貸農園の隣はMさんという80歳過ぎの方の区画なのだが、初対面の時からニコニコと色々教えてくださる大変有難い存在だ。Mさんは私より一回りくらい上だが、背筋はピンと張りオシャレな麦藁帽を被り、いつも鼻歌交じりで楽し気に野良仕事をされている。貸農園は一区画が50m2で、私は空きスペースだらけだが、Mさんは3区画で所狭しと色んな野菜が賑わっている。Mさんは大学教授の学者さんなのだが、聞けば以前は1000m2の敷地で野菜を作って近所の子供達にも手伝って貰っていた事もあるらしくて、3区画で150m2なんぞは朝飯前なんだろう。

 

先日私の帰りがけに唐突に「里芋は植えないの?」と聞かれて、「今はスカスカですが、遅まきながら畝が出来たら、枝豆とオクラを植える積りで・・・」とモゴモゴとした返事をしたら、少し残念そうな顔付をされたので「どうしてですか?」と聞いた処、「里芋の芽が出て植えたんだけど、余ったのがあって捨てるのも勿体ないのでどうかなと思ってね」との事。「そういう事なら何とか場所を確保して植えたいですね」と言ったら、「里芋は高く育つから隅っこの柵の近くが良いので、道路脇のその辺に植えといて良いですか?」「それは有難いけど申し訳ないです」「いや簡単だからやっときますよ」となり、翌日行ったら里芋を植えた処に柵まで設置されていて恐縮しきりだった。

 

Mさんは明るく気さくなキャラクターなので交流関係も広い様で、時々貸農園にもご友人を連れて来られる。林に囲まれた農園には、居心地の良い休憩スペースがあって其処で歓談される。ある時は落語が趣味の人を案内して来られ、紹介されたので私も同席させて貰ったが、Mさんの話の振り方が上手くてその方が私の会社員時代の仕事と繋がりがあった事も手伝い、ひとしきり話が盛り上がった。

 

別のある時は、女性のご友人を案内されて来て矢張り紹介されたのだが、その方は60年くらい前にアメリカに住んでいた由で当時の話になった。ケネディ暗殺の場面をテレビの実況放送で見ていて大層驚いた事や、ジャクリーン夫人が大統領をほったらかして逃げようとしていた事。そして、その数年前に皇太子と美智子妃のパレードで暴漢が襲って来た時に、美智子妃は皇太子を庇う姿勢をされていた話になり、それと比べて、ジャクリーン夫人はねえ、という落ちまで付いた。

 

Mさんのお仲間も皆元気一杯だ。自分もあと一回り生きられるとしたら是非こうありたいなと、つくづく思わせて下さるMさんである。