「銃病原菌鉄」:

世界的ベストセラーの銃病原菌鉄を10年程前に読んだ時は、目から鱗の話が満載で驚いたものだが、細かいトピックスの大半は直ぐには思い出せない。幾つか覚えている中で、農業に関わる人口爆発の話は興味深かったので、覚えている範囲で書いてみる。(数字は間違っているかも知れないが、大意は変わらない筈)

1万年前頃には、狩猟採集民が糧としていた動物が減少し、人類は危機を乗り切る上で野生植物の採集から栽培という手法に切り替わって行った。狩猟採集民の時代に一人が生きて行く為の食料を確保するには、数ヘクタールが必要だったが、約一万年前に始まった農業は同じ面積で数十倍から数百倍の人を養える作物が撮れるようになった。定住が必要な農業は、妊娠の頻度を増やす事にも繋がった。移動生活を前提とする狩猟採集民の妊婦は、新生児が自力で移動出来る迄は次の子供を作ることが出来ないが、定住することで子育ての助け合いが可能となり、歩けない幼児を育てながらでも望めば毎年子供を生める様になった。そして農業は労働集約的なので、子供を沢山生んで労働力を増やすインセンティブもあり人口爆発に繋がった、という様な内容だったと思う。

 

土壌劣化の原点は1万年前のメソポタミア:

前回も少し触れた話だが、もう少し詳しくみてみる。大地の五億年に依れば、農業は大地の栄養を吸い取り土を酸性化する所業であり、その結果大地を痩せさせCO2固定化を減少させる訳だが、その原点は「銃病原菌鉄」の話の通り一万年前にあった訳だ。農業が最初に始まったメソポタミアという乾燥地帯は、土の酸性度が低いというメリットと、水が少ないというデメリットを併せ持っていたが、灌漑農業という手法でデメリットを克服する事で繁栄をもたらした(これ以降の農業をこのブログでは勝手に農業1.0と呼ぶ)。然しその後、灌漑の失敗が起こり乾燥化という気候変動も影響し、地表の水分蒸発による塩分を含んだ地下水の上昇が起こり、土地が酸性化して痩せて行き砂漠化してしまったらしい。その後の世界でも乾燥地の農業は塩分による酸性化リスクという宿命を負っている様だ。

土壌の観点から言えば農業1.0は厄介者と言えるが、ホモサピエンスも種の繁栄がDNAに組込まれている以上、一万年前に狩猟する動物が激減し、生き残りを掛けて編み出した農業1.0を今の人間が非難する事はアンフェアだろう。

 

大規模農法での土壌劣化:

産業革命後も工業化に伴う人口増のニーズを満たす為に、農業2.0とでも呼べる機械化と化学肥料に依存した大規模農法が広がった。19世紀の時点では、農業の主要3肥料の内、鉱石から取れるリン酸・カリと異なり、空気中にある窒素の肥料化が農作物生産量拡大のボトルネックだったらしい。そんな時にドイツ人のハーバーボッシュが、空気中の窒素をアンモニアに変える画期的な発明をした結果、増加する人口を養う食料生産に繋がる革命的な技術として一気に世界中に広まり、食糧危機を回避する光となった。

然し裏側の影としては、ハーバーボッシュ法の土壌への影響も大きかった。これまで何度か触れてきたが、化学肥料は有機物という微生物の餌を含まない為、微生物は死んでしまいフカフカの団粒構造は失われて行き、更にハーバーボッシュ法で作られた硫酸アンモニウムは化学反応で土を著しく酸性化してしまい、土壌劣化が急速に進む事になった。此れにトラクターが深く関わって居た事は前回のブログで触れた通りだ。

つまり土壌の観点から言えば、農業2.0は1.0よりも桁違いに厄介な物となった。結果論としてはこの様に冷淡に言えるものの、当時の人達は必死であり食料増産の最善の手段と信じて進めた事を、矢張り後出しジャンケン的に非難する事は出来ない。
 

非難は出来ないが、現実は直視するしかない:

それでも現実は改めてチェックして置こう。

大地の5億年の解説によると、仮に1mの深さの土に含まれる腐植やCO2や炭酸カルシウム(CaCO3)が全て空気中に放出されると、大気中のCO2濃度は3倍になるらしい。例えば米国プレーリーの肥沃な土地は、メイフラワー号の入植以来の農業で既に約半分が消失し、腐植が失われると共にCO2が放出されたらしい。そして此処100年の大気中のCO2濃度上昇の内、80%が化石燃料による固定化CO2の解放だが、残り20%は土壌劣化による固定化CO2の解放であり、これは現在進行形であり且つ加速していると懸念されるのだ。

 

今回はキツイ話で終始してしまったが、次回はもう少し期待を込めた内容にしたい。