第一話
――再会は、少し遅れて熱を持つ
吉祥寺の午後は、
人の感情に深入りしない
夏帆はそう思いながら、
クラシック喫茶の木の椅子に腰を下ろした
一人で来るつもりは、なかった
ただ、来てしまった
夫を亡くして三年
悲しみは薄まったが、
誰かに触れられる準備が
整ったかと言われれば、
それは分からなかった
帰り際、
木戸を押したとき、
誰かと肩が触れた
「……夏帆?」
名前を呼ばれて、
心臓が一拍、遅れた
芳樹だった
長くなった髪
変わらない声
「急いでいるので」
それだけ言って、
夏帆は逃げるように店を出た
——なのに
その夜、
風呂に浸かりながら、
彼の声だけが、
やけに生々しく残っていた
