美しきパリの朝。
久々のおめかしに
すっかりいい気になっていた私は
夫(英国人)とともに足取りも軽く
ルーヴルに向かっておりましたところ、
慈善団体を名乗る3人の青年に
あれよあれよという間に取り囲まれ
何やら署名を求められ
・・・いえ、お待ちなさい、
よく見ると3人のうち
夫の正面に立っている男の右手が
そっと夫の胸ポケットに
向かっているではありませんか!
こやつらは集団スリだ!
(ここまでの話の詳細は
昨日の記事をご覧ください)
その瞬間、私の中の
何かのスイッチが入った!
厳密に申しますと3人の男に
周囲を囲まれていたのは
私と夫の2人ではなく夫ひとりで、
私は彼らから少し離れて
そうした事態を見ていたのですが、
これはわが背の君の一大事!と
脳が認識した瞬間、気がつくと
3人組と夫の間に踏み込んでおり
(後からどれだけ考えても
何故あの時2メートル近い距離を
一跳びで縮められたのかは謎のまま)、
同時に左手で夫の胸の前を
下から上に払いあげ、スリの持っていた
クリップボード(これを夫の
上半身に押し付けることにより
スリ野郎は夫の目と胸ポケットの間に
『死角』を作っていた)と
問題のスリの右手を跳ね飛ばし、
あら、私ったら病み上がりなのに
こんな大声が出せたのね、と
自分で感心するほどの大音声で
「ノン・メルシ!」
いやー、我ながらあの声は怖かったです。
私は周囲の子持ちの友人たちに
「Norizoは子供を叱るのが下手、
もっと怖い声を出さないと駄目」
とよく言われており、ああ、自分には
そういう『怖い声を出す才能』がないんだな、と
ずっと思っていたんですけど、
どうやらあれは私が基本的に
子供に甘い人間だっただけの話みたいです。
ともあれ私の一喝には
それなりの効果があったようで
スリ三人組は凍りついたように
口を半開きにして動きを止め、
そしてまたわが夫も
ぽかんと口を開けて私を凝視し。
まずは夫への説明が先だ、と
「夫よ、気をつけろ、この男たちは
君の胸の財布を狙っている!」
私の言葉に反射的に夫は
自分の手を胸ポケットの上にあて、
よし、これでまずは一安心、と
再びスリどもに目を向けたところ、
彼らはまだ先ほどと同じ格好で
呆然とその場に立ち竦んでいたのですが、
その実行犯、夫の胸にまさにその手を
忍ばせようとしていたその青年が
右手人差し指を犯行時の瞬間のまま
鍵の字にしているのを見たその時、
私は何と申しますか頭に血が上りまして
(いえ、ほら、私に悪事を看破されたのに
まだ貴様はそんな手つきをしているのか、と)、
その頭に上った血が命ずるままに
頭上に振り上げた手を今度は
勢いよく振り下ろしながら(風切り音がしました)
「彼に触るな(Do not touch him)!」
悪漢三人組は
私の怒声第二弾で我に返ったか、
弾かれたようにその場で飛び上がると
一目散に広場の向こうの
道路目指して駆け出し始め、
しかしかなりの速度で走りながらも
時折こちらに顔を向けては
『まあまあ落ち着いて』みたいな
仕草をしやがり、お前らなあ、何だその態度は!
このやるかたない憤懣を怒声にしたい!
しかし私にはフランス語の語彙がない!
それでも何か怒鳴りつけずにはいられない!
私はそれこそ広場中に響き渡る大声で
「シルヴプレ―!」
言葉の内容に意味はない、しかし
そこに含まれる意思は見事に疎通したのか、
三人組は今度こそ一目散に
道路の向こうに駆け去りました。
彼らの姿が建物の向こうに
消えたのを見届けてから
あらためて夫のことを振り返りましたところ、
夫はまだ片手を胸に当てたまま
そして口も開けたまま
私のことを見詰めておりまして。
「夫よ、大丈夫か」
「・・・」
「今のはスリだ。未遂だったが。
念のため確認してくれ、
君の財布はちゃんと胸にあるか」
「・・・あります、携帯電話もあります」
「そうか、よかった」
「・・・」
「・・・じゃあ美術館に行こうか」
「ええ、そうしましょう」
黙って並んで道を歩くことしばし、
やっと事の推移を把握したらしい夫が
最初に口にした言葉は
「さっきの君、ヒナに
危害が加えられそうになった時の
母親メンドリみたいでしたねえ!」
・・・君という男は・・・!
皆様も旅行先でのスリにはお気をつけて。
このスリ未遂事件がその後
わが夫に及ぼした影響についてはまた明日。
夫を庇うわけではございませんが、
さっきまで自分の隣をしゃらしゃらと
「今日のルーヴルはたいへんな人ですこと」
みたいな感じに歩いていたご婦人が
突然殺気丸出しの咆哮をあげたら
あれ?彼女ったらいつの間に
勝海舟先生護衛時の
岡田以蔵氏と入れ替わっちゃったの?
みたいな不条理感に
苛まれちゃうのは致し方ないか、と
夫と三人組の間に
立ちはだかった時の私は
ロングドレスが風にたなびき
重心は見事に低めで
それはそれは強そうだったそうです・・・
よ、弱そうに見えるよりは
強そうに見えたほうがいいわよね、
ね、そうよね?
