「愛といのちの讃歌

  ~第10回樋口由佳里ソプラノリサイタル~」

 新潟県十日町市の

 「越後妻有文化ホール段十ろう大ホール」にて

 2024年8月21日(水)開場18時、開演18:30

 

 今回で5回目の共演となる

 チェロの懸田貴嗣さんと

 チェンバロの上尾直毅さん、

 3回目の共演となる

 ヴァイオリンの荒木優子さんをお招きし、

 第10回リサイタル記念の演奏をいたします。

 

 バッハ、ヘンデル、スカルラッティ生誕333年

 にあたる2018年のお3人との共演から6年となります。

 

 「あらかじめ演奏曲の内容について

  勉強できれば嬉しいです」と、

 友人からリクエストを頂戴したので

 解説をさせていただきます^^

 

 G.F.ヘンデル作曲「9つのドイツアリア」より

  「かぐわしく咲く優しい花の輝きは」

   Süßer Blumen Ambraflocken HWV204

 ヴァイオリンソロが美しいこの曲は 

 自然の美しさを愛でつつ、

 「この世界を創り上げた方」への

 感謝が綴られていて

 歌ってみたら、深い温かさと

 ヘンデルの偉大さを感じました。

 

 冒頭のヴァイオリンソロは

 高音から下降する音で始まります。

 天上の創造主の元から舞い降りた

 美しく香る花のようです。

 豊かな香りに癒され、

 輝くような美しい花を見た時に

 最も深い感銘を受ける感受性が

 研ぎ澄まされるのは

 もしかすると

 人生の試練の時かもしれません。

  

 「この花が散る頃には

  天に昇ってその栄光を讃えたい」

 の詞の部分ではヴァイオリンが

 低音から上昇する音を奏でます。

  「いのち」には限りがあり儚く

  「美しさ」も移ろいゆく寂しさが

  感じられます。

 

 通奏低音の安定したリズムは、

  心の静寂を支えてくれます。

 絶妙な通奏低音が、

  歌とヴァイオリンの間で効果を発揮します。

 お互いを引き立て合う調和する音に、

  心地よさが見出されます。

 そこにも「この世界を創り上げた方」への

 感謝が生まれます。

 

 そこで、コンサートのオープニングには

 前述の「この世界を創り上げた方」への

 感謝(讃歌)として

 J.S.バッハ作曲のシェメッリ讃美歌集より

 「優しくも愛らしき

    O Jesulein süß BMW493」

 まずは可愛らしいクリスマスキャロル

 (コラール)を演奏し

 光が差しているような

 温かい響きに包まれたいと思います。

 

 「おお、愛しいイエス様、

  優しいイエス様

  父なる神の御旨により

   天からくだって貧しい人となり

  父なる神の怒りを癒し、

   恩顧・慈悲を得る為に

  私どもの罪の償いの代価と

  なられました」

 

 次に、お客様からのアンコールの多い2曲

 イギリスの古い歌

「スカボローフェア Scarborough Fair」と

   少年コーラス”リベラ”(ボーイソプラノ)

 の名唱で知られる

 「彼方の光 Far Away」を

 ソプラノ・チェロ・チェンバロの

 3人で演奏させていただきます。

 

 子供の頃からとても好きだった

 S&Gの「スカボローフェア」は

 今だに「大人な映画~!」と

 ドッキリする映画「卒業」の

 挿入歌として発表されて

 ヒットした曲で知られています。

 (ミセスロビンソンや、

 サウンドオブサイレンスもそうです)

 

 恋人を失うのではと不安でいる

 主人公の心情を

 名曲「4月になれば彼女は」と共に

 効果的に表現していて

 アート・ガーファンクルの

 透明な声が何とも切ないですね。

 

 イギリスの古い曲を

 ボブ・ディランがギター弾き語り演奏し

 それを聴いたポール・サイモンは

 この曲を気に入って

 反戦歌といわれる歌に編曲しました。

 

 「パセリ、セージ、ローズマリー、タイム」

 という歌詞は

 「あの人によろしく伝えておくれ」と

 魔界から囁かれた人間が

 うっかり返事をすると

 魔界に連れていかれてしまうので

 魔除けの言葉としてハーブの名前を

 唱えるのだとのことです。

 

