『ルー=ガルー2 インクブス×スクブス-相容れぬ夢魔-』(京極夏彦 著、講談社) | 鎌倉から…

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分冊文庫版 ルー=ガルー2 インクブス×スクブス《相容れぬ夢魔》(上) (講談社文庫)/京極 夏彦
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分冊文庫版 ルー=ガルー《忌避すべき狼》(下) (講談社文庫)/京極 夏彦
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近未来。少女・牧野葉月たちは閉じた世界の中、携帯端末(モニタ)という鎖に縛られて生きていた。そこは窮屈ではあるものの不純物のない安全な檻――のはずだった。が、その世界に突如現れた連続殺人犯。少女たちは、殺人犯とその背後に聳える巨大組織との対決を余儀なくされる。
驚愕の事件から数ヵ月。世間は一時、安定を取り戻したように見えた。
前回の事件の被害者として、この世界に漠然とした不安を抱えていた少女・来生律子のもとに、小瓶に入った謎の毒を持った作倉雛子が訪ねてくる。雛子は毒を律子に託し姿を消す。奇妙な毒の到来は、新たなる事件の前触れなのか……。
「突如凶暴化する児童たち」「未登録住民達の暴動」「奇怪な製薬会社」「繋がる過去と、現在の事件」すべての謎が明かされるとき、新たなる扉を開けた少女たちは何を想う!?


この作品は著者初の近未来SF小説として2001年に刊行された『ルー=ガルー-忌避すべき狼-』の続編です。実に十年ぶりに続編が出たので感慨も一潮でした。


ちなみにこの作品は出版史上初ともいう形態で発売されています。なんと、単行本版、文庫本版、ノベルス版、電子書籍版を同時に発売したのです。通常は単行本が出てから数年たって文庫本が出るのが当たり前なわけで、これは出版界に対する新たな挑戦とも言えるでしょう。もちろん京極さんが売れっ子作家だら出来た芸当なわけですが。


さて、内容はというと、これも素晴らしいものでした。前作から十年もブランクがあるので、違和感とかがあるかと思いましたが、全くの杞憂でした。


今回も冒頭から不可解な事件が発生します。そして解き明かされるのも凄惨な過去の事件です。しかし、全編でそんな忌まわしい事件が起きていることをあまり感じさせません。それは、物語の大部分が等身大の少女たちの鮮やかな会話で綴られているからです。もちろんこの本のジャンルはミステリですが、少女たちの青春成長小説として読むことも出来ます。


そして、前作『忌避すべき狼』で明かされていなかった謎が解き明かされるのも非常に魅力的でした。この本単体でも読むことは可能ですが、前作を読んでいたほうが二倍三倍と楽しめると思います。


たった一つの毒の小瓶から事件が巻き起こり、最後にストンと事件が終結するとことは圧巻の一言でした。さらに長いのにその長さをほとんど感じさせない。京極さんの他の作品はさまざまな思想や哲学の話が絡み合ったりして分かりにくい場合があるのですが、この作品ではそのような話はほとんど出てこないので、非常に読みやすいです。初めて京極作品に触れるという方にもオススメです。


皆さんもぜひ読んでみてください。