【ワシントン=山本秀也】1937年(昭和12年)の南京事件を描き、多くの資料誤用が指摘された「レイプ・オブ・南京」の著者アイリス・チャン氏(故人)の胸像が、米カリフォルニア州の名門スタンフォード大学に寄贈された。贈ったのは人権、歴史問題で対外宣伝工作にあたる中国の組織「中国人権発展基金会」。「30万人の大虐殺」を掲げた南京の事件記念館に置かれているチャン氏像とまったく同じもので、寄贈の意図をうかがわせている。
大学関係者らによると、胸像(台座を含む高さ2メートル)の寄贈式は今月1日、学内のフーバー研究所で双方の代表やチャン氏の遺族、駐サンフランシスコ中国総領事館員が出席して行われた。寄贈後、像は研究所の閲覧室に展示された。
フーバー研究所は口述記録など政治・歴史資料の収集で知られる。チャン氏の遺稿類も寄せられており、式典でリチャード・ソーサ副所長は「像と遺稿を長くとどめることは研究所の栄誉だ」とあいさつした。
ただ、寄贈の経緯についてソーサ氏は「自分が関与した段階では、すでに受託に合意していた」と説明を避けた。
胸像は中国人作家、王洪志氏の作品。王氏は2005年に「南京大虐殺記念館」に建てられたチャン氏の立像も制作しており、太平洋を隔てた2つのチャン氏像はおそろいのものだ。
チャン氏像の制作を依頼し、南京の記念館とスタンフォード大に寄贈したのはいずれも中国人権発展基金会。1994年に設立登記された中国の「民間団体」とされる。中国の人権問題で国外の批判に反論し、中国政府の取り組みを宣伝している。姉妹組織の中国人権研究会とともに中国共産党の対外宣伝部門と連携した活動や人事異動も確認されており、同部門の外郭組織とみられている。このほか基金会は、南京事件に関する中国側の宣伝活動に加わった元日本兵、東史郎氏への支援など対日歴史問題にも関与していた。
対外宣伝関係の古参幹部で基金会の常務副会長を務める楊正泉氏は05年9月付の文書で、チャン氏像を南京の記念館とスタンフォード大に寄贈する決定(04年12月)を明らかにしていた。
この文書の中で楊氏は「レイプ・オブ・南京」が米国でベストセラーになった宣伝効果を絶賛した。過去の対日歴史批判が「欧米など第三国への宣伝を重視しなかった」ことで「日本政府に国際的な圧力を感じさせられなかった」と反省している。こうした文言から、チャン氏像の寄贈が、米国を巻き込んだ対日批判活動の象徴であることが浮かび上がっている。
(2007/02/20 01:44)