アポカリプト
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メル・ギブソン監督が「パッション」に続いて送る。※1.マヤ文明滅亡寸前の時代を全編マヤ語のみで再現した歴史ドラミ、出演する俳優もほとんど無名。



 

あらすじ
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狩猟民の青年"豹の足"(ルディ・ヤングブラッド)は、家族や部族とともに囚われの身となりピラミッドのある都市へと拉致される。日照りに悩まされた都市では、太陽神に生贄を捧げており、"豹の足"たちは生贄として連れて来られたのだった。



 

歴史的背景
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日本では「世界四大文明」(メソポタミア・エジプト・インダス・黄河)とよくいわれる。

 

これらは、
*大河流域の肥沃な大地にあり
*大規模灌漑が大きな人口を支え
*統一国家
*金属器の使用
*文字
などの共通点があると言えばあるのだが、実は日本以外ではあまり重視されていない。なぜなら、世界では他にも古代文明圏があるからだ。映画の題にもなっているマヤ文明やアンデス文明といったアメリカ大陸の文明たちもそうなのだ。※2.

 

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ここで覚えておかなくてはいけないのは、マヤ文明は北中米(現在のメヒコ・グアテマラなど)、アンデス(インカ)文明は南米(ペルー、ボリビアなど)と場所が違うことである。

 

マヤ文明は紀元前よりはじまり、300年~900年頃に最盛期を迎え、スペイヌ人の進出により滅亡した。(ここに私が書いているのも何千年という歴史のうちからてきと~に抜き出してるので、そこんとこヨロシク☆)

 

マヤ文明は先に挙げた「四大文明」とは違い、
*金属器を使わない「石器文明」
*牛や馬など大型家畜動力の不使用
*非大河灌漑文明
*統一国家なしの複数の都市国家共存
という特徴がある。※3.

 

また、暦・算術・天文学の発達が目覚しく、インダス文明とならび「ゼロの発見」を行い、マヤ暦の月齢日数は実際の月齢の近似値を出していた。これは雨季と乾季がハッキリしていたため、雨季を着実に計算して農作を行わねばならない、という事情が生んだものだろう。

 

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例えば、上のピラミッドの左側の階段は、蛇がのたうっているように見える。これは偶然の産物ではなく春分の日と秋分の日だけ太陽が階段にあたって影が蛇の胴体を描くように設計されている。※4.

 

これを設計するには階段を真北から17°だけ移動させねばならないのだが、マヤの人たちは知っていた。そして、このピラミッドの階段は91段×4面+頂上=365となり、一年の日数をも表している。また下のピラミッドは、これまた春分・秋分の日に真ん中の窓に太陽がおさまるという仕掛けになっている。
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マヤ文明では数十もの都市国家が競合していた。各都市国家は周辺を合わせると4万~10万という人口を持ち、江戸時代の各藩のようにあるいは統一以前のイタリアのよ~に並存していた。いっときは江戸幕府のような優越する力があっても、同時に薩摩や長州という対抗勢力もいたように完全な統一国家はできなかったようだ。

 

こうした高度な文明を築いたマヤ人くんたちだが、先述のように1000年前後にどんどん衰退していく。といっても何十もの都市国家が競合し合っていたので、他の文明や国家のように「ここでおしまい」というのはハッキリしていない。何しろ、「なぜ衰退したのか?」というのも明確にわかっていない。※5.

 

研究者によると衰退の理由はいくつか考えられる、
*気候の変化-8~10世紀にかけて降雨量が減少した
*森林伐採による環境破壊
*人口超過による食糧不足
*戦争による潰し合い

 

都市国家の中には低湿地帯のそばに建設されたものもあるが、雨季に降る雨水の貯水を水源としていた所もあった。200年にわたる降雨量の減少はこうした都市国家が崩壊する要素になったと考えられる。

 

マヤ文明の農業は焼畑農業で森林を破壊した。また、都市ではすべての建物や広場には漆喰が塗られていた。漆喰は石灰岩を焼いてつくるのだが、これには大量の薪が必要となる。下の絵はマヤ都市国家の復元図だが、建造物と足元にはすべて漆喰が塗られている。都市国家の建設に莫大な量の漆喰の使用=森林伐採が行われたことが想像できるだろう。

