この夏我が家に
遊びに来たお子様たちの話。

庭を散歩しつつ大人同士は
園芸談義にふけることが可能ですが
子供はあまりそういう話題に興味がない。

そりゃそうでしょう、私だって
花だの球根だのに興味を持ちはじめたのは
引っ越しをして『自分の庭』を手にしてからです。

かといって退屈した子供が
手近なところにある花や草を毟ると、
それを見咎めた親に
鋭く叱られてしまう(『人のお庭の
お花を傷つけるんじゃありません!』)。

ニワトリを追い掛け回して遊ぶにしても
追い掛け回しすぎるとやはり
親に怖い声を出される(『動物を
いじめてはいけません!』)。

結果、子供は手持無沙汰に
とぼとぼと大人の後を
ついてまわるだけのことになってしまう。

・・・これを可哀そうと思う私は
やはり英国躾基準からすると甘いのか。

ある日私はそんな子供
(4歳男児)に声をかけました。

「君、はさみは使えるか」
「使えるよ」

「子供用のはさみではない、
大人用の切れ味の鋭い
危ないはさみは使えるか」
「・・・使ったことはないけど
でもたぶん使えるよ」

「じゃあその危ないはさみを使って
庭にある花を切って、そして
その花を君のお母さんに
プレゼントしたいとは思わないかね」

私のこの申し出が
子供の脳にきちんと収まるには
毎回若干の時間を要します。

たぶん私の英語が訛り気味であるのと
そんな提案を彼らはこれまで
耳にしたことがないせいだと思われます。

彼らは怪訝そうな顔をして動きを止め
己の内部に向かって
何かを語りかける姿勢を取ります。

はさみ・・・それも危ないはさみ・・・

それを使って、花を切る・・・

そしてその花をプレゼントにする・・・

お母さんへのプレゼントにする・・・

その内容を理解した時、
子供の顔は文字通り光り輝きます。

「・・・うん!花を切る!
危ないはさみで!そしてその花を
ママにプレゼントする!」

私がはさみを用意する間に
子供は庭を駆けまわって
花を選びます(不運な子はここで
愛するママに『あんまり
走り回るんじゃありません!』と
言われてしまい私は陰で笑うお約束)。

またですね、ここで子供が選ぶ
花というのが可愛いんですよ。

たとえば私が『彼らのママ』に
何か花を切って贈るとしたら
つい見栄えのいい
バラですとかユリですとか
そういうものを選んでしまうじゃないですか。

バラは無難だし、ねえ


外で買ったら高いものだし!
みたいな大人の計算も働いて。

しかし子供達にはそういうことは関係ない。

彼らはただ純粋に、自分が美しいと思った、
母に贈りたいと願った花を選ぶ。

スウィートウィリアムは人気でした


そして私とともに悪戦苦闘して
園芸ばさみを使って花を切り、
花束のような形にそれを整えると、
誰に言われたのでもないのにそれを
小さな背中にこっそりと隠して
踊るような足取りで母親に近づいていく。

「ママ、あのね、僕が今、
何を持っていると思う?」

世の中に『母の喜び』というものは
数多く存在するわけですが、その中でも
『幼子に花を贈られる』というのは
一部母親の胸の
ど真ん中を射る行為であるらしく、
その瞬間の母たる女性の歓喜の表情と
それを前にした子供の笑顔は
これはどこかの宗教画家が
一度ちゃんと作品にすべき情景です。

ちなみに、喜びのあまり
目に涙を浮かべた母親に
散々抱きしめられキスをされ
お礼を言われてぽーっとなった子に
「どうだね、今度は君の
お父さんに花をプレゼントするかね」
と尋ねると、何故かたいていの子が
「うーん、パパはいいや」
と言います、何故だ!

なお私は一度これでちょっと失敗してしまって
その時我が家に遊びに来ていたのは
5歳と2歳の男の子兄弟だったのですが、
5歳のお兄ちゃんのほうが花束を作る間
2歳の弟はそれをずっと不思議そうに見ていて、
しかし流石の私も2歳になったばかりの子に
はさみを使わせる勇気はなく、
結果その2歳男児は自分のお兄ちゃんが
母に花を捧げて抱きしめられるのを
ただ至近距離から
眺めるだけのことになってしまいました。

彼は別に泣きはしなかったのですが
しばらくしてからさかんに空に向かって
手を伸ばす行動を繰り返すようになり、
いったい何がしたいのか、とその子の父が
彼を抱えてみると、その2歳児は
真剣な形相で近くの木の葉っぱに手を伸ばし、
虫食いの穴の開いた大きな葉っぱを
1枚、木の枝から引きちぎりました
(もちろん彼のママは『葉っぱをそんな風に
むしっては駄目よ!』と言いました)。

2歳児はしばらくじっとその葉っぱを見詰めると
『地面におろしてほしい』という様子をし、
それを受けて父親が彼を大地に立たせると、
彼は数分前に自分の5歳のお兄ちゃんが
そうしたのと同じ仕草でその葉っぱを背中に隠し、
とことこと母親のそばに近づくと、
もうこれ以上嬉しそうで得意そうな表情というのは
人間どんな名優であっても出来ないね!という
素晴らしい顔をして、さっとその葉っぱを
背中から取り出し、母親の鼻先につきつけました。

・・・ええ、もちろんママは泣いちゃいましたよ。

子供のというのは
恐るべき涙腺刺激力の持ち主です。


我が家の今年最後の花は
カーネーションだったのですが
それは先日わが甥っ子が
『ママへのプレゼント』にしまして
おかげさまで現在我が家には花がない

なおわが甥っ子はカーネーションに
匂いがないことが不服だったらしく
花を切った後しばらく庭のあちこちで
ふんふん鼻を鳴らしていて
「これも切っていい?
お花と一緒にママにあげるの」
と指差した先にあったのは
ローズマリーでした

カーネーションとローズマリーの花束、
というのは割となかなかに
センスがいいと思うのですが、どうでしょう

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まあ庭に子供がいるというのは
風景としてもいいものです:

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