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久々のおめかしに
すっかりいい気になっていた私は
夫(英国人)とともに足取りも軽く
ルーヴルに向かっておりましたところ、
慈善団体を名乗る3人の青年に
あれよあれよという間に取り囲まれ
何やら署名を求められ
・・・いえ、お待ちなさい、
よく見ると3人のうち
夫の正面に立っている男の右手が
そっと夫の胸ポケットに
向かっているではありませんか!
こやつらは集団スリだ!
(ここまでの話の詳細は
昨日の記事をご覧ください)
その瞬間、私の中の
何かのスイッチが入った!
厳密に申しますと3人の男に
周囲を囲まれていたのは
私と夫の2人ではなく夫ひとりで、
私は彼らから少し離れて
そうした事態を見ていたのですが、
これはわが背の君の一大事!と
脳が認識した瞬間、気がつくと
3人組と夫の間に踏み込んでおり
(後からどれだけ考えても
何故あの時2メートル近い距離を
一跳びで縮められたのかは謎のまま)、
同時に左手で夫の胸の前を
下から上に払いあげ、スリの持っていた
クリップボード(これを夫の
上半身に押し付けることにより
スリ野郎は夫の目と胸ポケットの間に
『死角』を作っていた)と
問題のスリの右手を跳ね飛ばし、
あら、私ったら病み上がりなのに
こんな大声が出せたのね、と
自分で感心するほどの大音声で
「ノン・メルシ!」
いやー、我ながらあの声は怖かったです。
私は周囲の子持ちの友人たちに
「Norizoは子供を叱るのが下手、
もっと怖い声を出さないと駄目」
とよく言われており、ああ、自分には
そういう『怖い声を出す才能』がないんだな、と
ずっと思っていたんですけど、
どうやらあれは私が基本的に
子供に甘い人間だっただけの話みたいです。
ともあれ私の一喝には
それなりの効果があったようで
スリ三人組は凍りついたように
口を半開きにして動きを止め、
そしてまたわが夫も
ぽかんと口を開けて私を凝視し。
まずは夫への説明が先だ、と
「夫よ、気をつけろ、この男たちは
君の胸の財布を狙っている!」
私の言葉に反射的に夫は
自分の手を胸ポケットの上にあて、
よし、これでまずは一安心、と
再びスリどもに目を向けたところ、
彼らはまだ先ほどと同じ格好で
呆然とその場に立ち竦んでいたのですが、
その実行犯、夫の胸にまさにその手を
忍ばせようとしていたその青年が
右手人差し指を犯行時の瞬間のまま
鍵の字にしているのを見たその時、
私は何と申しますか頭に血が上りまして
(いえ、ほら、私に悪事を看破されたのに
まだ貴様はそんな手つきをしているのか、と)、
その頭に上った血が命ずるままに
頭上に振り上げた手を今度は
勢いよく振り下ろしながら(風切り音がしました)
「彼に触るな(Do not touch him)!」
悪漢三人組は
私の怒声第二弾で我に返ったか、
弾かれたようにその場で飛び上がると
一目散に広場の向こうの
道路目指して駆け出し始め、
しかしかなりの速度で走りながらも
時折こちらに顔を向けては
『まあまあ落ち着いて』みたいな
仕草をしやがり、お前らなあ、何だその態度は!
このやるかたない憤懣を怒声にしたい!
しかし私にはフランス語の語彙がない!
それでも何か怒鳴りつけずにはいられない!
私はそれこそ広場中に響き渡る大声で
「シルヴプレ―!」
言葉の内容に意味はない、しかし
そこに含まれる意思は見事に疎通したのか、
三人組は今度こそ一目散に
道路の向こうに駆け去りました。
彼らの姿が建物の向こうに
消えたのを見届けてから
あらためて夫のことを振り返りましたところ、
夫はまだ片手を胸に当てたまま
そして口も開けたまま
私のことを見詰めておりまして。
「夫よ、大丈夫か」
「・・・」
「今のはスリだ。未遂だったが。
念のため確認してくれ、
君の財布はちゃんと胸にあるか」
「・・・あります、携帯電話もあります」
「そうか、よかった」
「・・・」
「・・・じゃあ美術館に行こうか」
「ええ、そうしましょう」
黙って並んで道を歩くことしばし、
やっと事の推移を把握したらしい夫が
最初に口にした言葉は
「さっきの君、ヒナに
危害が加えられそうになった時の
母親メンドリみたいでしたねえ!」
・・・君という男は・・・!
皆様も旅行先でのスリにはお気をつけて。
このスリ未遂事件がその後
わが夫に及ぼした影響についてはまた明日。
夫を庇うわけではございませんが、
さっきまで自分の隣をしゃらしゃらと
「今日のルーヴルはたいへんな人ですこと」
みたいな感じに歩いていたご婦人が
突然殺気丸出しの咆哮をあげたら
あれ?彼女ったらいつの間に
勝海舟先生護衛時の
岡田以蔵氏と入れ替わっちゃったの?
みたいな不条理感に
苛まれちゃうのは致し方ないか、と
夫と三人組の間に
立ちはだかった時の私は
ロングドレスが風にたなびき
重心は見事に低めで
それはそれは強そうだったそうです・・・
よ、弱そうに見えるよりは
強そうに見えたほうがいいわよね、
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