 

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なぜ建造物だけでなく広場や道にも漆喰が塗られたかというと、足元がぬかるんでしまうという理由だけではない。漆喰で防水された地面は微妙に傾斜がつけられており、雨水はこの傾斜により集められ貯水装置に貯められる。つまり、漆喰での舗装は水を得るための必要条件でもあった。

 

大量の森林が伐採されて禿山になると雨が降ったときに土砂災害や洪水が起こりやすい。また、土の栄養分が流されてなくなり、食糧生産の効率が著しく減少する。すると今まで養っていた人口を養うことができなくなり人口は減少する。

 

先述したようにマヤ文明では大型家畜はいない。※6.つまり、都市国家の建設や漆喰の舗装などは皆さん人力でおやりなのであつた。人口が減少すると都市国家の建設はおろか維持もできなくなる。人々の不満も溜まり、弱体化した都市国家は周辺から侵略の危機にもつながる。

 

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こうして衰亡・滅亡した都市国家は熱帯雨林の中に埋もれてしまい、森の一部と化す。上の写真に見覚えのある坊ちゃん嬢ちゃんもいらっしゃるかもしれんが、これは映画スターウォーズ第一作で共和国軍の秘密基地に見立てられたマヤ文明の遺跡さんであつた…。



 

物語の構成
映画の背景はスペイン人のアメリカ進出直前、つまり16世紀初頭におかれている。"豹の足"たちが連れて来られたような巨大都市国家は当時すでになかったといわれているが、全盛期のマヤ都市国家の再現が映像でなされている。

 

また映画中で行われる生贄についても「事実より残虐である」「一般のひとびとを拉致して生贄にはしない」等の批判もあったというが、マヤ文明についての詳細はいまだに不明であり明確なことはいえない。

 

映画中のエピソードが事実と合っていないこともあるだろうが、間違った事実を広めるというより、逆に私のようにこの映画からマヤ文明などに興味を持つひとが多いのではなかろうか。※7.



 

マヤ文明をホントに滅ぼしたのは
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そして、マヤ文明をホントに滅ぼしたのはスペイン人たちであった。スペイン人は1500年代からアメリカ大陸に進出、虐殺・略奪・原住民の酷使を行い資源を強奪した。17世紀にはマヤ人を含めた先住民の人口は1/10に激減したという。※8.※9.

 

1800年代にメヒコなどの中南米諸国が次々に独立するが、これもスペイン人移住者および子孫が中心であり、スペイン語スペイン文化はいまだにアメリカ大陸の中心だといってよい。

 

しかし、マヤ諸語をしゃべる800万人を筆頭に、現在マヤ文明の子孫である先住諸民族は千数百万人いらっしゃるという。この映画を観たお蔭で、こうした文明にチョッ
ピリ触れることができた♫


 

※1.メル・ギブソンは「ブレイブハート」でスコットランド独立を目指して戦ったウィリアム・ウォレスを主人公に(本人主演)、「パッション」ではキリスト処刑の日を克明に描いた問題作(全編アラム語とラテン語のみ)を制作した。アクション娯楽映画でスターになったが、監督作はいずれも歴史的事実を真面目に取り上げている。
※2.マヤ文明をふくむ中央アメリケの古代文明を「メソアメリカ文明」と称する。他には、オルメカ・アステカ・テオティワカンなどなど。
※3.マヤにも文字はあつたが、このマヤ文字は未だに解明されていないのだつた。
※4.んで、こりは単なる蛇でなくククルカンという神さま。
※5.もちろん、その後も一定の勢力を保ったマヤ国家もあつた。でなけりゃ映画の背景が成立せんでないの。
※6.南米のアンデス文明には、ラマやアルパカとかがいた。
※7.この映画が「事実と違う」にゃら、NHKの大河ドラマ「篤姫」はさしずめ「大空想非科学ドラマ」…。
※8.虐殺よりも、スペイン人が持ち込んだ天然痘などの病気に免疫のない先住民が病死した数が多い。
※9.これを補う労働力として、アフリカから1000万人以上ものひとを拉致して奴隷に…。