 マザー・グースのように

 悪霊が無理難題を提示する歌詞と

 このハーブの名前のおまじないを

 アート・ガーファンクルが歌うかたわらで、

 「司令官は命令する、人を殺すことを」

 などとポール・サイモンが歌います。

 

 ルネッサンス~バロックのマドリガルや

 宗教曲を含む重唱曲など

 ポリフォニー音楽(各声部が独立した旋律と

 リズムを持ちながら調和を保つ多声様式)

 が好きな私はこの曲に惹かれました。
 

 古く伝わる原曲をア・カペラ

(教会風・無伴奏で歌う)で歌い

 やがて特別な雰囲気を醸し出す

 チェンバロによる絶妙な演奏、

 声とチェロがポリフォニーで

 調和してゆく音をお楽しみください。

 

 村松崇継作曲「彼方の光Far Away」は

 ボーイソプラノ”リベラ”が歌う

 NHKのドラマ「氷壁」の挿入歌で

 その美しさと詩に感動した時から、

 ずっと大切に歌っています。

 

 「私がどこへ行こうとも 

   いつでもあなたは輝いて・・・」

 「私が泣いている時は 

   いつでもあなたは・・・」

 「Venite Spiritu 

   聖霊よ来てください 

   精霊よ来てください」

 

 聖霊とは悪霊の反対で守護霊等、

 恩恵や祝福をイメージしており

 精霊とは亡くなった方、肉体を離れ

 魂だけとなった大切な方です。

 私はこの歌を、両方の想いを込めて

 歌わせていただいています。

 

 もうこの世で

 会うことができなくなった人を想って

 「精霊よ来てください」と心が叫んでも、

 広い宇宙に砕け残響が消えてゆく、

 空虚で寂しい感じの部分を

 「想いと魂が結ばれる」願いの成就

 を感じるように温かく演奏します。

 

 「この美しい曲を聴いていると、

 宇宙空間にふわふわと浮いて

 大気や愛に包まれているような

 状態になる」と感想を頂戴します。

 

 次にJ.Sバッハのヴァイオリンとチェンバロのための

 ソナタ6番BWV1019から

 第3楽章Allegro(チェンバロソロ)

 第4楽章Adagio、第5楽章Allegro

 素晴しい演奏、とても楽しみです。

  

 そして再びG.F.ヘンデル作曲、

 西暦6世紀のミラノ 歌劇「ロデリンダ」

 ロンバルディア王Bertaridoのアリア

 「愛する人はどこへ? Dove Sei?」

 カウンターテナーの素晴らしい演奏

 を拝聴し感銘を受けました。

 

 いのちを狙われている上、

 自分は死んだことになっている為

 愛する妻・女王Rodelindaを想い

 一人しみじみと歌う名曲です。

 少し高い音域に移調して演奏いたします。

 

 「何処にいますか、愛する人よ、

  来て私の魂を慰めてください。

  私は苦痛に押しつぶされ、

  私の過酷な悲しみは

  あなたが傍にいることだけが

  やわらげてくれる」

 

 シンプルで真っ直ぐな愛を

  感じさせるメロディー。

 素直でひたむきに、

  再会への希望を持ち続ける、

 孤独な王様の切なさ、

 一途さが胸キュンです^^

 

 一部ラストはヘンデルオラトリオ

 「時と真実の勝利」より

 「神に選ばれし天の使者よ 

  Tu del ciel ministro eletto」

 荘厳で天上の音楽をイメージさせる

 とても美しい曲です。

 

 「美や快楽のように

  過ぎ去ってゆくものよりも

  悟り・真実を重んずるべき

  という内容の寓意劇」で

 「美」「快楽」「時」「悟り」が

  対決する中で歌われます。

 

 美しいヴァイオリンソロは

 コレッリが演奏したと伝えられ

 この名曲の素晴らしさを

 さらに特別なものにしています。

 

 このオラトリオには

 「Lasciar chi'o pianga」の元歌もあり

 以前のコンサートで

 演奏したことがありました。

 低音から高音域に跳躍する音ほか

 歌唱力が求められますが

 「憧れの曲」との出会いは

 自分を成長させてくれています。
 

 第二部オープニングに山田耕筰の名曲

 「からたちの花」

 「赤とんぼ」を演奏予定です。

 日本の名曲は異国の名曲を演奏する中で

 やはり特別な曲として

 皆さまの心に届いてくれています。

 

