リーバー法に対する誤解
南京事件の正当化をしたい人たちが、よく使う根拠として、リーバー法(Lieber Code)があります。
典型的な主張
http://www.janjan.jp/living/0503/0503204805/1.php?action=all&msg_id=7510&msg_article=24807
[16736] 日時:2006/03/20 00:09
「便衣兵の裁判なしの処刑は、アメリカのリーバー法で推奨されており、ボーア戦争でイギリスがおこなっており、第一次世界大戦や普仏戦争でドイツがおこなっています」
この際によく引用されるのは、藤田氏の「国際人道法」です。
リーバー法 『アメリカ陸戦訓令』 『国際人道法』 有信堂 藤田久一著作、P13
「パルチザンは武装し彼らの軍隊の制服を着用する兵士であるが、敵占領地域に侵入するため主要部隊から離れて行動する部隊に属する。彼らはもし捕えられれば捕虜のすべての特権の資格を有する」(81条)としつつ、委任も受けず組織された敵軍に属さずまた戦争に継続的に参加するのでもなくしかもさまざまの方法で敵対行為を行うものまたはその分隊は「公の敵ではなく、それゆえ捕えられれば、捕虜の特殊な資格を有せず、公道での盗賊または海賊として即決処分されねばならない」(82条)とした。
この本自体を見たわけではないのですが、P13というかなり最初の記載であること、とそれまで捕虜は復讐の対象として殺されることが多かったことを考慮すると、藤田氏が上記文脈で述べたかったのは、「それまでは殺されて当然と考えられてきた捕虜を人道的に扱う法的根拠がリーバー法によって誕生した」ということかと推定できます。
そもそもリーバー法とはどんなものか、というと南北戦争中の1863年にアメリカ北軍が定めた規則です。
彼らが根拠とする82条は、第4節の中の一つで原文は以下の通りです。
82. Men, or squads of men, who commit hostilities, whether by fighting, or inroads for destruction or plunder, or by raids of any kind, without commission, without being part and portion of the organized hostile army, and without sharing continuously in the war, but who do so with intermitting returns to their homes and avocations, or with the occasional assumption of the semblance of peaceful pursuits, divesting themselves of the character or appearance of soldiers--such men, or squads of men, are not public enemies, and therefore, if captured, are not entitled to the privileges of prisoners of war, but shall be treated summarily as highway robbers or pirates.
訳してみましょう。
82条 敵軍による辞令もなく、敵軍の一翼を構成するでもなく、継続的に戦争に参加するでもなく、戦闘行為、もしくは破壊・略奪のための侵害行為、もしくはあらゆる種類の襲撃によって、敵対行為を行い、断続的に家や本職に戻って兵士の服を脱いで、平和的な職業であるように見せかける、そのような個人、集団は、公式の敵ではない。そのため、捕えた場合は、捕虜の権利を与えず、おおむね強盗や海賊として扱うこととする。
こんな感じですかね。
重要なのは、あくまでも「be treated summarily as highway robbers or pirates.」としか書いてないことです。
「便衣兵の裁判なしの処刑は、アメリカのリーバー法で推奨されており、」なんてのは妄想です。
ただ、藤田氏の
「公の敵ではなく、それゆえ捕えられれば、捕虜の特殊な資格を有せず、公道での盗賊または海賊として即決処分されねばならない」
については、間違いと言うわけでもなく、1863年当時のアメリカは西部開拓時代でもあり、西部では強盗を捕えた場合、簡易裁判のみで死刑にすることが多かったし、盗賊は縛り首というのが西部の方では暗黙の了解としてありました。
なので、当時のアメリカにおいては、「強盗や海賊として扱う」=「即決処分(死刑)」が成立し得たわけです。
当然ながら、強盗や海賊であっても正式な裁判を経なければ刑罰を与えることはできない、という風に刑法が変わってくると、上記は成り立たなくなります。
要は、リーバー法82条が規定しているのは、
「捕虜として扱わず、民間人の犯罪者として扱え」
ということに過ぎません。
リーバー法を根拠にした南京事件正当化が成立するためには、1930年代の日本人が「犯罪者は裁判なしで殺して構わない」という極めて19世紀的・江戸時代的な野蛮な感覚をもっていたことが前提になります。
まあ、ネトウヨのリンチを正当化する言説や死刑をあおる言説を見ていると、未だに19世紀的・江戸時代的な野蛮な感覚があるようですが・・・。
(そう言えば、市中引き回しの上磔獄門とか言った議員がいたような・・・)
参照:http://www.civilwarhome.com/liebercode.htm