「天命・・・・・・。」
190cm以上ある大男が、農道をフラフラとブツブツつぶやきながら歩いていた。
それを野良仕事をしているベテラン農家の人たちが心配げに見ていた。
「大きい兄さん、大丈夫かね?オイってば!」
久保はその声に気がつかず、夢遊病のように、新妻の実家に戻っていった。
「ただいま・・・・・・。」
大きな玄関の引き戸を開けると、腰に手を当て仁王立ちしている妻が立っていた。
「タクといい、浩次くんといい本当にうちの男たちは・・・・。」
「ん?ワシも入っとるのか、そこに?」
後ろからおっとり刀で現れた家主が、やんわりと話の腰を折ろうとした。
「お父さん・・・・・。」
ハーフを思わせる端正な顔の眉間に、深い皺が寄った。
「入ってるよぉ!うちの家系だよぉ、あきらめなぁ。」
追い討ちをかける様に、母親の気の抜けるような合いの手が入った。
「お母さんまで、もう!」
新妻のたれ気味の目じりがキューっと上がった
「浩次くん、聞いてるの?」
「・・・・・・・天命。」
「えっ?!」
「人一人の人生任された。」
「ちょっと、何言ってるの、浩次くん?!」
今まで見たことのない、夫の様子に有希子は背筋が寒くなった。
そこへ、それを知ってか知らずか有希子の母親がふわぁっと入ってきた。
「浩次さん、朝ごはん、まだでしょ?食べる?」
「え?あ!いただきます!食べます、うん!食べる!!」
その声に浩次は我に返り、素の豪快なストライカーに戻っていた。
「もう!!!」
心配していた自分が馬鹿らしくなって、有希子は思わず叫んでいた。
「どうした?有希子、メシメシ。」
「まったく・・・・・・。」
玄関を上がって小走りに廊下を行く久保を有希子はあきれて見送った。
「男はあれ位が丁度いい、うん。有希子、手伝いなさい。」
「え?あ、はい。」
元なでしこジャパンだった有希子は、丸くなった母親の後を追った。