○○, 今日はお宅の電気料金の事で来ました。』と言う。さぁ、ここで頭上に電線があると思って、そこを指差そう。そうする事で、客の注意は『自分の家の電気』に移って、話を聞いてもらい易くなる。そしてすかさず『ここはお宅の住所で合っていますよね?』と言いながら、自分の仕事用のiPadのページを見せる。すると住人は当然Yesというはず。なんでもないようなんだけど、このように相手にYesと言わせるような質問をちょこちょこ混ぜ込むのが大事なんだ。相手に何回もYesを繰り返し言わせているウチに、その流れで本題の電気料金の話、契約の話でもYesと言わせ易くなるからね。」
ジャック:「さぁここでお客さんに本題を伝えよう。『私が今ここにいる理由は、もしかしたらあなたが払う電気料金を安くしたり、あなたの電気料金の割引のレートを上げる事ができるかもしれないからなんです。それができるかどうかチェックするのに一番簡単な方法は、あなたの一番最近の電気料金の請求書なんです。なのでちょっと家の中に戻って請求書を持ってきて私に見せてください。』と言って、家の奥の方を指差す。そしてお客さんから視線をそらし、またiPadで忙しいフリをする。視線をそらす事で『はい、もう会話は終わったんですよ。今あなたがやる事は請求書を持ってくる事なんですよ』と悟らせ、それ以上会話を続けられないようにするんだ。よし、このパートの練習も終わったら、一度ここまで通して練習してみようか。」
ノック、くるっと回ってiPad、軽く自己紹介、電線を指差す、住所確認でYesと言わせ、簡潔に本題説明、請求書を取ってくるようにと家の奥を指差し、視線をそらしてまたiPad。
これをジャックの先導で何度も繰り返す。
ジャック:「よし、今日はこれぐらいにしておこう!他にもセールスの技術で学ぶ事は色々あるが、それはターフに出て行く前に毎朝オフィスで行われる研修でこれから身につけていこう。月曜日からは、君たちはそれぞれ1人か2人ずつ別々のセールスチームに振り分けられる事になる。その時に君たちのリーダーになる者に君たちの連絡先を教えておくから、後でそのリーダーから連絡が来るはずだからそれを待っていてくれ。」
ジャックは素晴らしいリーダーだなぁ。新入社員の教育を本当に懇切丁寧に行ってくれる。これならもしかしたら僕でも数週間後には1日で何件も契約がとれるセールスマンに成長しているかもしれないぞ。
そしてその夜僕の携帯に1件のテキストメッセージが届いた。どうやらこのメッセージを僕に送ってくれたその人が月曜日から僕が所属するセールスチームのリーダーらしい。どんな人なんだろう。昨日今日のジャックの親切な指導からしてなんだか楽しみになってきた^^
電力会社のセールスの戦略は「お宅はもしかしたら必要以上に電力会社にお金を払いすぎてるかもしれないから、それをチェックしてあげますよ。だからそのためにお宅が最近受け取った電気料金の請求書が必要なんです。ちょっと取って来て見せてください」と言い、持ってきた請求書に書かれている電気料金がウチの会社のよりも高かった場合、「えぇー、こんなに払ってるんですか???」と気持ち大げさに言ってみせ、客の不安を煽るのだ(ここでいうBillは「請求書」という意味)。
そして客が見せてくれた請求書を元に、「いいですか、あなたの今の契約は、この部分のレートが高すぎるんですよ。ウチの会社だったらここのレートは○○になっていて、1キロワットあたり○○ドル/セントの差が出ます。つまり、1000キロワットあたり○○ドルも差が出てくるんですよ!そんなにたくさん余分にお金を払う事なんかないですよ!」と追い討ちをかけ、「だからウチの電力会社に替えましょう、その方がお得ですよ」という話を持ちかけるのだが、これが僕にはけっこうキツかった。日本では1人暮らしをしたことがなかったし、海外で親元を離れて自分で生活するという経験はアメリカ留学の時に続いて2回目だったとはいえ、アメリカの時も今回のオーストラリアも住居が家賃に電気料金やガス代、水道代が全て含まれているシェアルームだったため、電気料金の請求書というものを日本語でも英語でもまともに見たことがなかったのだ。だからいざセールストークの練習になり電気料金請求書のサンプルを見せられても、いまいちピンとこなかった。
ネイティブたちは請求書をちゃんと見るのはこれが初めてだったとしてもその場で説明を聞けば話についていけるかもしれないが、ノンネイティブの僕は予備知識が欠けた状態で早口でベラベラ喋られると何がどうなっているのかわからなくなってくる事がある。所々でジャックが「じゃあ今のポイントを踏まえて自分のバージョンの売り込みトークを各自考えてノートに書いてみようか」と言ってきても、その土台となる説明の部分に上手くついていけていなかったため当然自分でセールストークを考えて書くという段階にすらいけない。
