ボールは一直線にゴールへ吸い込まれた。
1対1
校庭が静まり返る。
歓声を上げることさえ忘れるほどの驚きだった。
先生が立ち上がる。
味方ベンチも立ち上がる。
相手チームの選手たちも顔を見合わせる。
誰も知らなかった。
麻耶がこんなプレーをすることを。
試合は俄然面白くなった。
麻耶は走り続けた。
転んでも。
ユニフォームが泥だらけになっても。
息が切れても。
走った。
ただ走った。
終了間際。
相手ゴール前の混戦。
三人に囲まれながら、麻耶は倒れ込むようにボールへ足を伸ばした。
そのボールが味方のエース格の選手の前へ転がる。
迷いのないシュート。
ゴール。
2対1
逆転
終了のホイッスルが鳴った瞬間、校庭は揺れた。
仲間たちが麻耶のもとへ駆け寄る。
誰かが肩を抱いた。
誰かが泣いていた。
先生まで目を潤ませていた。
だが麻耶は、ただ困ったように笑っていた。
こんなふうに囲まれたことが、一度もなかったからだ。
閉会式が終わる。
夕陽が校舎を赤く染めていた。
麻耶はいつものように、一人で帰ろうとした。
誰にも気づかれないように。
いつものように。
静かに。
校門へ向かう。
その背中に、突然声が飛んだ。
「麻耶ーーー!!」
振り向く。
クラスメートだった。
一人ではない。
二人でもない。
味方チーム。
女子たち。
男子たち。
先生。
そして、さっきまで戦っていた相手チームの生徒たちまでいた。
「麻耶ーーー!」
「ありがとなー!」
「最高だったぞー!」
「また一緒にやろうな!」
「麻耶ーーー!」
「麻耶ーーー!」
「麻耶ーーー!」
何十もの声が重なる。
校庭いっぱいに響く。
夕空へ昇っていく。
まるで拍手だった。
まるで祝福だった。
麻耶は立ち尽くした。
涙で景色が滲む。
今まで、自分の名前がこんなふうに呼ばれたことはなかった。
何度も。
何度も。
何度も。
やがて麻耶は深く頭を下げた。
声は出なかった。
けれど、その肩は小さく震えていた。
夕陽の中。
皆はまだ手を振っている。
「麻耶ーーー!」
「また明日なーーー!」
その声に背中を押されるように、麻耶は歩き出した。
少しだけ胸を張って。
涙をぬぐいながら。
まるで世界が今日から違って見えるかのように。
そして校門の向こうでは、いつまでも声が響いていた。
「麻耶ーーー!!」
