引っ越しの前々日、フィルが会いに来てくれました。
 
 
彼は、アパートの屋外プールの管理人を、夏の間だけ何十年もしています。
 
 
大柄で、よく日に焼けて、常に人懐っこいフィルの本職はギャンブラーだとか。
 
 
いつもボロボロの半袖Tシャツ姿。常に誰かと楽しそうにしゃべっています。
 
 
時々、洒落た帽子を被ったり、手編みの帽子やマフラーを身に着けていることも。
 
 
女性ファンが多く、彼女たちが、わんさか作ってくれるのだとか。(確かに、周りにおばちゃん集団を引き連れて歩いていることが多いあせる
 
 
「その帽子、似会うねー」と声を掛けると、すぐに「君にあげるよ」と差し出しちゃう執着心ゼロな人でもあります。
 
 
夏場は毎日、プールサイドで監視員をしながら昼寝をしたり、子ども達にスーパーボールを配ったり、誰かとビールを飲みながら陽気に語らっていたり。
 
 
子ども達の集まり具合を見て、プールの閉鎖時間をいつも延長してくれちゃいます。
 
 
「プールの地下室がどうなっているのか見たいかい?」と、子ども達に地下のボイラー室を見せてくれたこともありました。
 
 
閉鎖時間になると、下手くそなギターを弾いてフィルが歌い始めます。
 
 
大人には、いつもジョークしか言わないので、何が本当の話なのか、よくわからないダンディな自由人。
 
 
でも、アパートのオーナー一家やマネジャーは、みんな一目置いています。
 
 
その飄々とした生き方は、まさにクリント・イーストウッドの映画に出てきそうドキドキ
 
 
昨年の夏は、コロナ禍のため、途中でアパートの管理人から「5歳以下はプール禁止」という通達がありました。
 
 
ええーーー。暑い夏は、子どもの楽しみがプールだけなのにあせるあせる
 
 
しかも、コロナでどこにも行けないチーン
 
 
と諦めていたら、珍しくフィルがプールの入り口から出てきて、「明日もおいで。絶対に来るんだよ。待ってるからね」と言ってくれました。
 
 
プールの常連家族に声を掛けているらしい。
 
 
「でも、禁止という通達が…」と言うと、「あんな根拠の無い通知は無視、無視。俺が管理人だから。一部の住人が騒いでいるだけだよ、あんなの無視だ」と強く言います。
 
 
数日間、様子見をしましたが、ほかの子ども達の多くも、今まで通りに集まっています。
 
 
そこで、メイ(ジュリエットとダニエルのママ)に相談すると、「フィルの言う通りよ。○○の同意も取れているからOK。うちは、これまで通りに行くから、おいで」との返事。
 
 
それならと、「他の住人が迷惑そうな顔をしたら、すぐに帰る」というマイルールをつくって、プールへ行ってみました。
 
 
夕方、5歳以下の子ども達を持つ親同士で連絡を取り合い、示し合わせてプールへ行くという流れも出来ました。
 
 
たまに大人が泳ぎに来ると、さっとフィルが交通整理をして、プールの半分が大人用。残り半分が子ども用と分けてくれます。
 
 
「コロナ禍なので、アパートの住人以外を招いてはいけない」という通達もありましたが、大人たちも、普通に客人を招いてプールサイドで語らい始めました。
 
 
ちょっと罪の意識が薄まって、有り難い汗
 
 
フィルのお陰で、多くの住人が夏のプールを楽しんだのでした。
 
 
夏の終わり。矢面に立ってくれたフィルにお礼のカードを書きました。が、つかみどころのないフィルにぴったりの言葉が見つからない笑い泣き笑い泣き笑い泣き
 
 
しばらく考えた末、「あなたは私たちのヒーロー。ありがとう」と書き、家族の名前を添えました。
 
 
すると、そのメッセージが嬉しかったのか、その後もプールで会うと、めちゃくちゃ人懐っこく話しかけてくれ、「みんなにご馳走してやるから、いつが良い?」としきりに誘ってくれました。
 
 
近いうちに日本へ遊びに行くから、豪遊しよう!とも言っていましたあせる
 
 
子ども好きなんだな。同じ年ぐらいの孫がいるのかな?と勝手に想像していたけど、メイによると、フィルは独身で、冬場はギャンブルで生計を立てているとのこと。
 
 
で、今回、私たちが引っ越すに当たって家具や家電の引き取り手を探していたら、メイが「フィルに聞いてみたら?よく家具を探していたから」とのこと。
 
 
それで久しぶりに連絡をしたら、すぐに「家具の処分に困っているのかい?昔、その関連で働いていたから、仲間を紹介しようか?」と返事が来ました。
 
 
「困っていないけど、何か役に立つものがあれば、使ってくれたら嬉しい」と伝えると、「今日の夕方はアパートにいる?家具はいらないけど、サヨナラだけ言いに行かせてくれ!」とのメッセージが届き、小雪のちらつく中、私たちが娘の保育園から帰るのを半袖姿で待っていました。

 

 

相変わらずの行動力と、さりげなさが格好いい。

 

 

私は、物欲の無いフィルに物を押し付けて良いのだろうかと迷いつつ、冬場に便利だろうと思って、「電気ポットをいらない?」と聞いてみました。

 

 

ちょっと驚いた様子で、でも笑顔で受け取ってくれたフィルは、そのまま去っていきました。

 

 

そして30分後。フィルから着信がありました。「こんな洒落たものを使ったことが無いんだ。どうやって使うんだい?」

 

 

ゲラゲラゲラゲラゲラゲラ

 

 

サイコーだぜ!フィル!!

 

 

「コンセントの前に行って、プラグを挿せる?」「ボタンを押すと青色に点灯するから、それが消えたらお湯が湧いたという合図だよ」

 

 

たどたどしい英語で、米国製品の使い方を米国人に説明する私汗

 

 

すると、フィルが「ワオ!こりゃ、すげえ!!」と言い、ブチッと電話が切れました。

 

 

ボストンを再訪する時は、また会いたいな。スーパーヒーローに。