すると明らかに困った様子の僕を見たジャックが救いの手を差し伸べてくれた。他のみんながせっせと自分のセールストークの台詞を考えている間、ジャックが僕にマンツーマンで1からゆっくりと説明しなおしてくれただけでなく、自分で考える事になっていたセールストークの部分も一言一句僕のノートにわざわざ全部書いてくれたのだ。
セールストークの「イントロ」、「ミドル」、「クローズ」の3つのパートそれぞれで使う台詞が一通り全員用意できた所で、今度は実際にそれを使う練習に入るのだが、ジャックはもう一つ大事な事を教えてくれた。ジェスチャーである。
「セールス業界における、70%、20%、10%の話は聞いた事あるかな?お客を口説き落とせるかどうかは、70%はジェスチャー、20%は声のトーン、10%が実際に話している内容にかかっているというものだ。つまりほとんどの人は話の詳しい内容はしっかり聞いていないんだから、最も力を入れて練習すべきは70%のジェスチャーという事になる。ところが、多くのセールス会社ではただ『ジェスチャーを入れろ』というだけで、実際にどのタイミングでどんなジェスチャーをすればいいのか、あまり徹底的に具体的に指導していない。でも最も重要な所であるからこそ、新入社員にはその部分を研修の時に丁寧に教えてあげるべきなんじゃないか?と僕は思うんだ」と力説するジャック。実際、ジャックのジェスチャーの指導はかなり丁寧なものだった。
ジャック:「よし、じゃあまずドアをノックする所から入ろう。ドアをノックしたら、すぐドアに背を向ける。そして仕事用のiPadをいじるんだ。ノックした後にただボーっと立って待ってるんじゃなくて、iPadで忙しくしているジェスチャーを見せれば、出てきた住人は何か重要な事が今起きているんじゃないかと思うはずだからね。じゃあ、まずはドアをノックして背を向けてiPadをいじる所まで一緒にやってみよう。ノック、くるっと回ってiPad。よし、OKだ!」
ジャック:「次は住人に挨拶する所だね。『Hi, how are you doing? My name is ○○ from ○○, 今日はお宅の電気料金の事で来ました。』と言う。さぁ、ここで頭上に電線があると思って、そこを指差そう。そうする事で、客の注意は『自分の家の電気』に移って、話を聞いてもらい易くなる。そしてすかさず『ここはお宅の住所で合っていますよね?』と言いながら、自分の仕事用のiPadのページを見せる。すると住人は当然Yesというはず。なんでもないようなんだけど、このように相手にYesと言わせるような質問をちょこちょこ混ぜ込むのが大事なんだ。相手に何回もYesを繰り返し言わせているウチに、その流れで本題の電気料金の話、契約の話でもYesと言わせ易くなるからね。」
ジャック:「さぁここでお客さんに本題を伝えよう。『私が今ここにいる理由は、もしかしたらあなたが払う電気料金を安くしたり、あなたの電気料金の割引のレートを上げる事ができるかもしれないからなんです。それができるかどうかチェックするのに一番簡単な方法は、あなたの一番最近の電気料金の請求書なんです。なのでちょっと家の中に戻って請求書を持ってきて私に見せてください。』と言って、家の奥の方を指差す。そしてお客さんから視線をそらし、またiPadで忙しいフリをする。視線をそらす事で『はい、もう会話は終わったんですよ。今あなたがやる事は請求書を持ってくる事なんですよ』と悟らせ、それ以上会話を続けられないようにするんだ。よし、このパートの練習も終わったら、一度ここまで通して練習してみようか。」
ノック、くるっと回ってiPad、軽く自己紹介、電線を指差す、住所確認でYesと言わせ、簡潔に本題説明、請求書を取ってくるようにと家の奥を指差し、視線をそらしてまたiPad。
これをジャックの先導で何度も繰り返す。
ジャック:「よし、今日はこれぐらいにしておこう!他にもセールスの技術で学ぶ事は色々あるが、それはターフに出て行く前に毎朝オフィスで行われる研修でこれから身につけていこう。月曜日からは、君たちはそれぞれ1人か2人ずつ別々のセールスチームに振り分けられる事になる。その時に君たちのリーダーになる者に君たちの連絡先を教えておくから、後でそのリーダーから連絡が来るはずだからそれを待っていてくれ。」
ジャックは素晴らしいリーダーだなぁ。新入社員の教育を本当に懇切丁寧に行ってくれる。これならもしかしたら僕でも数週間後には1日で何件も契約がとれるセールスマンに成長しているかもしれないぞ。
そしてその夜僕の携帯に1件のテキストメッセージが届いた。どうやらこのメッセージを僕に送ってくれたその人が月曜日から僕が所属するセールスチームのリーダーらしい。どんな人なんだろう。昨日今日のジャックの親切な指導からしてなんだか楽しみになってきた^^