もう最終回かなー
うん・・・
海岸に着いた人魚姫は、静かに夜の海を見つめていた。
(もう・・・会えませんね・・・。)
靴を脱いで、ざぶざぶと波に入って行く。
「待ちなさい!」
はっと前を向くと、向こう側に、たくさんの人魚が見えた。
(あれは・・・・お・・・お姉さま達!?)
最初気づかなかったのは、姉達の長い艶やかな髪が、襟元でバッサリ切られてるからだった。
「バカなことしないでよ!あんたがいない間、私達どれだけ心配したと思ってんのよ!!」
「・・・・・」
するとその時、後ろから肩を掴まれた。
振り返ると、王子が立っていた。膝まで水に浸かっている。
「お前・・・」
王子は目の前にいる人魚達を見る。
するとその人魚達は王子をキッと睨みつけて、どこからか鞘に入ったナイフを取り出した。
「これ、髪と交換したの。あんたには可哀想だけど、このナイフでその人を刺しなさい。そしたらあんたは、また人魚に戻れる。声だって出る。また、私達で楽しく暮らしましょうよ・・・ね?」
「っっ!!!」
人魚姫の顔からさっと血の気が引いた。
姉の一人が、鞘に入ったままのナイフを投げると、くるくると弧を描いて飛んできて、人魚姫はギリギリのところで受け止めた。
「・・・・・。」
「おい。」
後ろから王子が静かな声で言った。
「何だかよくわかんねぇけど、俺を殺せば、幸せになれるってことだよな?」
「!!」
「俺は、お前に幸せになって欲しい。」
そういうなり、腕を大きく広げた。
「刺せよ。腹だろうが胸だろうが。」
「・・・・・っ!」
手に持ったナイフを見つめる。
(なぜ・・・なぜですか?なぜ、大好きなお方を、刺さなければいけないのですか?)
ボロボロと涙がこぼれてくる。
(決めました・・・)
人魚姫は、手に持ったナイフを、ありったけの力を込めて海に投げた。
ポチャン
静けさの中、遠くの方で、ナイフは沈んでいったのだろうか。
(ごめんなさい・・・お姉様方・・。髪の毛は伸びるけど、王子様を殺してしまえば、お命は永遠にもどらないのでございます・・・。)
そしてくるりと背を向け、岸の方へ走っていく。
姉達は、妹が何をするつもりなのかわからなかった。
しばらくして、城のバルコニーに、人魚姫が見えた。
「まさかっ・・・!」
人魚姫は、もう沖に向かって歩いていくことを諦めたのだ。そうすれば、確実に姉たちが引き止める。
だから、バルコニーから海に飛び込むことにしたのだ。
「やめなさいっ!」
(さよなら・・・)
バルコニーから、真っ逆さまに落ちていく人魚姫を、そこにいた者たちは呆然と見つめていた。
助けに行こうとしたが、遠すぎた。
そして、人魚姫は、生まれ育った海に消えていった。
人魚姫は、しばらく沈んでいった。
けれどすぐに、体がふわりと軽くなるのを感じた。
人魚姫の体は、静かに、静かに、泡となって消えていった。
(どうか・・・大好きなあなたの道に、幸せが訪れますように・・・・)