大学入試の前期試験の結果も出てきて、入試シーズンも終わりに差し掛かってきました。

ほぼ本業と化してしまった個別指導塾での経験や教え方をせっかくなのでまとめていこうと思います。特に誰に向けた文章というわけではないのですが、塾講師のアルバイトを考えている学生や個別指導塾と大手予備校の違いを知りたい親御さんあたりの方に少しは参考になるかもしれません。

 

まずは私のプロフィールから、

私は25歳、国立大の理系学生です。地方の小さな個別指導塾で中高生に英語と数学、たまに物理や化学を教えています。

 

 

大手予備校では多くの場合、講師陣が作ったテキストを生徒が予習して、集団授業で解説を行う。それに対し、個別指導塾では塾によって授業形態が大きく異なるようです。私の勤めているところでは、市販或いは塾向けのテキスト等を生徒に解いてもらって躓いた箇所の説明をするといった感じです。

大手予備校では一般受験の合格点を取ることに重点を置くことが多いようですが、個別指導塾では学校の授業で理解が追い付かない範囲を補う場所という側面が強いように感じます。

 

近年の大学入試は、多くの情報から必要な情報を抜き取って時間内に回答を作る情報処理能力が重視されているといわれています。これは共通テストの数学、英語なんかでは顕著に表れている特徴といえます。膨大な文章量の中から設問を解くのに必要な情報を探しだして答えが求まるのです。これって莫大な情報量のインターネットから目的の、しかも正しい情報を探し出して考える作業に似ています。これからを生きる人間にとってはかなり重要そうな力です。(名古屋大の数学の試験は公式集を配布されて、証明なしに定理や公式を使ってよいとされますが、そのうちそれが入試数学のスタンダードになったりするんですかね?)

 

また、国公立は推薦入学の割合が高まっています。推薦入試と一口に言っても様々な形態があり、調査書や面接だけでなく、独自のペーパーテストやプレゼン、グループワークなど大学や学部によってやり方はだいぶ異なります。国立大の推薦入試はここ数年で活況を呈しつつあるといった感じなので、今の高校生の親御さんは国公立大に推薦入試があること自体を知らないケースがあります。実際に大学に行くのは生徒ですが大学入学の出資者は親御さんの場合が多いですから、この情報は知っておくべきです。

 

では、個別指導塾で学生のバイト講師が何を意識して教えたらよいのかを教科ごとに考えてみます。

 

数学編

数学の問題を解くときに必要な力を①思考力,②計算力の2つに分けて考えてみます。①の思考力は問題を読んでどの定理、公式を使うかを考えて回答の1行目を書く力、②の計算力は数式を整理したり、計算処理を速く正確に行う力ということにします。数学の問題を解くうえで重要な部分は①だけのようにも思えるのですが、②があると多くの方針を試すことができる。つまり②が①の

補強になりうると思います。ただ、②に関しては問題を解く練習をしたり、回答を添削、反芻すればある程度身につくように感じます。一般に非進学校といわれるような高校に通っている子も、教科書を見たり、公式の証明をした後に問題を解いてもらうと、回答の方針は立つ場合が多いです。結局、個別指導塾で確認すべきなのは教科書の基礎事項の考え方の理解だと思います。しかし、一度受験を突破した程度の学生アルバイターごときでは問題を解くことはできても、将来的に汎用性の高い考え方を教えることは難しく感じました。そんな大学生が①の基礎となる教科書の基礎事項を理解させつつ、生徒に問題を解けるようにさせるには、簡潔にまとまった説明のある参考書を示すことが良いように思えます。参考書ではなく、教科書でも問題ないと思うのですが、最低限必要な情報が何かをはっきりさせて、とりあえず基礎的な問題の答えを出せるようにすることが個別指導塾で必要なことなのかなと思っています。学校によっては演習がメインの授業だけだったりして、どの公式,定理を知っておくべきかを把握せずに個別の問題の解答を覚えようとする生徒もいたりします。そんな生徒には『知っておくべきことは~で、~と~の問題は同じことをしている』と教えてあげると、点と点が線になるように理解できる場合があります。

 

数学に限らず理系科目全般に言えることだと思いますが、理解することと回答を作れることは必ずしも同じタイミングでは起こらないと思います。基礎事項を理解していればなぜそのような回答になるかがわかりますが、理解していなくても何か別の問題の真似をして回答を作れる。そして、後になってこの回答の意味はこういうことだったのかと理解できることは往々にしてあります。後から気づくときに重要なのは、なにを知っておくべきだったのか、ということだと思います。なので、講師は生徒が後になって参照すればいい箇所を明示すればよいのではないでしょうか。

そのために使う教材はいろいろな選択肢があると思いますが、私は東京出版の大学への数学 入試数学の基礎徹底をお勧めします。

 

 

大学への数学シリーズは難易度の高さと回答の簡潔さから数学が不得手な人にとっては敬遠される存在に思えますが、この本は一通り受験勉強をした人にとっては良くまとまっている上に教科書の数式の説明や公式の証明も載っていて教える側にとってはかなりちょうどいい一冊になっていると思います。薄くて軽い点は生徒にとっても大きなメリットに思えます。この問題集を一通り解き終えた後にも、教科書代わりに持ち歩いて単語帳的に振り返ることが可能です。知っておくべき情報が色んな本に散り散りになっていると基礎事項の確認がなかなか終わりませんが、とりあえずこの本に書いてあることは把握しておかなくてはならないという一冊があると情報の取捨選択が楽になります。(それは教科書でもよいのですが、塾講師として教える立場に立った時に教科書とは違う言葉で説明をしているまとまった本が役に立つといういみでこれを紹介しています。)

 

入試数学の基礎徹底は主に①に必要な基礎事項の確認のための本ですが、②の訓練としてはいくつか方法があり、要領の良い子は問題を解いていくうちに自然とうまい計算ができるようになっていたりします。そうでない子も解答の添削や先生の真似をしてうまくなるものですが、自分が受験生の時には駿台文庫の数学の計算革命という本を使っていました。名前が若干胡散臭いですが、平方完成や部分積分などの操作ごとに集中的に練習することで速く正しく計算するという割と直球な本です。②の計算力があれば時間内にいろいろ試してゴリ押すことができたりするので、結構大事な要素だったりします。1日10分程度で終わる内容なので受験生が毎日集中するスイッチ的に使用できます。

 

 

また、生徒が持ってくる質問の多くが回答の同値変形の意味が分からないといった行間の操作を読み取る計算力の不足によるものだったりします。そういった生徒に対して講師は式変形を実際に書いてみるわけですが、どこまで省略すべきかの判断がなかなか難しいのです。その指標として私はこの本と同じ手順を踏んで説明してみることにしていました。生徒にとってもうまい計算は大事ですが、それ以上に回答を作る側にとって生徒がどこまで省略を理解できるかを読むためにいい本だと思います。

 

まとめ

個別指導塾で大学生バイトが数学を教える際に気にすべきことは、生徒が後から参照できるように知っておくべき基礎事項を明示すること。

 

数学だけでかなり長くなってしまったので、英語は気が向いたときに書くことにします。