台湾問題
http://blog.goo.ne.jp/gokenin168/
より引用した産経記事部分(産経WEBで確認できないので引用)
●日本政府、台湾の国連加盟申請不受理「解釈不適切」申し入れ(産経新聞 2007/09/07)
【台北=長谷川周人】台湾が独自で行った初の「台湾」名義による国連加盟申請に対し、潘基文事務総長が国連は「一つの中国」政策を維持しているとして申請書を不受理としたことを受け、在国連日本代表部は国連事務局に対して先月、「台湾に関する地位認定の解釈が不適切だ」という異例の申し入れを行った。日本の在台代表機関に相当する交流協会が6日、明らかにした。
1972年9月の日中共同声明で日本は、中国が主張する「一つの中国」を「理解し、尊重する」として、「同意を与えていない」というのが基本的な立場だ。これに対して国連が、事務総長見解として「一つの中国」政策を国連全体の解釈とするのは「不適切」という日本政府の認識を明確にした形だ。
申し入れは米国に続いて約半月前に行ったもので、日本代表部は台湾の戦後の帰属問題に関しても、「サンフランシスコ講和条約で台湾を放棄したが、どこに帰属すべきかは言うべき立場でない」という日本政府の基本認識も伝えた。
さて、台湾が「中国」名義で国連加盟申請をしても、それを日本が支持できないのは、日中共同声明から明白なわけだが、台湾が「台湾」名義で加盟申請をすると話はややこしくなる。
姑息な言い回しの観が否めない産経記事「日中共同声明で日本は、中国が主張する「一つの中国」を「理解し、尊重する」として、「同意を与えていない」というのが基本的な立場だ。」だが、これが手段を問わずに中国が台湾を併合することに対しての”同意”であるなら正しい。しかし、記事の文脈は日中共同声明の第三項の前半「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。」を反故にする意図を暗示している。
そもそも「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する」「中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重」するの「尊重」とは、「尊いものとして重んずること」である。単に「同意を与えていない」といった消極的な表現ではない。
(http://d.hatena.ne.jp/sadatajp/20070908/1189243389
のブログでは、「主張の「尊重」とは、その主張を一つの主張として認め、黙殺したり圧殺したりしないこと。」と書いているが、通常そのような消極的な意味合いで「尊重」という言葉は使わない。もっとも主張を黙殺したり圧殺したりするのが普通になっている社会では上記言い回しも成り立つだろうが。)
そして、これが本当に日本政府の公式見解なのかについては疑問がある。
外務省のHPでは、日台関係について以下のように述べている。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/kankei_04.html#5
5.日台関係
(2)中台関係についての日本の立場は、台湾を巡る問題が当事者間の直接の話し合いにより平和的に解決されることを強く希望するというもの。日本政府は中国の反国家分裂法制定に関し、武力行使には一貫して反対しており、平和的解以外のいかなる解決方法にも反対である旨の外務報道官談話を発出した。また台湾側の「国家統一委員会の運用停止、国家統一綱領の適用停止」の表明について、我が国は、当事者間の直接の対話により平和的に解決されることを強く希望すること、いずれかの側によるいかなる一方的な現状変更の試みも指示(ママ)できないこと、台湾側が「現状を変更する意思はない」と表明したことに留意することを内容とする外務報道官談話を発表。
要は、中国・台湾間の直接対話による平和的解決が第一であって、「いずれかの側によるいかなる一方的な現状変更の試みも支持できない」ということ。
「台湾」名義での国連加盟申請は、まさに「一方的な現状変更の試み」であって、外務省見解から考えれば本来支持できない内容である。
在国連日本代表部による「台湾に関する地位認定の解釈が不適切だ」という申し入れは、明確に「台湾」名義での国連加盟申請を支持しているわけではなかろうが(申し入れ内容を確認していないので保留)、間違いなく側面援護である。
建前と本音が異なる外交を行うのは、別段日本だけではないのだが、一般に軟弱だとか言われる自国の外交が、実際にはどのように裏表を使い分け、経済力を背景とした強引なものであるかを知っておくのは国民にとっては重要だと思う。
もう一点。
「日本代表部は台湾の戦後の帰属問題に関しても、「サンフランシスコ講和条約で台湾を放棄したが、どこに帰属すべきかは言うべき立場でない」という日本政府の基本認識も伝えた。」
日本が言及する立場にないことは当然だが、カイロ宣言、ポツダム宣言、日華平和条約、日中共同声明から考えれば、台湾が中国に帰属するのは明白だと思う。
ロジックとしては、
1.カイロ宣言により、台湾が中華民国に返還されることが決定。
2.ポツダム宣言第八項はカイロ宣言を踏襲。
3.日本はポツダム宣言を受諾し、日華平和条約で台湾は中華民国に帰属。