 耕筰が小学生だった頃、

 おとうさんが亡くなって

 住み込みで働いていた時の

 辛い思い出を北原白秋に語り、

 詩にしてくれたものを

 曲にしたそうです。

 

 耕筰の寂しさ、職場での叱咤、

 空腹の辛さという経験の中に

 たったひとつ嬉しかったできごと・・・

 「からたちのそばで泣いたよ。

   みんなみんな優しかったよ」

 お腹が空き職場近くの家の

 からたちの実をトゲで傷つきつつ

 こっそりもいで、味見をしたら

 酸っぱかったけれど食べ、

 家主のおばさんに見つかってしまい

 叱られると思ったのに、

 それどころか優しくしてくれて

 一層、涙が止まらなくなった。

 「みんなみんな」とは、誰のこと?

 青い針のトゲのある中に咲いた

 「白い花」たちでしょうか。

 

 一方「赤とんぼ」は作詞の三木露風が

 5歳の時に母と生き別れ、

 子守りの姐やから背負って貰って

 見た幼少の頃の情景。

 7歳の時には慕っていた姐やとも

 お別れの時がやってきます。

 歳月が経ち、再び見る夕焼けと赤とんぼが

 深く心に迫ります。

 

 そしてバッハやヘンデルの

 1年後に生れたナポリの作曲家

 N.ポルポラの歌劇「セミラ-ミデ」より

 「私の悲しみを表現することが叶うなら 

   Vorrei ,spiegar L'affanno」

 声楽の指導者としても

 評価の高かったポルポラの、

 愛弟子Caffarelliという

 名カストラートが歌った曲です。

 

 カストラート(去勢された歌手)

 が活躍した頃は

 超絶技巧がふんだんに散りばめられた

 名曲が多く作曲され

 劇場でオペラが上演されると

 大いに盛り上がったようです。

 

 次に、懸田さんによる

 チェロの素晴らしい独奏(未定)

 とても楽しみです。

 

 プログラムラスト2曲は、ヘンデルの歌劇

 「エジプトのジュリオ・チェーザレ」より

 クレオパトラのアリアを演奏いたします。

 

 ひとつはクレオパトラが

 不幸のどん底で歌う曲です。

  

  レチタティーヴォ

 「このようにただ一日のうちに

   E pur cosi in un giorno」

  アリア「この胸に息のある限り涙あふれ

   Piangero,la sorte mia」

 

 囚われの身となり、

 愛する人はもう生きてはいないと悟り

 生きる望みを失ったと、涙も出ない状況。

 

 「この胸に息のある限り私は涙を流す」

 ヴァイオリンの美しいオブリガートと

 チェロの深い音が悲しみを引き立てる

 とても美しい曲です。

 

 「でも死んでから後、夜と言わず昼と言わず

  あの暴君に付きまとい

  怨霊を送りつけて脅かしてやりましょう」

 

 途中で激しい感情(呪ってやる)も演奏しますが

 そんなに憎い相手に付きまとうのはイヤですね。

 宇宙がちゃんと仕返しをしてくれるのですから。

 

 暴君に付きまとうのは宇宙の力に任せ

 しっかりバチを与えてもらうことにして(笑)

 誇り高い女性として表現したいと思います。

 

 そしてもうひとつは、クレオパトラが

 この上ない良い知らせに心を躍らせる曲です。

 

  殺されたと思っていた愛する人が生きていた

  愛する人が囚われの自分を助けてくれた

 

  アリア「嵐の海で難破した小舟は港に着くと

   Da tempeste il legno infranto」

  

  嵐の海で難破した小舟は

  無事に港にたどり着くと

  もう望むものは何もない。 

 

 「神様、私をしあわせにしてください」

 と願う。すると神様は「はいよ~」と

 振り子をひょいとつまんで

 「不幸」の方に引っ張った後、

 パッと手を離すのだそうです。

 振り子は反対側の「幸せ」の方に

 向かっていくのですね。

 この時のクレオパトラはまさに

 絵に描いたように幸せです。

 

 とても歌唱力と体力の必要な曲ですが、

 この曲を歌いたいと思ったのは、

 歌っていると元気が出たからなのです。

 お聴きくださるお客様にも元気が届きますように。

 

 

 

 約2か月後、8月21日水曜日18:30開演です。

 大地の芸術祭開催中の街、豊かな自然の新潟県十日町市に

 ご旅行方々、是非ともお越しくださいませ。

 

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