その気配に気づいたのか、隣の少年が、わずかに動いた


「……え、あの」


声が、迷っている


何か言おうとして、言葉を探して、見つからないまま


空気だけが、ぎこちなく揺れる


「ごめん、俺――」


途中で途切れる


謝る理由すら、分からないように


その戸惑いが、かえって、やさしかった


愛莉は、顔を上げないまま、首を横に振った


違う、と伝えたかった


でも、うまく形にならない


その代わりに


少しだけ、距離が変わった


ほんの、わずかに


触れてはいないはずなのに、

さっきよりも、近い


彼の気配が、すぐ隣にある


呼吸の間隔まで、伝わってくる距離


少年は、動けなかった


手を伸ばしていいのか、

それとも、このままでいいのか


決められないまま、ただ、そこにいる


愛莉は、目を閉じた


逃げ場にしていた殻が、

音もなくほどけていく


街灯が、ようやく安定して光りはじめる


その下で、ふたりの影が、少しだけ重なった


重なったのは、ほんの一瞬だったのかもしれない





あるいは、もう少し長かったのかもしれない


どちらでも、よかった


その違いを、確かめる必要はなかった


ただ、そこに、誰かがいる


それだけで、十分だった