大学を卒業してからの初の大学祭。
後輩に誘われてあるサークルのブースを訪問した。
そこに恐ろしいくらい容姿の整った美しい男の子がいた。
背はさほどではないが細身で、自然な茶髪に、彼にぴったりの出で立ち。
あまりにもドストライクで、雷に打たれたように立ちつくしてしまった。
自分が女性にどれだけ影響力があるかを十分知っているようで
私が彼に心奪われたことを瞬時に見抜いたことが表情から伺えた。
後輩たちと話していても彼が気になって話に集中できない。
でも本能で彼にハマったら取り返しのつかないことになることはわかっていたので
こちらから話しかけず適度な距離を保ちながらも、全身で彼の存在に意識が集中していた。
そう、女なら誰でも「自分の人生を狂わせる悪魔的な魅力を持った男性」に会ったことがあると思う。
わかっているけどどうにも自分を止められない強力な何かに引き寄せられ、それこそ堕ちていくしかないような。
信じられないくらい甘美な世界に引きずり込まれる時の絶望的な高揚感。
これはお金では買えない経験。
彼に堕ちる勇気がなくて、結局彼と一言も話すことなく、時間も遅くなったので帰ることにした。
後輩たちに別れを告げて、講堂のトイレに向かった。
そうしたら彼が建物の前で何とも言えない笑みを浮かべて立っていた。
そして何も言わずに建物の横の薄暗い場所に歩いていった。
本能で行ってはいけないとわかっているのに、体がいうことを聞かず無言で彼についていった。
誰もいない場所まで行った瞬間、抱きしめられ「こうしてほしかったんだろ」とキスされた。
体がとろけそうで、彼のなすがままに身を任せた。
いよいよというときに「持ってるの?」と尋ねると首を振った。
そして「したいんだろ。買ってこいよ」と言い放った。
そこでようやく正気に返った。
今でも思う。
あの時、最後までしなくてよかったと。
本当の意味での悪魔ではないけど、確実に自分の人生を狂わすことが予測できる男はいる。
一度味わったら最後、底なしに堕ちていくしかない悪魔的な魅力を持った男性は必ずいる。
最初は信じられないくらいの快楽に満たされて、経験したことのない幸せを感じるだろうけど、
決してハッピーエンドになることはない。
私にはそのような覚悟はできなかった。
今でも彼の美しい顔とたった一度の甘美な時間を思い出す。
そして後悔と安堵の気持ちが押し寄せる。
あの後、同じような経験をすることはなかった。