4.日中共同声明第二項は、中華人民共和国を正統な中国と認めており、旧中華民国の主権領域(台湾含む)はまるごと中華人民共和国に移行(両政府とも台湾を含んだ領域をもって中国と名乗っている以上、台湾は中国ではないという見解は取りえない)。
5.日中共同声明第三項は、中華人民共和国相手であっても日本政府がポツダム宣言第八項を堅持することを宣言している。
このように、台湾は理論上、中国に帰属するわけである。ただし「4」に関して明確に台湾を含むとは言及していないので、「帰属すべきか言うべき立場でない」という基本認識になるわけだ。本来台湾の独立を支持するような認識ではないのに、産経記事ではそれを匂わすような論旨になっているのは、自民党広報誌として、さすがというべきか、またかというべきか。
日中共同声明(1972/9/29)(抜粋)
二 日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する。
三 中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。
六 日本国政府及び中華人民共和国政府は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に両国間の恒久的な平和友好関係を確立することに合意する。
両政府は、右の諸原則及び国際連合憲章の原則に基づき、日本国及び中国が、相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し、武力又は武力による威嚇に訴えないことを確認する。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/nc_seimei.html
日華平和条約(1952/4/28)(抜粋)
第二条
日本国は,千九百五十一年九月八日にアメリカ合衆国のサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約(以下「サン・フランシスコ条約」という。)第二条に基き,台湾及び澎湖諸島並びに新南群島及び西沙群島に対するすべての権利,権限及び請求権を放棄したことが承認される。
第三条
日本国及びその国民の財産で台湾及び澎湖諸島にあるもの並びに日本国及びその国民の請求権(債権を含む。)で台湾及び澎湖諸島における中華民国の当局及びその住民に対するものの処理並びに日本国におけるこれらの当局及び住民の財産並びに日本国及びその国民に対するこれらの当局及び住民の請求権(債権を含む。)の処理は,日本国政府と中華民国政府との間の特別取極の主題とする。国民及び住民という語は,この条約で用いるときはいつでも,法人を含む。
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/docs/19520428.T1J.html
ポツダム宣言第八項(抜粋)
八 「カイロ」宣言ノ条項ハ履行セラルベク又日本国ノ主権ハ本州、北海道、九州及四国竝ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルベシ
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/docs/19450726.D1J.html
カイロ宣言(抜粋)
右同盟国ノ目的ハ日本国ヨリ千九百十四年ノ第一次世界戦争ノ開始以後ニ於テ日本国カ奪取シ又ハ占領シタル太平洋ニ於ケル一切ノ島嶼ヲ剥奪スルコト並ニ満洲、台湾及澎湖島ノ如キ日本国カ清国人ヨリ盗取シタル一切ノ地域ヲ中華民国ニ返還スルコトニ在リ
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/01/002_46/002_46tx.html
さて、以上を踏まえて、今回の「台湾」名義による国連加盟申請を見てみると、要は中華人民共和国内部の中央政府の支配の及ばない地域である台湾における独立運動、という見かたが適切ではなかろうか。
中央政府が武力による台湾制圧を目指した場合は、日本や国連が中国を非難することは問題ないが、さりとて、日本が台湾独立を支援するのは、日中共同声明第六項の内政に対する相互不干渉に抵触する行為だろう。
産経新聞のように内政干渉をあおる右翼論調は、法的に縛られた政府の代弁をしているように時折感じて不安・・・。
独立をあおってはいても、台湾に住む人のことを思ってとは到底思えないし。
例えば、http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/ にある「もし我が「不沈空母・台湾」が「中国の空母」と化せば日本は・・・。」なんて、単に軍事基地としてしか台湾を見ていない論調。なんとも・・・
ところでこのブログには「日本で台湾の親日と言えば、日本統治時代を知る老世代の肯定的な日本評価を思い浮かべる人が多いだろう。」とあるのだが、現在(2007年)でいう老世代とは70~100歳と考えると1907年~1937年生まれということになる。台湾での最後の抗日武装蜂起である西来庵事件(死刑866人)は1915年、今の老世代は既に武装蜂起の時代をほとんど知らない(今100歳の老人が8歳以前)わけで、「老世代の肯定的な日本評価」にそれほど意味があるとも思えない。