西仏ナントではサーカスを観ました。

・・・ええ、ひとりで・・・

夫(英国人)は本当に
色々忙しかったんです・・・

おかげさまでナントにおいては
『ひとり飲食』『ひとり観光』などの
ひきこもりの面目躍如たる技術を
日夜磨かせていただきましたが
『ひとりサーカス』は
流石に敷居が高かったです・・・

宣伝ポスター


さて、演題は『MATAMORE』、
演じまするは
『Cirque Trottola』と
『Petit Théâtre Baraque』
(たぶん。私の理解が正しいならば。
つまり2つの団体による
『共同開催』的な?たぶん)。

非常に人気のあるサーカスなようで
チケットは公演日前日の時点で完売

「当日券はありません
というチケット売り場(地元の劇場が
入場券販売を代行していた)の
お姉さんの言葉に肩を落としつつも
駄目元で当日
サーカスのテントまで足を運び
「キャンセルが出ていたら
そのチケットを売ってシルヴプレ」
と交渉を持ちかけたところ
(もうこの頃になると
『私の仏語が通じないなら
それは相手が悪いから』みたいな
嫌な自信が出てしまって
顔色一つ変えることなくそこここで
『ウイ、トレビアン、メルシ』
とか言っちゃっていた私はやはり
頭のどこかのねじが緩いと思う)
「キャンセル席ねえ、お客さん、何人?
・・・え、1人・・・?(突然声音が優しくなり)
よーし大丈夫
ほーら発券しちゃうぞー!
じゃあショーをお楽しみくださーい!」

しかしよく見ていると私の後に来た人も
無事当日券を入手できていたようだし
あれはどういうシステムなのかしら?

あとテント内に入って周囲を見回した感じだと
無理をすればさらに20人位はお客を
入れられるような気もしました。

ちなみにテントの色は当然緋色

席は全席自由席。

客席


テントの中央が丸く囲われていて
その周囲にベンチ席が
すり鉢状に並んでいる状態です。

舞台


開演時間は8時とのことだったのですが
その時点ではまだ観客がテント内に
のそのそ入って来ていたりして、
実際の開演は8時5分くらいであったかと。

照明が落ち、客席が静まったところで
2つの人影がゆっくりと
中央の円形中に姿を見せる。

演技者の姿が目を凝らしてやっと
見えるか見えないかの光量の中で
2人は『銃』を使ったパントマイムを展開、
どちらが銃の引き金を引く?
引き金を引いたら危ないんじゃない?
あとすごい音もするんじゃない?
でも勇気を振り絞って引き金を引くぞ!
・・・あ、不発だった!
というような身振りを彼らが続けるうちに
ぐんぐんと高まるテント内の緊張感。

そしてその観客の静かな集中力が
限界まで高まったところで『銃』が暴発、
それと同時に年老いたピエロが乱入
そこから始まる怒涛のエンターテイメント!

素晴らしかった!

登場するパフォーマーは総勢で5名なのですが
それぞれがいくつかの『役割』を担当し
衣装も変われば化粧も変える。

ところどころ往年のドリフのような
わかりやすいジョークをタイミングよく繰り出し、
ピエロ2人が客席に登場して
口喧嘩をするところとか
フランス語がわかれば
もっと面白かったのでしょうが
わからなくてもわからないなりに
異国人にも笑いのツボをちゃんと
理解させられるその玄人の力量よ!

黒背広に口髭の紳士
(演じているのは女性)が
ムチを使ってバラの造花を
ばっしばっし打ち落としたあと、
『さあ、次の獲物よ、出てこい!』の
ポーズを決めると同時に
テント内に響き渡る猛獣の咆哮。

次の瞬間、紳士の背後の出入り口から
申し訳なさそうな表情をして
新聞紙で作った『猛獣』の衣装
(目指すところは『猛獣』なものの
出来上がりは『失敗したネズミ』
みたいになってしまっている)を
まとった男が肩を落としてとぼとぼと登場。

