前回は”コモンの「自治」諭”のバッドニュースに付いて書いたので、今回はグッドニュースの方を。


本では「住民思いの杉並区長をつくる会」の自治の実践により誕生した杉並区長岸本聡子氏の話が紹介される。岸本氏は海外のNGOで市民運動と自治体を繋ぐ橋渡し役を通じ、自治のあるべき姿を追求されて来た方。区民主体の自治を目指す団体から推挙されて区長に立候補し、対話を前面に出し区民と共に政策まで考えた選挙運動が区民の共感を得て見事当選された。

岸本氏の基本認識として、国家という権力は資本に近付き放っておけば国家が奉仕する対象は大企業や超富裕層に傾いていくので、99%の一般市民は排除されていく、という考えがある。そしてコモンの再生に向けて、資本主義が抑圧する「ケア」の分野(対象は気遣われるべき人間だけでなく、人間以外の生物・環境を包括する)と其処で働く人を守る為に市民同士で話し合い、自分達が願う自治体の在り方を提案するプロセスを目指している。

つまり、民主主義のベースとして対話を基本として、暮らしの未来は自分達で考える自治体を目指している。

過去の決定事項に付いては区長当選後に簡単に覆す事は出来ない為、前任者時代に決まって居た児童館というコモンの閉鎖は余儀なくされ放課後の児童の居場所が無くなったが、住民の粘り強い活動で幼児用子育て施設の児童向け開放という政策が成立したそうで、日本でも本物の自治が実践され始めている事は頼もしい限りだ。

 

岸本氏の海外での経験から、目指す先駆例としてパリ市の水道脱民営化、グルノーブル市の給食の脱競争入札による地元産有機野菜の導入、バルセロナ市の民泊規制、アムステルダム市の化石燃料広告規制と自転車・歩行者・住民中心の都市計画等も紹介されている。

 

本には岸本氏の話の他にも、「利害からはみ出して生まれる共同体」として人が集まってくる「店」という、ゆるい自治の場所のポテンシャルや、資本主義に翻弄されない小規模独立自営農の再評価、自治体を動かす市民科学の話、開かれた精神医療等の前向きな話も紹介されている。

 

”コモンの「自治」諭”はバッドニュースとグッドニュースが相半ばする内容だったが、総合してどう思うかは又次回。