今回の私の編み物をめぐる

冒険に関しましては

友人のポーランド人淑女の

助力なしには旅の第一歩さえ

成し得なかった実感があるわけで

「ありがとう、本当にありがとう」

 

七重の膝を八重に折り

感謝の言葉を繰り返す私に

「いいのよ、私だって楽しかったし!

特別なことは何もやってないし!

あなたが編み物をしているのを見て

今度私も何か編もうかなって思ったくらいよ、

本当、私も楽しかったわ!」

 

それにしても彼女の編み物に対する

造詣の深さたるや素晴らしいもので

「そういうのは誰に教わったの?

家族?それとも学校教育?」

 

「学校でもやったし家でもやったし・・・」

 

「素晴らしい。ポーランドは

手工芸技術の保護に本気な国なんだね」

 

いえ、編み物というのは英国においては

少し前までは割と普遍的な

趣味であったらしいんですけど、

その技術を継承する人の数はその後

何故かどんどん減ってしまい・・・

 

これは静かなる文化の喪失、

嘆かわしいことだ、と

わが夫(英国人)などは

よく漏らしていたのでございます。

 

そうしたわが夫の悲しみを踏まえての

私のこの発言であったわけですが

しかしわが友人のポーランド淑女は

私のこの言葉を聞くと少し笑って

「うーん・・・というかね、あのね、

うちの国って結構最近まで

共産主義国家だったのよ。つまりほら、

いわゆる経済危機というのがあってね」

 

彼女の青春時代、『セーター』を

着たい、となったらそれは自分で

編むしかなかったのだそうでございます。

 

何故ならそのようなものは当時

どこのお店にも売っていなかったから。

 

毛糸は買えたのでそれを手に入れて

あとは自分で編むよりほかに道はない。

 

「親戚がドイツで仕事をしてね、

その時に質のいい毛糸を

スーツケースいっぱいに詰めて

帰って来てくれたことがあるの、

あの時は嬉しかったわ!」

 

なお現在のポーランドは

目覚ましい経済発展を遂げている最中で

ちょっとオシャレな開発地域の

ピカピカのショッピング街に行けば

もうあっちにもこっちにも

素敵なデザインと品質の

ニット着が売られているそうで

「それは素敵な話だけど、でもそうすると

近いうちにポーランドでも編み物は

『世代継承されなかった技術』に

なってしまうかもしれないわけやね」

 

「そうね、趣味としては残るでしょうけど、

でも一昔前のように『絶対に習得すべき

技術』という風にはならないでしょうね。

英国と同じように『セーターはお店で

買う物』っていう考え方が主流になると思う。

だってセーターを買ったほうが楽だし

安く済むし・・・セーターを編むのに必要な量の

毛糸玉を買うだけで実は結構な値段になるでしょ?」

 

これは何も編み物やポーランドだけに

限った話ではなく、ほら、日本でもそうですよね、

私の祖母の世代は和裁が出来て当たり前で

毎日半襟をつけ直していたりしていたのが

今そういうことをしている人は

『趣味人』扱いされるじゃないですか。

 

食事の支度などもそうで

お米一つ炊くにしても我々は

炊飯器のスイッチを押せばそれで完了で、

でもついこの間までそうした作業は

『かまどの火をおこす』ところから

始めなくてはならなかったわけで。

 

技術が進化し、普及し、

日々の生活の利便性が高められるのは

本当にありがたいこと。

 

しかし同時に我々は

過去の人々が大切に継承してきた

生活の技術というものを失っていく。

 

そう考えると今回の私の

編み物への挑戦は

一種の懐古主義の

発露であったのかもしれません。

 

 

個人的に不思議なのは

日本で『羊毛を使った編み物』が

本格的に世に紹介されたのが

明治以降であったという事実です

 

 

 

 

いや、これ、日本人が非常に好みそうな

手工芸技術であるわけじゃないですか

 

嵯峨天皇の時代に大陸から

羊が献上された、とも言われていますし

何故そこで新しいもの好きの大和人が

「ウソー!何これ、いとおかしー!

マジ殿上編み物部作っちゃわね?」

みたいな感じに編み物にハマらなかったのか

 

日本の冬は結局のところ羊毛を

必要としない程度の寒さである、

ということなのかしら・・・

 

スコットランドの冬は

毛糸の帽子必須でございます

 

わたしゃね、日本にいる時にね、

帽子なんてかぶりませんでしたよ普段は!

 

帽子はお洒落ではなく防具なんです!

 

今年あたり手編みセーターに

挑戦しちゃおうかしら、と考えるあなたも

また何を、ニット製品は

お店で購入が基本でしょ、なあなたも

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