第1章3
いや、あのさー、ここのスパイスチキンチェーン店のものでさ、別にここだけの味って訳じゃあ、って携帯鳴ってんだよ、あ、やばい!おいおい、すたすた歩いていくなよ。置いていくなよ。
携帯に出て見る。家からの呼び出しだよなー。黙って出てきたからかー。
「大翔、あなたどこにいるの、昼ごはんに帰ってきなさい!」
やば、母さんから呼び出しだよ、あー、大我ちょい待ち。
「いや、ちょっとプログラム部の部活で急に研究室呼び出しくらったんで、大我も来てるから」
「だめよ」
でかい声だなー。
「お父さんいなくなって大変なの、今はあなたもちゃんと家に居て、あたしや母さんに心配掛けないで」
あああ、心配掛けてごめん、って言わないと。
「う、ねぇ大翔、お願いよ、ねぇ」
「わわわ、泣かないでよ、すぐ帰るから、ね、帰ります」
「早く帰るのよ、ね」
ふと横に振り向くと、大我は、広大なビル区画内の仕切られた灰色の壁の中の電子ロック付き扉に、認証ログを認識させようとカメラに向かって胸のログパッチを向けている。怒ってるな。走って追いかけないと。
「早くしろよ、ルームの予約時間決まってるだろ、時間なくなっちゃうぞ」
あわてて僕も言い訳してしまう。
「今母さんとの会話中、母さん最近不安定だからさ、家から少しでも出ると心配するんだって」
「その心配の種の父親の行方、突き止めるんだろ、ほら、入るぞ。」
オートロックが開いてスライド式の灰色のドアが開く。2人専用の部屋では、大きなリクライニング式シートにフローティングディスプレイが4つ、そしてフローティングボードが付いた座席が2つ、部屋の全体を100インチメインビューワーが360度全体に広がっている、部屋全体が立体ディスプレイと化しているその部屋で、僕達はいつものように、2人一緒に脳神経伝達デバイス型ヘッドマウントディスプレイと接触感覚伝達装置を両手に装着。よーし。やってやろうじゃない。