こういう緩い笑いで場を和めた後
この口髭紳士は失敗ねずみ男を相手に
ムチの妙技をさらに見せつけるのです。

そして何よりも私が息をのんだのは
アクロバットを持ち技とする
男女2人組のその技術。

素人目にも
『一歩間違えれば重症間違いなし』な
跳躍、回転、投げ技、ぶん回し、
もう最後の方はテントの天井から吊り下げられた
変なアスレチック器具みたいな足場の上で
『ねえそれ、命綱付けていても何かあったら
絶対首とか背骨とか折れますよね?』な
妙技というか狂気をこれでもかと披露。

拷問台に非ず


2人の、特に力技を担当する大男の疲労は
その汗と息遣いと顔色から観客すべてに明らか。

もういい!

休めっ・・・休めっ!

チケット分はじゅうぶん楽しませてもらったから!

事故は疲れた時に起きるものです!

大男のメイキャップは顔から剥げ落ち、
体中から湯気があがり、息は太く重く、
それでも彼はパートナーの赤服のピエロを
繰り返し繰り返し宙に放り投げる。

大男も大男ですが、
赤服ピエロのお嬢さんの度胸も大したもの。

最後、この大男と赤服のお嬢さんは
テントの天井部分に取り残されてしまい、
それを背が高く細身のピエロが
はしごなどを使って下ろそうとします。

赤服ピエロは身の軽さを利用して
ふわりと地面に飛び降りるのですが
大男は紐で吊るされたハンドルにぶらさがって
ずるずると降下してくる、が、
途中で何かがつっかえて
ハンドルが降りなくなってしまう。

細身ピエロはあわてて大男の下に立ち、
自分の肩に大男の足を乗せます。

ハンドルから手を放す大男、
その体重が肩にかかってうめく細身ピエロ。

ピエロは大男に早く地面に
飛び降りるよう求めますが
大男はどこ吹く風で
ピエロの肩に乗ったままシャツを脱ぎます。

もうこのシャツが脱水前の洗濯物のように
びしゃびしゃに汗に濡れていてただ事ではない

舞台に出ていた年寄りピエロの顔に
そのシャツを叩きつけるとほっと息をつく大男、
全身の筋肉が弛緩し、何かしら、
こういう妖怪、昔の日本にはいたような・・・
つきたてお餅がとけちゃった、みたいに
腕もお腹も真っ白でダルダルで湯気まみれ。

細身ピエロは細かい足取りで体の向きを変え
(大男の重さに耐えかねて『よろめく』という
演技プランにのっとった動き)おかげさまで
どの席からも大男のぐちゃぐちゃ・
ぶよぶよの体がよく見えまして、
客席のあちこちから静かな苦笑が漏れたところで
頃合を見計らっていた
大男は
鋭く息を吐くとぐっと体に力を入れ
腹をひっこめ腕を折り曲げ・・・
その瞬間に我々の眼前に姿を見せたのは
現代によみがえったヘラクレス。

観客、思わず大拍手

いや、何かもうすごかった

フランスにお住いの皆様、
迷わず切符を購入なさることをすすめます。

スコットランドにも来てくれないかしら?

私、通うです!
(日本語も崩壊するほどの意気)

イラスト版ポスター


このポスター、買いたい気もしたの
でも折り曲げずに持って帰るのが
大変そうだったのであきらめたの


さて、アクロバットの2人組は場面によっては
能天気にあるいは無邪気に
それぞれ笑いを取っていたのですが
曲芸で大技を見せる前には
必ずお互いを一瞬
真剣な眼差しで見つめ合うんです

あんな目つきを人間なかなか
するものではないし、されるものでもない

文字通りお互いに命を預けた間柄の人間だけが
あんな目で相手を見ることができるのだと思います

なんかもう本当にすごかった

あの目を見るだけでも
テントに足を運ぶ価値ありでした

なお、終幕後テントの外に小屋が出て
そこで飲み物などが販売され
大人の男女はグラスを片手に
談笑するのが通の振舞いだったようですが
いくら『おひとりさま』に慣れた身でも
ちょっとそれは敷居が高すぎ
私は素面のまま家路につきました

さすがに異国の夜道を
生酔いで一人歩きする勇気はない私

変なところかたくてすみません
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