やっぱり彼は覚えてた。

 晩御飯は適当に見つけたファミレス。帰る時間は十分すぎるほどにあったから、あとはお互い次第。朝日抜きにしてせっかくの二人だから、こっちで泊まらなくても帰って彼の家に泊まるという手段はあった。カスミのことが気になるから勘弁してほしいけど。

 どこ泊まろうか。朝日も見るんだったよね。

 花見の彼は返事をしなかった。私は肯定ととらえて話を進めているだけ。

 このへんよくわからないからな。どこか泊まれそうな場所あったっけ?

 海まで来る事は少ないけど、その手前まで来ることはよくあるから、一応知ってる。

 帰り道進んでいったらわき道にあるはずだよ。

 朝も早いからと言う理由で、日が完全に落ちきる前にはファミレスを出て、コンビニで少しの食べ物を買ってホテルへ向かっていた。行きに来た途中にあったから、車を少し走らせれば意外とすぐに見つかった。

 お城のような外観で、一歩間違えればド派手なカラオケ、そんな感じ。私もここに入るのは初めてだった。車で1、2時間ほどの距離まで出かけて一泊するなんて、彼の家みたいに泊まれる環境があればなかなか考えられない。

 海に行く途中の道の駅でお酒は買っていた。ちょっとしたご当地のお酒。家に持って帰る気なんか全然なくて、彼とまったく同じものを買った。

 ここで飲むため?

 聴かれてはいるけど核心をついてる。ばれてんだね。私はそれには答えなかったけど気付く。さっき確認するまでもなく、彼は泊まることを決めていたんだと思った。やっぱり沈黙は肯定、花見の時に話を切り出してよかった。

 部屋について一息。朝はどうしようかとか、買ったものとかを見ながら、これから起きる事は棚上げで、つけたテレビからはどうでもいい雑音。
 こうしていればしばらくの沈黙にも耐えられる。話すこともなくなり、時折唯一の音源であるテレビの空白の間が気まずい。
 まだ早い時間だけど、場所が場所だけに時間は感じない。常に夜の空気。多分、外はそろそろ完全に日が落ちるくらいの時間だと思う。

 朝早いから、そろそろお風呂入っちゃおうかな。

 先入る?

 答えも聞かずに彼は浴室へ。どうせシャワーだけだし、あとのことを思えば今はよかったけど、律儀にお湯を貯めたりしてくれている。備え付けのローブも用意してくれていた。
 それ以外にも、どこのホテルに常備してあるお茶やコーヒーも飲む? とたずねてくれた。そんなにくつろぐ場所でもないのに。

 先入っちゃって。運転お疲れ様、ゆっくりして。なんなら背中流そ?

 そこまで疲れてないよ。じゃあ先に入るよ。

 少し照れたように笑って浴室へと消えていく彼。ここでも彼の返事ははっきりしなかったから強引に入ろうかとも思ったけど、まあいいや。
 ローブで出てきた彼を見て、改めて気付く。傷のあと、初めて見た。こんなだったんだ、痛々しいというのでは生ぬるすぎた。大丈夫じゃないのはわかっていたけどまさかこんなに。

 シャワーを浴びると首の裏とか顔が少しヒリヒリする。日差しは強かったし日焼けかな。日焼け止め塗ってくればよかった。湯船にはつからず早めに浴室を出て、洗面所でナイトメイク。どうせあとでちゃんとお風呂には入るだろうから。こんなことするのって何年ぶりだろう、ちょっと気合入れすぎか。真っ暗にされたらあんまりどころかまったく意味がない。
 寝室に戻ると、多分さっきよりも照明は落とし気味だったと思う。テレビも少し音が小さくなってる。
 彼は、布団の上からベッドに半身を預けたままテレビに目を向けている。ちゃんと私の場所は空けてある。二人の隙間がちゃんと中央にくるように。
 私は彼とは違って布団の中に入って、彼と同じ態勢。ベッドの後ろには、テーブルに置いてあった飲み物とか最低限のものが移動してあって、ここにも彼の気遣いを感じた。
 
 テレビ消す?

 うん。

 言葉少なに私は頷き、彼はテレビを消すと同時に布団の上から布団の中に。照明のパネルも操作して、更に暗く、それでもお互いの姿や色は確認できるくらいに。
 お互い何も言うことなく、さっきまでついていたテレビを見つめていた。チラと彼へ視線を移す。
 何を考えているんだろう、思っているんだろう。気付けば見続けていたから、彼も私に気付いて視線が合わさった。うん、波長が。

 普通なら彼からのアクションを待つべきだったんだろうけど、お風呂上りの彼の傷を見たからなのか、知らないなりの彼の事情を思ってなのか、自然と私の体が動いた。
 彼をこれ以上傷つけないため、きっとそう。
 私が傷つくことはない、心も体も。もしそうなっても、彼ほどじゃないから。