チェリーセント#8

 
先日、ユノは修道院に足を運んだ。
そこにある児童福祉施設で慈善活動をしているからだ。
 
子ども達への学習道具や玩具を運び、応接室で寄付金の手続きを終えた後、シスターと会話する。
 
 
「ユノ、顔を見せてくれて嬉しいわ。」
 
 
「なかなか来れず、すいません。」
 
 
「いいのよ。忙しいんだから。疲れた顔をしているのね、大丈夫なの?」
 
 
「ええ、俺は身体が取り柄ですから。」
 
 
「心配だわ。貴方は自分を犠牲にして無理をするところがあるから。寄付だって、こんなに沢山必要ないわ。他の施設にもしてるんでしょ?貴方の負担になってしまったら・・・。」
 
 
「そんな心配は要りませんよ。」
 
 
「でも半年前だってしてくれたじゃない。」
 
 
「え・・・半年前?」
 
 
「ええ、貴方の部下が持ってきてくれたわよ。」
 
 
「?!」
 
 
ユノは顔を顰める。
 
 
部下が?
誰だろう?
 
 
心当たりが無い。
 
 
「あ、あったわ。」
 
 
シスターは机の引き出しから紙を取り出してユジンに見せた。
 
 
「ほら、これよ。」
 
 
寄付金の受領書とメッセージカードだ。
寄付金額は5000万ウォン。
 
 
 
ー全ての子供達の幸せを願って・・・。
                                    チョン・ユンホ
 
 
 
それを見て、ユノは息を止めた。
 
いつも自分が添えるメッセージ。
 
 
でもこれは・・・
 
自分の字ではない。
 
 
だが、よく知っている字だ。
 
 
 
ユノは口元を抑える。
 
 
 
「素敵な女性だったわ。貴方の代わりに届けに来ただけなのに、手作りのマスクやハンカチをたくさん持ってきてくれて、庭の掃除をしたり、子供達と遊んでくれたの。皆とても喜んでいたわ。」
 
 
手が震える。
 
 
耐えられなくなり、ユノは顔を覆う。
 
 
彼女だ・・・。
 
 
「ユノ?」
 
シスターが心配して覗き込む。
 
 
何故なのか、全て解った。
手切れ金を受け取る事は、彼女自身の為じゃない。
 
金など受け取らなくても彼女はユノを陥れるような事はしない。でも傲慢な彼らにそれは通じなかったのだろう。
 
金を受け取ったのだから、二度と関わるな。
 
彼らは彼女自らのサインの入った確かな契約が欲しかったのだ。
 
憎んでくれたらいいのに・・・
全て自分の為に使えばいいのに・・・
 
全てここへ寄付するなんて。
 
 
 
日付は自分達が別れた日。
あの時、
君はもう決めていたの?
 
 
どうして君は何も言わずに、ただ微笑んで・・・。
 
そう
君はそういう人だ。
 
 
ユノの目から一筋の涙が流れる。
 
どんなに辛かっただろう。
 
高圧的だったであろう両親や弁護士に囲まれて、独りで・・・。
 
独りで、どんなに心細かっただろう。
 
 
 
ごめん。
気づいてやれなくて。
すぐに駆けつけてやれなくて。
 
それどころか、もっと深く君を傷つけた。
 
 
「ユノ、大丈夫?」
 
 
「すいません・・・。」
 
 
「いいのよ。」
 
 
「・・・罪を犯しました。」
 
 
「え?」
 
 
「自分を犠牲にしたんじゃない・・・。彼女を・・・この世で一番大切な人を犠牲にしたんだ・・・。」
 
 
自分さえ我慢すればいいと思っていた。
自分さえ心を殺せばいいと思っていた。
 
間違いだった。
 
我慢させたのは君だ。
殺したのは君の心だ。
 
君を犠牲にしたんだ。
 
会いたい。
今すぐ会って、抱きしめたかった。
 
でも、もう遅い。
そう出来ない現実。
 
 
その日からユノの心は揺れた。
 
気持ちも不安定で
夜は酒を飲まないと眠れない。
 
やっと眠りに落ちて夢で彼女に会えても
抱きしめるどころか触れることさえもできない。
 
 
目覚めた時の
絶望と罪悪感。
 
 
自分の犯した罪に耐え切れず
罰を与えて欲しいとさえ願った。
 
 
 
ユノの手の中で
眩い程の輝きを放つ
愛しい人の名が刻まれた指輪。
 
ユノには鉛のように重い。
 
そう、これが罰だ。
 
君を犠牲にした罪への罰。
 
 
 
 
(続く)
 

 

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