自分の犬が欲しくて欲しくて
保護犬収容施設に
足を向けたはいいものの
「この子をぜひうちの子に」という
衝撃を伴う邂逅の機会には恵まれず
卑屈になりつつあった私はそこで
逆転の発想に至ったのです、
人が犬を選ぶんじゃなくて
犬に選んでもらえばいいんじゃない!
この施設にいる一番不人気な犬を
手元に引き取っちゃえばいいんじゃない!
ほら、あれです、そうした場合
将来的にうちの子になったその犬が
自らの境遇に不平・不満を抱えたとしても
「・・・でも自分、ここしか貰われ先が
ありませんでしたしねえ・・・
他の家に行きたかったとか言っても
他の家は自分を
貰ってくれませんでしたしねえ・・・
じゃあ何かもう、仕方ないか・・・」
みたいな諦めの境地を
勝手に得てくれるかな、と。
いや、私はちゃんと犬の世話をするし
可愛がる予定ではいますよ?
でも何て言うのかしら、お互いの
心構え上の保険っていうのかしら?
ね?
(『ね?』とか言われても、という
皆様の困惑の声が聞こえます)
ともあれ私は施設のHPで
その時点で一番長く施設に滞在している、
すなわち最も長い間貰い手が現れないでいる
可哀そうな犬の情報に行きあたったのです。
雄犬、9歳、中型犬(雑種)。
性格および健康上の問題点:特になし。
・・・どうしてこの子が不人気なのか。
「先天的胃腸障害があります
(獣医の指導に基づき5時間ごとに
特別餌を与える必要があります)」とか
「脱走癖があります(6メートルの
壁を乗り越えました)」とか
「30分以上の孤独には耐えられない子です
(留守番させるとパニックを起こし
部屋は糞尿まみれになるでしょう)」とか
「他の犬に対して攻撃的です
(力強い犬の扱いに長けた方にのみ
お譲り可能です)」とか、そういう
私にとっては絶対的に高いハードルが
『懸念材料』として掲げられている犬たちは
それでもこちらが驚くくらいさっさと
貰われ先を決めていく様子であるのに。
そりゃ9歳というのは犬としては
高齢かもしれませんけど
でも健康なんでしょ?
そこはそれこそ逆転の発想で
「寿命は短いかもしれないけれど
そのぶん短期的に愛情を投入、
幸せな晩年を強制的に経験させます」
みたいな飼育指針も可能なんでない?
・・・まあでもこの子の不人気の理由は
私にもよく分かったんでございます。
『譲渡可能犬』のリストには
犬の名前と年齢・性格の他に
各犬の写真がついているんですけど、
この子の写真がもう何というか・・・
一言で形容すれば不格好。
いや、不格好は違うわね、
正しく、かつはっきり言えば不細工。
・・・施設側もどうしてこんな写真を選ぶのよ!
これじゃ貰い手は現れないでしょ!
またですね、リストに載っている
他の犬たちは写真の中で
「私を助けてください」「僕は傷ついています」
「不安なんです、さみしいんです」という
人の心を震わせる表情を見せているのに
対してこの9歳雑種中型犬の顔つきったら
「おう、ワイはスケベやで!すまんな!」みたいな・・・
本当なんです!
何かしら、口元に締まりがないのが
いけないのかしらね?
うん、私も本来なら犬は
口元がきりっとした子が好きなんだけど
・・・というかこの子、口元だけじゃなくて
目つきもちょっとアレよね、好色そうっていうか・・・
顔だけじゃないんですっ!
この子ったらもう全体がそんな感じなんですっ!
(どんな感じだ)
犬なのに猪首っぽく脚はがに股気味、
肩から下の見た感じの質感がヌルっとしていて
・・・だからどうしてこんな写真を載せるんだ!
もっと『うつりのいい写真』はあったはずでしょ!
でもまあ施設の皆様も今は忙しいみたいだし、
写真を撮り直してHPを更新し直して、というのも
実は大変な手間なのかもしれないし、
これはきっとあれよ、神様が私のために
用意してくれた第一歩、きっと明日
施設に足を向けてこの子の実物と体面したら
「何だ君は写真うつりの悪い子だな、
実際に見るとハンサムじゃないか!
よし、このままうちの子になりなさい!」
という王道コースが私を待っているのよ!
期待に胸を膨らませ私は翌日施設に単身出陣。
「あの長いことここに滞在しているという、
雑種の雄犬9歳の散歩をしたいのですが」
「ハイハイ、ちょっと待っていてね」
運命の犬が扉から姿を見せた時、
私はすべてを悟ったのです、
施設側はアレ、この子の
『一番写りのいい写真』を
HPに掲載していたのだわ・・・!
続く。
山科けいすけ先生の描く
『駄犬』のさらに上を行く見た目の犬でした・・・
山科けいすけのパパはなんだかわからない (週刊朝日増刊)
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