迷った理由は、
自分でもよくわかりません
ただ、
その手に触れてしまうと、
何かが変わってしまうような気がしたのです
けれど、結局、
触れました
温かい、と思いました
それだけのことです
それだけのことなのに、
なぜか、今でも覚えています
わたしたちは、
少しだけ一緒に歩きました
ほとんど何も話していません
名前も知りません
約束もしていません
その人は、
ある場所で立ち止まり、
それ以上は来ませんでした
わたしも、
それ以上は求めませんでした
それでよかったのだと思います
別れ際に、
何か言われた気がしますが、
うまく思い出せません
ただ、
責められてはいなかった、
ということだけは確かです
家に帰ると、
いつものように静かでした
それなのに、
その夜にかぎって
少しだけ違って見えました
理由はわかりません
わからないまま、
今に至っています
あのとき、
もしあの人がいなかったら、
どうなっていたのか
考えたことはありますが、
結論は出ません
出ないままでいいとも思っています
ただひとつ言えるのは、
あの夜、
わたしは、
ほんの少しだけ、
救われていたのだと思います
それだけの話です
